魔法少女と謝罪案件
「何がですか……その質問に私が答えて、メリットはありますか?」
「私が与えられるメリットはないね。魔女は止まらないし、私たちの目的も変わる事はない」
ここまで来て世界を滅ぼすのも、北極の魔物を復活させるのも辞めますなんて言われたら、それこそ興醒めだ。
俺も魔女たちも、既に様々な代償を払っている。
引く気など、毛頭ない。
「だが、情報をくれる人を紹介してやることは出来る。そちらも、私たちの情報は欲しいんじゃないかな?」
本人は話さないが、話せる人物を用意するってか。
その人物とリンネが親しい間柄なら、リンネを殺した場合話してはくれないだろう。
紹介した人物が話すとは限らないが、確かに情報は欲しい。
自分の保身をしながら、最低限のメリットを提示する。
インテリらしい嫌なやり口だ。
(どうする?)
『個人的には情報よりもリンネを殺したいね。けど、今後を考えるなら情報の方も捨てがたい』
リンネがどのような立ち位置に居るのか分からないが、能力等を考えると、指令官みたいな立ち位置に居るはずだ。
本来魔女にとって、自分以外の存在は駒に過ぎない。
ならば、リンネが破滅主義派を纏めていてもおかしくないだろう。
だからここで殺せばこの世界にとっては良い結果になるだろうが、今後を考えると魔女の情報は喉から手が出る程欲しい。
アロンガンテさんや楓さんには悪いが、こちらの都合を優先させてもらう。
構えていた杖を消し、手を下ろす。
「分かりました。あなたの提案を呑みます」
「それは良かった。有無を言わさず殺されるかもと思っていたが、考えるだけの理性はあるようだね」
随分な物言いだが、こういう奴は下手な事を言っても逆効果だ。
だが、しっかりと意味のある言葉を返せば、黙ってくれることが多い。
「一度見逃してもらってますからね。敵とはいえ、義理位は返すのが道理でしょう」
「そうか。無駄話は時間の無駄だし、あれが現れる前に、本題に入ろう」
あれとはレンさんの事だろう。
どうなっているかは知らないが、最低でも俺が消えた事は分かっていると思う。
何か行動を起こしていてもおかしくない。
「そうですね。本題とは?」
「君は一体身体の中に何を飼っているんだい?」
飼っているね。
エルメスやソラの事ではないだろう。
リンネの真剣な眼差しを見るに、俺がやらかしてしまった憎悪について、聞いてきているのだろうな。
これまで暴走させたり、一部解放したりしていたが、憎悪の自我が表に出たのは今回が初めてた。
オーストラリアでは水が染み渡る様に侵食して来たので押し返す事が出来たが、今回は一瞬にして塗りつぶされてしまったので、抵抗する暇がなかった。
おそらく、アクマが前に言っていた細胞の変異も、一気に進行しているだろうと思う。
だが、この事をリンネに話しても良いのだろうか?
……話したとして弱点になるものでも無いが、俺の根底的な話である。
なんなら正確に把握しているのは誰もいないと言っても良いだろう。
(エルメス。もしも俺が
『状況にもよるですが、史郎単体なら世界には少し被害が出る軽度ですね』
単体ね。
(もしもお前とアクマが一緒に乗っ取られたら?)
『ぶっちゃけ第2の魔女の誕生となるですね』
そりゃあたまげたな……。
いや、実際に有り得そうなのが怖いところなんだよな。
呑み込まれたから分かったが、憎悪にあるのはただの復讐心と、それによる殺人衝動だ。
相手が魔法少女であれば誰でもよく、邪魔するなら全てを破壊する。
そんな想いを感じた。
あんなものがアルカナの能力も一緒に取り込めば、手のつけられない化け物になり得る。
多少自我の様なものは感じたので、もう少ししたら会話も可能かもしれないが、今の状態で乗っ取られるのは非常に不味い。
――ああ、だからリンネはあの時俺を殺そうとし、今も殺される覚悟で聞きに来ているのか。
これは正直に答えて、少しでも情報を集めといた方が良さそうだ。
「私が溜め込んだ感情。膨れ上がり、自我をもった存在。私は憎悪と呼んでいます」
「そうか。君のそれがどれだけ危険なモノか分かっているのか? 何故、君のアルカナはそんなモノを放置している?」
アクマの場合は嫌がっているが、この身体に未練がある為何も出来ず、エルメスは何故か俺の事が好きらしく、基本的に反対しない。
リンネは本気で心配している様な感じだが、アルカナについてはノーコメントとだ。
「危険なのは分かっていますよ。ですが、私が戦う為にはこれが必要であり、私自身であるこれをどうこうする事なんて出来ないんですよ」
「それにより、更なる災いが広がるとしてもか?」
「ちゃんと付き合っていくから大丈夫ですよ。さっきは暴発してしまいましたが、次は無いですよ」
「君の場合は憎しみの感情だが、そう簡単に付き合っていけると思っているのか?」
