99 情報
思っていたよりも、帝城は人で賑わっていた。
帝城に入る門で再び金を払い、首輪で繋がれた四人を引っ張って中へ入っていく。
まずは情報収集だ。
休憩している石運びの一団がいた。
観察してみると、どうやら真ん中にすわっているガルド族の女がボスみたいだ。
しっかし、女の力で石運びとか、法術の力があるとはいえきついだろうな。
ま、ガルド族は日本人男性そっくりの部族で、見た目は女に見えないんだが。
ラッキーではある。
なぜなら俺も傍目にはガルド族の女にみえているはずで、同じ部族同士なら多少心も許すだろう。
思った通り、
「どうもー」
とかなんとかいって話しかけると、
「お! 珍しいね、ガルド族じゃないか! どうしたんだい? タバコでも吸うかい?」
やけに気さくだ。
「あ、どうも、いただきます」
タバコは苦手なんでほとんど吸ったことなどないんだけど、差し出されたパイプを無理して吸ってみた。
「げほごほげほげほおえええ」
……やっぱ厳しいわ、タバコ。
「うう~久々に吸ったからきついですね~」
「あ~禁煙してたのか、この辺じゃああんまりタバコは手に入らないからねえ。故郷にいたときはただみたいな値段で買えたもんだけど」
「へーそうなんですか、私はこっちの生まれでして……」
なんとなく雑談から入ってみる。
「で、私見ての通り奴隷商人なんですけど。こっちはもう先約はいっちゃたんですが、こっちのハイラ族の子供なんかどうですかね」
俺がシュシュの頭をポンポン叩きながらいうと、俺の計算通り、
「いや~、子供は今はねえ。そっちのたくましい赤髪の方ならぜひほしいが。見ての通り、私らの仕事は力仕事だから。いくらだい?」
「金貨三枚……といいたいところですが、さっきもいった通り売れちゃいましてねえ。明日引き渡しで……」
「そりゃ残念」
おや、シュシュが俺を見上げて睨んでるぞ。
いやいや別に本気で売ろうとしたわけじゃないのに。どうせ値段訊かれたら金貨三十枚とかいってふっかけて断らせるつもりだったし。
「で、私昨日帝都にきたばかりでわからないんですが、皇帝陛下が帝都にお戻りになったとか?」
ガルド族のボスはかぶりを振って、
「戻ったわけじゃないよ、新しい皇帝様が帝位につかれたんだとさ。ま、私ら庶民にはあんまし関係のないことだけど。でも戦はねえ。いやだねえ」
「ほうほう、じゃあ新しい皇帝陛下は今どこに住んでるんですかねえ」
「さあねえ。私らにはわからんよ」
「そうですか。実はこの子供の奴隷、兵隊さんたちならペット用で売れるかなーと思ったんですけど、兵隊さんたちが一番たくさんいるのって、どの辺ですかね?」
「ほらあの」
ボスは帝都中央にそびえ立つマゼグロンタワーを指差す。
高さ百二十メートル、円錐状のその塔は、下から見上げるだけでも圧倒されるほどの存在感がある。
「あの塔の周りに兵隊がいっぱいいるからいってみたらどうだい?」
やはり事前の情報どおり、マゼグロンタワーにセラフィがいる可能性が高いな。
……行ってみるか。
「ありがとう、ちょっと行ってみるよ」
「あんまり兵隊に話しかけないほうがいいと思うけどねえ。ピリピリしてるよ、奴ら」
それはそうだろう。
ラータの予定だと、今日か明日にでも帝都の北西の草原でヘンナマリ・ア・オリヴィア・アウッティが率いる第二軍・アウッティ騎士団連合軍と、ラータとヴェル・ア・レイラ・イアリーが率いる第三軍・イアリー騎士団との決戦が行われるはずなのだ。
その場に俺がいないのは悔しいが、俺には俺のやるべきことがある。
いったんその場を離れてアリビーナと相談することにした。
「さあて、アリビーナはどう思う?」
「そうですね……私としましては決戦が行われるのに合わせてセラフィ殿下を奪還すべきだと思います」
「俺もそう思う、しかし……決戦するのはいいけど、今日なのか? それとも、明日なのか?」
これは困った。
現代日本みたいに携帯電話や無線があるわけじゃなし、情報的には分断されちゃっているのだ。
一応、ラータからは決戦の日取りが決まったら伝える、と言われている。
戦争というのは、こちら側の都合だけで始められるものじゃない。
今回の目的は第二軍の殲滅なので、第二軍がこちらに有利な場所、せめてこちらに不利がない場所まで軍を進めて来るのを待ってから戦闘を始めなければならない。
兵力ではこちらが劣っているし、ヘンナマリの目的はミーシアが持つマゼグロンクリスタルと、ミーシア自身の命。ヘンナマリの性格と合わせて考えても籠城作戦や消極作戦はとらないはずだ、というのがラータの見立てだ。
俺は考えこむ。
ざっとみたところ、マゼグロンタワーを守る兵は五百ほど。
それもヘンナマリが掌握している第二軍の兵力じゃない。
兵隊たちが持っている盾の紋章は王冠と犬の紋章。
これは近衛兵の紋章だとアリビーナが教えてくれた。
「なあ、近衛兵たちが俺たちに寝返る可能性ってあると思うか?」
「可能性はあるとは思いますが、計算にはいれられないでしょう。近衛兵はほとんどが世襲で、皇帝陛下個人というよりも、ターセル帝国の皇室に忠誠を誓っている集団です」
うーん。
ヘッツ要塞と違って川を挟んだ城を攻めるわけじゃない。
俺一人でなんとかできなくもないかもしれんけど……。
「それにしても情報がほしいな……」
と、キッサが空を見上げて言った。
「その情報が飛んできたようですよ」
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