魔法少女と星を喰らうモノ

「話は以上ですが、何か質問はありますか?」

「もしもですが、封印されていた魔物を倒すことでしか解決出来ない場合、どうしますか?」


 話を聞いた限り、再封印するのが妥当だが、そんなことを魔女が許すとは思えない。


 魔女なら封印出来ないように何か細工をしていてもおかしくないだろう。


「――そんな事態は考えたくありませんが、策はあります…………とだけ言っても納得しないですよね?」

「出来るなら、教えていただけると助かります」


 ――教えてくれと言ったが、どうするのか見当がついている。

 楓さんが話したくない理由も分かるが、本人の口から聞いといた方がいい。


「妖精と連携し、妖精界の一画を隔離し、そこに私と魔物を送り込みます。そして、魔物を討伐した後に、魔力を全て私が吸収します」


 楓さんの能力は召喚だが、その対象は多岐に渡る。

 魔法少女の武器や能力なんかも召喚? 出来るのだ。


 つまり、桃童子さんのあれを楓さんは再現できてしまうのだ。


「楓さんが助かる可能性は?」

「ゼロでしょうね。ですが、そうすれば魔力の処理は出来、汚染も最小限に抑えられます。自爆したとしても、私ならなんとか出来ますからね」


 楓さんひとりの犠牲で救われる。

 魔法少女としては正しいことだろう。


 日本の戦力は落ちるが、アロンガンテさんが居れば立て直しも可能だ。


 取れる手段の中では、一番良い手段だろうが、これには問題がある。


「仮にですが、他にも魔力をばら撒く魔物。天使などが出た場合はどうするのですか?」

「倒せる方にお願いするしかないでしょう。それが私たちの務めですからね」

 

 多少の犠牲は仕方ないか……。

 小出ししてくれれば良いが、一斉に動かれた場合、俺は魔女の相手をしなければならない。

 それが契約であり、俺がやらなければいけない事だ。


 出来れば全てを俺が受け持ってしまいたいが、流石にそれは無理だ。


 どうなるかは分からないが、楓さんには恩もある。


 出来る事なら何とかしたいが、先ずは魔女を倒してからだ。


「そうですか。色々と話を聞かせて頂き、ありがとうございました。魔女の方は私がどうにかするので、その点だけは任せてください」

「出来ればイニーの事も話してほしいのですが、今日はこの辺にしておきましょう。だいぶ時間も経ちましたからね」


 楓さんと話し合いを始めてから、既に2時間くらい経っている。

 途中で珈琲をもう一杯頼み、軽く摘まめる物も頼んだ。


 糞甘い栄養バーだけを食べていたので、しょっぱい物が美味しく感じた。


「それと、此処での話は他言無用でお願いしますね」

「話す相手も居ないので大丈夫ですよ」


 他言無用だが、俺に話すだけで3人? に筒抜けとなる。

 まあ、人ではないので問題ないだろう。


 若干楓さんが同情的な視線を向けてきたが、用事を終えたので帰るとしよう。


「それでは私は帰ります」

「はい。身体にはお気をつけて」


 個室から出て、会計をアロンガンテさんから貰ったカードで済ませる。


 廊下の隅で転移をして、再びジャンヌさんの仮眠室に帰ってきた。


(それで、追加の情報は?)


『そう急かさないでよ。楓が話してくれたおかげで、やっと封印されている魔物関連の制約が外れたんだから』


 その制約のせいで知りたい情報が中々入ってこなかったのだが……全く、面倒なものだ。


 アルカナ側が下手な事を言って危機感を煽らないようにするためだろうが、こっちからしたら取れる手段を減らされると同意義だ。


 ベッドに潜り込むとアクマは同化を解除して、冷蔵庫からリンゴジュースを取り出して飲み始めた。


 そう言えばアクマもここ最近、ジュースを飲めていなかったな。

 飲まなくても死ぬわけではないが、嗜好品は精神の安定には必要だ。


「さてと、魔物の説明の前に少し世界の在り方について説明するね」

「世界の在り方?」


 並行世界だが異世界だかの話は聞いたが、今更か?