君の場合ね。昔アクマが言っていたが、魔女はとある魔法少女が絶望した存在と言っていた。
つまり、俺と同様に膨れ上がった感情が魔法のせいで自我を持ち、喰われてしまったのだろう。
あるいは、自ら身体を受け渡したのかもしれないが、強すぎる想いというのも考え物だな。
「魔女が存在し続ける限りは問題ないですよ。私のこれは魔法少女に対するものですからね。一応魔物でも納得してくれるので、戦いがある限り吞み込まれるなんてことはないですよ」
「それを証明出来るのかね?」
「それこそ悪魔の証明でしょう? リンネが危惧している事がなんなのか分かりますが、そもそも私が負けて死ぬ未来もありますからね」
仮に今、憎悪が俺を呑み込んだとしても、アルカナの力を十全に使う事はできない。
この状態では魔女と例の魔物に勝つなんて事は無理だろう。
俺の身体が作り変えられた結果どうなるか分からないが、それまでに憎悪を完全に制御下に置くことが出来れば、リンネの心配も杞憂となるはずだ。
その代わり、魔女を含めた破滅主義派は全員殺すけどな。
「君は本当に11歳なのかね? それについて答えてくれるか?」
「年齢の情報料は高いですよ?」
年齢だけなら話しても良いが、どうせ信じてくれないだろう。
「そうか……君が考え無しの馬鹿ではない事は分かった。だが、それがもたらす危険性だけは理解して欲しい。もしもの場合君が、イニーが死ぬ事で救われる事を覚えておいてくれ」
暴走する前に死ねって事だが、それは魔女を殺してからだ。
先の事を今考えても仕方ないが、制御できなかった場合、何かしら最終手段を準備しておくとしよう。
「質問はもう良いでしょう? それで、情報の提供者は誰ですか?」
「そう急かさなくてもちゃんと教えるさ」
リンネはポケットから紙らしき物を取り出し、地面に置いた。
「この紙に書いてある人物を訪ねれば、後は向こうが理解してくれるさ。君がイニーのままである事を願うよ」
リンネはそう言い残すと、来た時と同じように足元に魔法陣が現れ、消えてしまった。
(アクマ)
『だから、あれにはあまりなって欲しくないんだよ。今回もまた浸食が進行しているし……馬鹿!』
やれやれ、後が大変そうだが、先にリンネが残した紙を拾っておこう。
リンネが置いていった紙を拾い、広げてみると、リンデの名前が書かれていた。
それと、P.Sでよろしく頼むとも書いてあった。
リンネとリンデ。愛称ではあるが、似ているな……。
なにか繋がりがあるのだろうが、それは本人に確認すれば良いだろう。
『レンから着信だよ』
(了解)
悪くないタイミングだ。
最低限報告をしておかないと、レンさんが何をするか分からないからな。
「もしもし」
『こっちに破滅主義派が現れたけど、そっちは大丈夫だった?』
「3名と戦闘になり、全員倒しました。詳細は会った時に話します。レンさんは大丈夫でしたか?」
『それはお疲れ様。私は大丈夫だけど、ちょっと被害が出ちゃったから、治療をお願いね』
結界内ではなく、現実で戦っていたのか?
レンさんが相手なら、現実の方が制約を課す事が出来るから、ありなのかもしれないな。
まあ、当の本人はそんなの関係なく戦っているのかもしれないが。
「分かりました。今から家に戻るので、話はそれからにしましょう」
『分かったわ。それじゃあまたね』
リンデについてはどうせ逃げる事も出来ないし、後回しで良いだろう。
突発的であったが、これでアロンガンテさんの依頼は達成したことになる。
終わりとなるのだが……。
抉られた山をもう一度見る。
レンさんがどれだけの被害を出しているのか分からないが、これは謝罪案件かな?
魔法少女名:イニーフリューリング
(日本)ランキング:不明
年齢:11歳
武器:杖
能力:攻撃魔法+回復魔法。(その他不明な能力が多数)
討伐数
SS以上:不明
S:不明
A:不明
B:不明
C:不明
D:不明
E以下:不明
備考
魔法少女としての常識を破り続けている魔法少女。
オーストラリアでの戦闘後、討伐数が全て不明に変わってしまった。
常にイニーフリューリングの公式サイトを覗いている者によると、SS級以下の討伐数が全て5桁を超えていたらしい。
白いローブ姿から白魔導師と呼ばれる事が多いが、オーストラリアでの戦いを見た者はあまりの強さと、変わった服装から死神や解放者と呼んだりしている。
謎多き魔法少女だが、戦闘能力だけではなく回復魔法も使え、オーストラリアではその腕前を遺憾なく発揮していた。
非合法の組織から逃げて来た実験体とまことしやかに広がっているが、噂の域を出ない。
また噂の域を出ないが、とある国の山に巨大な穴をあけたらしい……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます