50 すんごいジト目

 キッサのはピンク色の甘い液体が流れこんでくる感覚だったが、こいつのは違う。


 これは、溶岩だ。


 煮えたぎった溶岩が、ドバァっと俺の中に流れ込んでくる。


 キッサからもらったマナの量の比じゃない。


 これはやばい。


 こんなの一気に体内にとりこんだら、俺の頭がまじでおかしくなる。



「ぶはっ! ちょっとストップ……」



 いったん身体を離そうとするが、



「途中でやめるとロスが出ますからもったいないですよ? 途中でやめてはいけないと仕込まれてます」



 そう言って三十五番は俺のほっぺたを両手で挟みこんで動けないようにすると、さらにくちづけをしてくる。


 少女のボリューミーな唇の肉が、はむはむと俺の唇を噛み、さらには長い舌が俺の口の中に入り込んで、俺の舌を追いかけ回す。


 彼女の舌粘膜が時計回りに回転して、俺の舌粘膜をレロレロと撫で回す。


 そのたびに、ドクン、ドクン、と奴隷少女のマナが俺に流れ込んでくるのがわかった。



「んは……んふ……んれろ……んちゅ……」



 三十五番が吐息を漏らしつつ、さらに俺の中へとマナを注ぎ込む。


 俺の脳みそと身体はもう、ドロドロの溶岩でいっぱいだ。


 しかし、こいつ、キッサよりも舌の動きに無駄がある。


 たまに舌先で俺の上顎の中をチロチロなめてみたり、歯の裏をなぞるようにしてみたり。


 そのたびに俺の背中にゾクッと快感の震えが走る。


 いや快感ってなんだよ、そういう目的のアレじゃないんだけどこれ。


 ……夜伽専門の奴隷として仕込まれたっていうんだから、ソレ系の技術なんだろうけど、はっきりいって経験皆無の俺にはちょっと刺激が強すぎる。


 気持ちいいというよりも、体の中に手をつっこまれてかきまわされてるかのような、なんというかめちゃくちゃにされてる、って感じ。


 ただ、しばらくその刺激に耐えていると、彼女が送り込んでくるマナの量が、だんだんと少なくなってくるのがわかった。


 よかった、そろそろ終わりかな、と思った時、ぷはっ、といったん口を話して奴隷少女は言う。



「あと少しだけ、残っています。ちゃんと揉み込んで絞って下さい」



 そう言ってまた口づけをしてくる。


 違うのは、彼女の手が、今度は俺の手をつかんで――自分の胸へと。



「んちゅ……揉んで下さい……マナがここに少しまだ残っているので……んれろ……」



 えええええ?


 しかし、まあ、うん、これは儀式だ、マナを受け取るためにやらなきゃいけないことなんだ、だからしかたないんだようん。


 などと思いながら、言われた通り、マスクメロン並みにでかいその物体を揉み込んでやる。



「え、そんなの聞いたことないですけど……」



 というキッサの呟きが聞こえてきた気がするけど、聞かなかったことにする。


 メロンは、とてもよく熟していて。


 たぷたぷで、もちもちだった。


 そこにそれが本当にあるのかどうかを疑ってしまうほど柔らかく、でも芯のほうにはちゃんと弾力があって――


 口の方では相変わらず三十五番の舌が、俺の舌を嬲り続けている。


 なるほど、揉むたびにドク、ドク、と俺にマナが流れ込んでくる、ような気もしないではない。


 と。


 突然、カクッ、と奴隷少女の膝が折れた。


 キッサで学習していた俺は、彼女が床に倒れこまないように腕で支える。


 これ以上は俺も彼女もやばいと思ったので、なおもくっつけてこようとする唇を離す。


 俺のと三十五番のとが混ざり合った唾液が糸となって俺と彼女とをつないだ。


 それもすぐに宙に消え去る。



「はぁ、はぁ、おい……。大丈夫か?」


「……あ、はい……」


「自分で立てる?」


「あ、はい……。……いえ、申し訳ございません、無理なようです。このまま床に打ち捨ててください」


「んなことできるか」



 俺は少し腰を沈め、彼女のお尻のあたりをしっかり両手で抱えると、



「よいしょ」



 と持ち上げ、そのまま歩いて、キッサから少し離れた場所の壁際に座らせた。


 お姫様抱っこも一瞬考えたけど、多分こっちのが楽そうだったしな。


 ってかお姫様抱っこするとまたキスしてくるんじゃないかと思ってちょっと怖かった。


 これ以上は彼女の命を危険に晒すことになるし、俺の理性も、もたない。



「第五等準騎士、タナカ・エージ。気分はどうですか?」



 気持ち、若干怒ったような口調で、女帝陛下が俺に訊いてくる。


 キッサがすんごいジト目で俺を睨んでいるのが目の端に映った。



「気分はともかく、確かにマナは補充された気がします」



 実際、リューシアや飛竜との戦闘で枯渇しきったはずの俺のマナが、今は俺の身体の中を血液と一緒に多量に循環しているのを感じる。



「そうですか……。言いたいことはイロイロありますが、それどころではないのでまたあとで。さあ、では、いまその二人から受け取ったマナを、私がマゼグロンクリスタルによって増幅させます」



 見ると、ミーシアの顔はかなり青ざめている。


 無理もない。


 たった十二歳の女の子にすぎないこの女帝陛下に、俺たちはとんでもなく卑猥なキスシーンを見せてしまったのだ。


 その上。


 この女の子は、今度は同じことを俺としなきゃいけないのだ。


 ある程度の身分を持たない人間には、自分の身体に触れることも許すことができない、この国で最も高貴な生まれの少女は、そのためだけに俺の身分を第八等から第五等に昇進させたのだから。


 ミーシアの身体はこわばって少し震えている。おかっぱの黒髪の先までその震えは届いていた。


 深く輝く黒い目を見開き、硬い表情で、第十八代ターセル帝国皇帝、ミーシア・イ・アクティアラ・ターセルは、俺にこう命じた。



「さあ、我が忠臣タナカ・エージ。私にマナを捧げなさい」



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