魔法少女と崩壊した魔法局(物理)

「お帰りなさい」

「戻りました」


 拠点である家に転移すると、レンさんがリビングで寛いでいた。


 テーブルには紅茶が入ったカップが2つ置かれている。


 珈琲派なのだが、仕方ない。

 

「先ずは私から話すわね。破滅主義派のロザンヌが現れて、レスター魔法局が半壊。ついでに街がちょっと凍ってしまったわ。死傷者は数人だけど、怪我人が多いから、この後宜しくね」


 死傷者が少ないのは良い事だが、それってつまりは、今イギリスの魔法局の1つが機能してないって事ですよね?

 更に言えば、半壊の原因はロザンヌにあると言っているが、どうせレンさんも関わっているのだろう。


 アロンガンテさんが胃を痛めてそうだな。


「分かりました。レンさんは怪我とか大丈夫ですか?」

「見ての通りよ。怪我も汚れもないわ。イニーはどうだったのかしら?」


 さて、どこから話したものか……。


 リンデの事は話さないとして、最後にリンネと話したことも言わなくて良いだろう。

 

「転移したところ、転移先を書き換えられ、破滅主義派のメンバーに待ち伏せされました。なんとか倒すことが出来たのですが、結界を壊してしまい、余波で山の一部が吹き飛びました」

「イニーもやっちゃったのね。でも、3人も倒せたのはお手柄よ。名前は?」


 ”も”と言っている辺り、やはりレンさんもやらかしているようだ。


「ナタリア。エレオノーラ。エラクスの3名です。確実に止めを刺しているので大丈夫です」

「そう。私は逃がしてしまったけど、そっちは大丈夫だったみたいね。アロンガンテには私から報告しておくから、レスター魔法局の負傷者をお願いしてもいいかしら?」


(アクマ)


『確認したけど、芸術性の高い壊れ方をしていて、尚且つ凍っているね。外で炊き出ししたり片づけをやっているよ』


 早めに行って手伝った方が良さそうだな。


「分かりました。アロンガンテさんに宜しく言っておいて下さい」

 

 紅茶を飲み干し、一礼してからアクマに転移してもらう。


(確かに凄い状態だな。それに、変身しているはずなのに寒さを感じる)


 魔法局の建物はバラバラに吹き飛んだ状態で、空中で静止するようにして凍っている。

 現在、上の方から魔法少女が解体作業をしているようだ。

 

「すみません」

「はい……あっ、イニーフリューリングさんですね。案内しますのでどうぞ」


 その辺で忙しなくしている職員を捕まえると、そのまま仮設の病院らしき場所に案内された。


 仮設らしいが、見た限りでは仮設とは思えないな。


 ……ああ、妖精界から持ってきて魔法少女の力業で組み立てたのか。


「収容されているのは巻き込まれた一般人や職員が大半となります。状況が状況なので、魔法少女の方を優先して治していました」


 一般人の治療も大事だが、ああなってしまえば、先に魔法少女を治しておかないと、後が大変だからな。


 合理的だろう。


「分かりました。居るのは外傷の方のみですか?」

「はい。一部屋6人程度に分けて寝かせてあります。大小様々な怪我ですが、宜しくお願いします」


 出来れば大部屋に集めて一気にやりたいが、集められているのが一般人となると、そんな事は言えないな。


 魔法少女なら痛みにも強いだろうから多少の無理を言えるが、腕が折れただけでも大怪我なのが一般人だ。

 

 ……いや、一応魔法少女でも大怪我の部類だが、ほとんどの魔法少女は腕が折れた程度では泣き喚いたりしないだろう……多分。


 手前の部屋に入り、順番に治療していく。

 流石にフードを被って顔を隠していると警戒されるが、ほとんどの部屋には治療をしている職員がおり、すぐに理解を得ることができた。


 出来なくてもサッと入ってサッと出ていくので、問題はなかった。


 一通り治療を終えて外に出ると少しずつだが解体作業が進んでいた。


 ついでに仮設の小屋や、テレポーターらしきものが鎮座したりしている。

 ああ、折角だし山を吹き飛ばした件を報告しておくか。


 直接バイエルンさんに報告しても良いが、ちゃんと魔法局どうして連携を取れているかの、確認にもなるはずだ。


 後でバイエルンに聞いて報告が行ってなかったら、レンさんがまた被害をもたらす事になるだろう。


 確か名前はハリーさんだったかな?