「原初の世界。分かりやすく言えば木の幹だね。そこから枝が伸びて、更に葉がある。この枝や葉が所謂並行世界。違う木が異世界だね」

「その辺は覚えていますね」


 枝や葉が枯れても、他への影響は微々足るものだが、幹を伐採されたら全て枯れてしまう。

 魔女の目的は、この幹を伐採することだ。


 私怨から始まることらしいが、傍迷惑極まりない。

 既に数えきれない程の世界が滅んでいるが、幹さえ無事なら掠り傷程度だ。


 まあ、その掠り傷も増えすぎると出血死することになるのだが、魔女はそれも狙っているのかもしれない。


「枝分かれしている関係で、世界ごとに共通している点があるんだけど、それがこの世界では封印された魔物と言われている、”星喰い”だよ。木で言えば寄生虫だね」

「寄生虫という事は、魔力と関係があるのですか?」


 他の世界のことは知らないが、この世界には元々魔力なんて物は存在しなかった。

 そこから考えれば 魔力と何かしら関係あると考えられる。


「うん。この世界で言えば魔力に対して抵抗力を持った存在が魔法少女だね。他では冒険者や騎士と呼ばれてたりするけど、今は割愛するよ。魔女はこの魔物に相乗りするような形で自分の分体を他の世界に送っているんだ」 

「それは星喰いが複数いるのか、それとも増えているんですか?」


 似たような意味だが、子供みたいに増えるのか、星喰いが複数存在しているかでは色々と異なる。


 子供みたいに増えるのならば、1つの世界に複数現れる可能性がある。

 世界毎に1匹が紐付けされているならそんな心配はないが、増えるのならどうしようもない。

 

「増えはするけど、互いに干渉しあっているから、世界には1匹しか現れないね。どの世界にもそれなりの強者がいるから、魔物だけなら対処できていたけど、そこに魔女が増えたせいで、全戦全敗だね」

「これまでやられたことを考えれば、妥当ですね」


 聞いているだけで面倒だと思える魔物に、悪辣な魔女が加わればどうしようもない。


 これまでも何度も襲われているが、毎回死んでいる様な状況だ。


 本当に奇跡的に命を繋いでいるが、まともに勝てた事はほとんどない。

 特にイギリスとあの洞窟は確実に殺しに来ていた。


 何か1つでも俺の手札が少なければ、確実に死んでいた。


 …………実際オーストラリアでは死んでいたが、あれは仕方がないので、ノーカウントだ。


「本来ならそんな事をすれば管理者。所謂神が介入するんだけど、それが出来ないわけがあるんだ」

「イブもその事については少し話していましたが、結局どうしてなんですか?」


 進化は許容するが、変異は駄目と言っていた。

 魔女のやっていることは許容範囲外だと思うのだが、どうして大丈夫なのだろうか?


「魔女の魔法が関係しているんだけど、魔女本人はただの人なんだ。その代わり、星喰いの方に相乗りしている分体の方が特殊なんだ。魔女の本体は別次元で眠りにつき、魔法で作られた分体が行動を起こしているから、認識上は人になるんだ」

「その星喰いがいない世界も、滅ぼされていると聞いていますが?」


 今の話なら星喰いのいない世界は安全な筈だが、記憶が正しければ、星喰いがいない世界も滅んでいると言っていた気がする。


「そこが少し厄介でね。この世界で言えば、地球には居ないけど、月に魔物が居るって感じかな。直接星喰いが干渉することはないけど、星喰いが何処かにさえ存在していれば問題ないみたいだよ」


 ……うむ?


「確認ですが、魔女は星喰いが居なくても、世界。要は宇宙を崩壊させられるのですか?」

「少しややこしいから省くけど、星喰いが世界の何処かにさえ存在していれば、魔女は世界を滅ぼせるよ。逆に言えば、星喰いを処理できれば、魔女が世界を滅ぼすのは難しくなる」


 難しいだけで不可能ではないわけか。


 多少理解は出来たが、全て理解する必要もないな。

 裏の事情を知ったところで、俺のやることは変わらない。

 たが、聞いておかないといけないこともある。


「仮にですが、魔女だけ、あるいは星喰いだけを倒した場合どうなりますか?」

「そこも問題があるんだよね。片方だけを生かした場合、新たに現れるよ」


 …………つまり、楓さんが言っていた再封印は端から出来ないわけか。

 それくらい早めに教えて欲しかったが、愚痴を言ったところで無意味だ。


 ただ、こんなことを最初から知っていれば、今以上に頭を抱えていたな。


「猶予はどれくらいですか?」

「全く分からないね。なにせ、その前に全部負けているから」


 アクマ自虐気味に笑い、リンゴジュースを呷った。


 最初位はまともに戦えているのだと思ったが、この様子ではまともな戦いになったのはほとんどなさそうだな。

 今の状態を善戦と呼んでいいのか分からないが、俺ひとりで戦っていることを考えれば、上出来と呼んでも良いだろう。


 ただ、あと半分メンバーが残っているのに、星喰いは既に向こうの手に落ちている状況は、詰みな気がするのだが……。


「魔女は分体と言っていましたが、やはり個体毎に差はあるんですか?」

「そうだね。能力差はないと思うけど、性格にはかなり差があるね。こちらを認識したらすぐに行動を起こすこともあれば、今回みたいに策を練ってくることもあったよ」


 分体が特殊と言っていたが、記憶の並列化はしているくせに、個としても存在を確立している。


 これの厄介なところは、同じ作戦は通用しないし、戦う度に此方が不利になっていく。

 勝った先の未来を考えるのは好きではないが、やはり手札は増やしておきたいな。


「因みに魔女の正体は?」

「それは、本人が姿を現したら教えるよ。過去のことも合わせてね」

「そうですか。しかし、星喰いですか……どうしてそんな名前に?」

「本当の名前は違うけど、ハルナに馴染み深い名前に変換されてるんだよ」


 世界が違えば言葉が違うように、アルカナ側とこの世界でも齟齬があるのだろうが、妖精の魔法と同じ用に分かりやすく翻訳されているのだろう。

 

「確かに直球で分かりやすいですが、この世界での名前はあるんですか?」 

「無いね。固有名詞を付けないことによって、危機感を煽らないようにしているみたい」 


 そう言われてみれば、これまで星喰いに関して気にしたことはほとんどなかったな。

 教科書でも軽く触れられているだけで、名前がないため記憶にほとんど残っていない。


 北極については魔力汚染のため、情報を得る手段が極めて少ない。

 楓さんの管轄となっているため、楓さんが黙っている限り他が知る術はない。


 おそらく各国の首相には知らせるのだろうが、魔女の出方では、また混乱することになるだろう。

 奪われた瞬間に解放されていたら、手の打ちようがなかったが、今も沈黙を保っているのを考えれば、何とかなる可能性はある。


 最悪でも1週間は時間が欲しいが…………。


「概要については分かりましたが、星喰いの戦闘能力はどうなのでしょうか?」

「一番近いのはM・D・Wかな。ただ、外殻と内殻に分かれてて、外殻の時は遠距離の魔法が厄介で、内殻では魔法によって放出系の魔法が使えなくされるよ」


 ひとりで戦うのは、不可能と言うことか。


 外殻時は魔法で戦うのが一番効果的であり、内殻の時は接近戦をするしかない。

 遠近共に強い魔法少女など数える程しかいなく、ひとりで戦えるとすれば楓さん位なのだろう。


 後は、アルカナを解放した俺か。


「なんとも面倒ですね。一番良いのは、同時撃破ですか?」

「そうだね。それが一番確実だと思う。問題は、残っている幹部たちかな」


 星喰いと魔女のみならば、俺と楓さんで何とかなるかもしれないが、残っている破滅主義派に暴れられてはたまったものではない。


 薬を使われたら、単独で勝てる魔法少女はおそらく居ないだろう。

 レンさんとブレードさんなら何とかなる気もするが、それも絶対とは言えない。


 将来を考えれば犠牲を出すのは愚策であり、少人数で事に当たるのが良いだろう。


「レンさんとブレードさん位ですか?」

「後はロシアとアメリカの1位かな。勝てるかどうかは別にして、負けることはないと思うよ」

「人数的には問題ないですが、魔物もどうせ使って来るでしょうからね。私たちが倒してきた魔物が全部とは思えませんから」


 洞窟ではオーストラリア以上の魔物を倒しているが、あれだけで終わりとは思えない。

 流石にSS級の数は減っただろうが、それ以下はまだまだいるはずだ。


 希望的な未来が見えないが、アルカナたちはこんな中で戦ってきたのか。


「これまでの契約者たちは、星喰いや魔女の情報を聞いた時、どう反応していましたか?」

「マチマチだけど、みんな絶望してたよ。でも……それでも、最後まで戦ってたよ」

「最後までですか。なら、私は終わらせましょう。どうせ私が負ければ終わりなんでしょうからね」


 アクマは俺と一緒に死ぬと言っており、エルメスも同じことを言っている。


 そうなった場合、残りはイブと行方不明の囚われているサンだけだ。

 この戦力では、勝つのは無理だ。


 俺自身も無理とは思われているが、そんなことは知った事ではない。


「そうなると良いんだけどね」


 アクマの苦笑いが、妙に印象的だった。

 

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