62 一応、序列ってもんがあるから、地位の順でいくか。
「ダリュシイの魔石によって命ず、我が敵は汝が敵なり!」
ハイラ族の手下が叫んだ。
次の瞬間、
「ガフッ!」
という唸り声とともに、三頭のフルヤコイラが俺の方を向く。
体高二メートル、六本の足を持った犬の魔獣。
鋭い牙をむき出しにして俺に敵意を向けている。
この世界に来て初めて闘った相手がこいつだった。
あの時は超びびったけど、今なら。
「あいつを殺せっ!」
手下の声とともに、
「ガウッ」
フルヤコイラたちは三頭同時に俺へと飛びかかってくる。
俺は硬貨を握りこんだ右手に意識を集中させる。すると、ライムグリーンの光の剣はムチとなった。
「おらぁっ!」
叫びながら腕を振ると、そのムチはフルヤコイラの身体をあっさりと捕らえる。
光のムチが身体を透過した瞬間、
「ガフッ? ガフ、ガフウン」
三頭のフルヤコイラはその場に倒れこみ、二度と動かなくなった。
「……は?」
驚きの表情を浮かべるハイラ族の手下、今度はそいつにむかってムチを振るう。
頭の中で、リューシアの最期の姿が思い浮かぶ。
殺したくは、ねえなあ。
でも、やらなきゃやられる。
すまん、こんな世界、こんな時代に産まれてきた運命を呪ってくれ。
ムチの先端が、ハイラ族の頭部をかすめる。
「ふはっ……」
次の瞬間、そいつは大きな息を吐き出したかと思うと、その場にばったりと倒れた。
「……っ! てめえ!」
首領が怒りの形相で俺に剣を向け、口の中でもごもごと何かを唱えた。
と、首領の剣が炎で包まれる。
他の手下も俺に向けて武器を構えた。
「エージ、矢がくるわよ!」
ヴェルの声、なるほど二時方向から青白い光に包まれた矢が俺に向かって飛んでくる。
「うおぁぁぁ!」
叫びながら右手をかざすと、さきほどまでムチだったライムグリーンの光が、今度は半径数十メートルはあろうかという扇形になる。山賊の集団すべてを覆うに十分な大きさだ。
「まとめてやってやるぜ!」
仰ぐようにしてその扇を山賊たちへと振り下ろす。矢はあっさりと消失し、山賊たちの法術もすべて無効化されて雲散霧消した。
リューシアや飛竜に比べると、この山賊たちの力なんて子供同然だ。
「な……んだ、これ……」
首領は、そう呟いた直後、ライムグリーンの光で包まれた。
光の扇が消え去ると、あとに残ったのは地面に倒れる十五の身体と、静寂だけだった。
一分もかからなかった。
まさに瞬殺。
我ながら自分の力に驚く。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
肩で息をする。
木々が生い茂る山中の街道。
馬車に繋がれた馬が、ヒヒン、といななく。
遠くで魔獣のものではない鳥の鳴き声が聞こえる。
たった今、ここで殺し合いがあったとは思えないほどの長閑さだ。
まあ、目の前には人がごろごろと転がっているんだけど。
敵だけじゃなくて味方までもが地面に転がって悶絶してるんだけど。
「うううううあのあのあのあのおわおわおわったらぜぜぜぜひひひひおねねねがいひます、ふひぃふひぃ……」
夜伽三十五番が、もう我慢できない、といった声をあげた。
あ、そうだ、こいつらは今副作用で苦しんでいるんだった。
シュシュを除く四人は、粘膜直接接触法の禁断症状に襲われている上、俺から思い切り蹴飛ばされたのだ。
彼女たちはカタカタと身体を震わせながら地面をのたうち回っている。
もちろんヴェルもそうなのだが、この状態でもきちんと矢が飛んでくるのを把握して俺に教えてくれたのはさすがヴェル、としか言いようがない。
うーん、とりあえず、一応、序列ってもんがあるから、地位の順でいくか。
……すまん、夜伽三十五番、お前は一番最後だ……。
とりあえずミーシア、ヴェル、キッサ、三十五番の順序で、縛られたままの彼女たちを抱きあげ、口づけをしていく。
ちなみにヴェルにキスをしたあと、彼女には頭突きをくらった。
まあ自業自得だから、仕方がない。鼻の奥がジンジンするぜ。
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