18 全裸緊縛少女
「すっげえええええ!!」
思わず俺は叫んでいた。
塔の頂上で空を見上げると、満天の星空がそこにあった。
星が降ってくるような、という表現がぴったりだった。
東京みたいに街の灯りが邪魔することもなく、その光を存分に輝かせ煌かせている星たちが、俺達を包み込んでいた。
当たり前だけど知っている星座はない。
月も出ていない。
そもそもこの世界に月があるのかどうかはしらないけどさ。
とにかく俺は今、またたく星の光のシャワーに全身を打たれている。
星の光が本当に質量を持って俺の身体に降り注いでいるようにも感じる。
もう、感嘆の声しか出ない。
「ね、ここ、いい場所でしょ?」
ヴェルが自慢気に言う。
「うん、ここすごくいいよ! こんないいとこ秘密にしてたなんて!」
ミーシアも少し興奮して言った。
俺は周りを見渡す。
どうやらこの帝都は円形の城壁で囲まれ、その中にさらに円形の城壁があって、その中が帝城になっているらしかった。
帝都は直径十キロ、帝城部分は直径一キロというところか。
俺達はその帝城の中の、西側にある古びた見張り塔の上にいるわけだ。
「ほら、エージ、あれがマゼグロンタワーよ」
ヴェルが指差す。
そちらの方向を見ると、なるほど、王城の中心に一本の塔がそびえ立っていた。
今俺達のいる塔の高さが十五メートルほどだとして、そのマゼグロンタワーはそれよりもはるかに高い。
「高さ百二十マルト。この大陸で最も高い人口建造物よ。ターセル帝国のある意味象徴ね」
一マルトはだいたい一メートルと同じだということは、酒飲んでいる時にキッサに聞いて確認している。ちなみに一カルマルトが一キロメートルと同じくらいらしい。
つまり、百二十メートルの高さということか。
「マゼグロンタワーの頂上にはね、皇帝しか立ってはいけないことになってるの」
なぜかヴェルが胸をはって誇らしげに言う。
「すげえな。皇帝陛下はあのてっぺんに住んでいらっしゃる……?」
俺が訊くと、ミーシアが答えて、
「まさか! ふふ、あんなとこ、年に二回の儀式の時くらいしか上まで登らないよ。階段だから、はっきりいって死ぬかと思うけど。昇降機あるんだけど儀式だから階段登らなきゃいけないの」
確かにあの塔を階段で登るとなると、もはや軽い登山だ。
華奢な身体のミーシアにとってはほんとに死ぬ思いだろう。
「私はね、あのマゼグロンタワーの根元の、ほらあそこ、ちょっと立派な建物があるでしょ? あそこが私の住居」
もう真夜中に近い。
暗くてよくわからないけど、星明かりを頼りに目を凝らす。
ミーシアが指差す先には、確かにバロック建築風の豪奢なでかい建物があった。
「でね、あのへんがさっきまでいたヴェルの居室。あそこがエリンの住居。でねでね、あのへんが近衛兵の駐屯所になっていて……」
ミーシアが指さして俺にいろいろと教えてくれる。
「すげえな……。この王城全部が皇帝陛下のために存在しているようなもんだもんな……」
ひとりごとを呟く。
「そうよ。これぜーんぶミーシアの物なの。あのタワーも、あの宮殿も、この城もこの帝都も全部ミーシアの所有物なのよ」
「やめてってば! そういうこと言われると怖くなるの!」
奴隷用のローブを身にまとい、奴隷用の首輪をした第十八代ターセル帝国皇帝陛下は、その小さい体躯を自分で抱いて、ぶるっと震える。
「ヴェルってばエリンと同じようなこと言わないでよ」
「ごめんごめん、怒っちゃだめよ、ミーシアちゃん」
ヴェルは気軽にミーシア陛下の頭をポンポンと叩く。
俺にはもうバレてるからいいと思っているのか、この二人、皇帝と臣下の騎士の言葉遣いじゃなく、ただの親友同士の話し方に戻っている。
しばらく三人で星空や景色を眺めたあと。
ふとミーシアが言った。
「じゃあ、やってみようか?」
あー。
えーと。
ほんとにやる気なのか、この十二歳皇帝陛下。
「あのね、ヴェルね、縄とか持ってきてるでしょ?」
「まあ、一応ね……」
「じゃ、私今、ここでパパっと裸になっちゃうからさ、私のこと縛って」
ひえ~~。
まじでやるのかこのドM露出狂ロリ女帝。
ヴェルも困ったような顔をして、
「うーん、ほんとに? ここは使ってないから誰もいないけど、ほら、あそこの新しい方の塔には見張りも立っているし、多分暗視とか遠視の法術持ちがいるんじゃないかしら。見られない、とは限らないわよ」
「えーだめなの?」
といいつつも、すでにローブを脱ぎ始めているミーシア。
気がはええよ!
どんだけ裸になりたいんだよ!
「あの人たち、どうせ私の顔なんて知らないでしょ。衛兵に第五等以上の者がいるとも思えないし。見られて咎められたところでヴェルが奴隷をいじめてたってことにすればいいよ」
「いやそれじゃあんた、衛兵に裸見られてることになるじゃない」
「それって…………。すんごい、ことだよね……」
凄みのある笑顔でぶるっと震えるミーシア。
さっきのとは違って今の震えは明らかに快楽の予感の震えだった。
変態め。
ヴェルも呆れた表情をしながらも、
「ま、ミーシアがそれですっきりするってんなら、協力しないでもないわ。ほらエージ、あんたごときが陛下のお身体を拝見するなんてありえないんだから、そこの階段の下で待機してなさい」
「へいへい……」
残念。
十二歳の黒髪おかっぱ全裸緊縛少女、見たかったのに。
でもさすがにそれを見るとヴェルに問答無用で殺されそうだ。
そのときだった。
塔の下から叫び声が聞こえた。
入り口で見張っていたキッサの叫びだ。
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