 魔法局は完全に凍っているので、建てられている小屋のどれかに居ると思うが……適当に職員を捕まえるか。


「すみません」

「はい。あっ、その特徴的なローブはイニーさんですね。何でしょうか?」

「ハリー局長に報告したい事がありまして。案内してもらえますか?」

「それでしたら丁度良かったです。これから書類の確認の為に行く予定でしたんのです。案内しますので、付い来て下さい」

 

 そこら辺に居た、眼鏡を掛けた女性職員に話しかけてみたが、どうやら当たりを引けたみたいだ。


 大体こういう時は俺の事を知らなかったり、見た目で侮るなんて事をする奴に当たるからな。


 珍しく運が良い。


 ……まあ、こんな顔の見えない白ローブを着ているのは俺位だろうから、それで周知されているのかもしれないな。


 職員の後を付いていくと、少しだけ大きな仮設小屋に着いた。


 小屋の前に護衛らしき魔法少女がひとり立っている。


「お疲れ様です。局長はお手隙ですか?」

「今は誰も居ないので大丈夫ですが、そちらの……イニーフリューリング!」


 なるべく職員の影に、隠れるようにして歩いていたが流石にバレるか。

 

「なんでしょうか?」

「いえ、友達があなたに治療してもらったので、一言お礼を言えたらなと思ってまして。私たちの仲間を助けていただき、ありがとうございます」


 護衛の魔法少女は頭を下げてお礼を言ってきた。

 俺に恩を感じるくらいなら、その分頑張って欲しい。

 戦い方面での負担が増える分には歓迎だが、雑務は勘弁して欲しい。

  

「仕事だから構いません。私も入って大丈夫ですか?」

「はい。入っていただいて構いません」


 職員と共に小屋に入ると、数人の職員とハリーさんが仕事に勤しんでいた。


「局長。仮設住宅と物資の受け入れの書類の受け取り来ました。それと、お客様です」

「書類は今出来るから待ってくれ。客とは……」


 ハリーさんは此方を見ないで生返事をし、お客様と言われてから顔を上げた。

 そして、俺の存在に気付き、顔から血の気が引いていった。


 レンさんならともかく、俺に対してその反応はおかしくないか?

 問題らしい問題は起こしてしまったが、今から報告するので、そんなに恐れられていないと思っていたのだが?

 

「あなた様でしたか、何か御用でしょうか?」

「破滅主義派についてはご存知ですか?」

「ああ。先程痛い目に遇ってるからね」


 まあ、あんな状態になっているのだし知らないわけないか。


「レンさんだけではなく、私の方にも破滅主義派のメンバーが現れ、戦闘になりました。後ほどレンさんから報告があると思いますので詳細は省きますが……」


 一旦言葉を切り、ハリーさんの目を見る。


「勝利はしたものの、余波で山の一部が吹き飛びました」

「――ああ。やはりあの光の発生源はあなたでしたか。分かりました。被害はその他にありませんか?」


 どうやら見られていたようだな。

 成程、あれだけ地形を変えるような魔法を使えると分かって恐れているのか。


 ……いや、オーストラリアの事件をしていれば、俺が回復魔法以外も使えると分かると思うのだが、知らなかったのか?

 

「大丈夫だと思います。すみませんが、バイエルンさんに報告と後始末の方宜しくお願いします」

「分かりました。報告と山の件は此方で処理しておきます。報告ありがとうございます」

 

 後は任せれば大丈夫だろう。

 これでレンさんのお願いも終わり、時間が空いた。


 一旦外に出て、解体されている魔法局を眺める。

 解体なんて魔法少女がする仕事ではないと思われるかもしれないが、時間効率で言えば魔法少女にやってもらった方が良い。

 特にこんな大物となれば、一般人なら結構な日数が掛かるが、魔法少女なら1日も掛からない。


 大変だと思うが、頑張ってほしい。


 さて、面白い物も見れたし、最後の用事を片付けてしまうとするか。

 

(アクマ。リンデは何所に居る?)


『今は変身していないみたいだから探せないね。多分家じゃないかな?』


 こんな時に限って探せないとは……。

 

 アクマの探知も魔力の反応を探す関係上、探す相手が変身していなければ、その精度は大きく落ちる。

 後はネットの海から情報を抜き取って探すなんて事も出来るらしいが、今回はそれも出来ないらしいな。


(家の場所は?)


『今探してるから少し待って』


 それは出来るんだな。

 まあ、バイエルンの孫って分かってるから、そこから芋づる式に探していってるのだろう。


 それにしても、やらなければいけない事が溜まってきたな。


 先ずはこの後リンデから情報を引き出し、レンさんとアロンガンテさん次第でイギリスから撤退。

 よく分からん会議もあるが、それはアロンガンテさんに丸投げすればいいだろう。


 後はどうにかして、憎悪を俺の支配下に置きたいが、こればっかりは今の所手がない。


 リンネに話した通り、魔女が滅ぶまでは放っておいても問題ないと踏んでいる。

 だが、俺の力と成り得るので、出来れば任意で第二形態のリミット解除を使えるようになりたい。


 第二形態とエルメスによる肉体の交換。そしてアルカナの同時開放。 

 手札は有れば有るだけ戦いの幅が広がる。


 問題は、どれもこれも制限や副作用があることだ。


 普通の魔法少女みたいに、ただ強くなる強化フォームが羨ましい限りだ。


『――見つけた。いつでも行けるよ』


 呆けていると、やっとアクマがリンデの家を探し当てたようだ。


 さてと、最後の一仕事を頑張るとするか。

 

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