29 縛ってあげようか?



 集落の一番はじ、木造のそう広くもない家のドアを叩く。


 ドアの覗き窓が開いて、そこから黒い目が俺たちの姿をぎょろぎょろと睨め回す。



「なんだい、よそ者かい? こんな夜中に迷惑だね。ここには泊まる場所なんてないよ」


「ヘルッタ、あたしよ、ヴェルよ!」



 ヴェルがフードをとって顔を見せる。



「まあ、ヴェル様!?」



 すぐにドアが開いた。



「まあまあ、ヴェル様! 心配してたんですよ! よかった、ご無事だったんですね!」



 ヘルッタは見たところ、四十代にさしかかったくらいの女性だった。


 黒髪と黒い瞳、ミーシアと同じ民族なのかもしれない。



「帝都の方角が赤く燃えて……大きな音もするし、魔物は飛び回っているようだし……何事があったのかと心配してたんですよ! ……こんな、奴隷みたいな格好して、なにかあったんですか?」


「あとで詳しく話すわ。身体が冷えてるのよ、あったかい飲み物か食べ物もらえるかしら?」


「はいはい、ただいま。お連れ様もどうぞ! あ、そのローブはお預かりしますよ」



 ヘルッタがヴェルのローブに手をかける。


 ヴェルはこういうのに慣れてるようで、「うん、頼むわ」と言ってヘルッタにローブを脱がさせる。


 っておい。


 お前、自分が今どういう格好しているか、忘れてるだろ。


 俺の目の前でローブを脱がされるヴェル。


 当然その下は素っ裸なわけで。


 うわあ。


 アホすぎるぞ、いきなり裸になりやがったこいつ。



「ひゃっ!?」



 ヘルッタが声を上げる。



「ぃゃぁっ、あははっ、うふふっ」



 ミーシアは嬉しそうな声。



「馬鹿ですね」



 キッサは冷静に言い、



「騎士しゃま、お風呂入るの?」



 シュシュは首をかしげて言った。


 ついつい裸になってしまったヴェル本人は、一瞬自分がどういう姿になっているのか理解できなかったようで、〇・五秒ほど俺たちの顔を不思議そうに見たあと、



「ふわぁっ!?」



 膝を抱えてしゃがみこんだ。


 うん、しゃがみこんでもさ、二の腕と膝のあいだ、脇の下から柔らかそうな胸のお肉がふにっとはみ出てるのが見えてるよ、エロいよ、くっそ、超エロいよ!


 うん、ばっちり見えました!


 騎士様、ありがとうございます。


 西の塔で着替えた時、頑張って死守してたバストの先っぽも、丸見えでした。


 なかなかこじんまりした感じで、寒さからかきゅっとすぼまっていて、かわいらしゅうございました。


 あと、下のお毛毛もあれですね、金髪なんですね、薄かったし、一瞬パイパンかと思いましたよ。


 ありがとうございますありがとうございます。



「ちょっとエージ! なに両手合わせて拝んでんのよ! あんたはあっち向いてなさい、あっち! なんか知らないけど、あんたに見られるとこう、……おかしくなるから!」



 あーはいはい、いやいやありがたやありがたや。


 俺は手を合わせたままくるりと後ろを向く。


 ヘルッタは動揺した声で、



「……ヴェル様、どういうことですか、これ……」


「いいから! ヘルッタ、着替え、着替え!」


「ね、ヴェル、縛ってあげようか?」


「ミーシアは黙ってて!」



 どこに行ってもこいつらはうるさいんだな……。




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