アクマの予想は当たらない
レンさんが頑張った結果、2人して暇を持て余す事となった。
どちらかと言えば悪いのは俺かも知れないが、提案したのはレンさんだ。
治療を終えた次の日から、イギリスの魔法少女たちが頑張り出し、俺が倒せる魔物の量が減ってしまったのだ。
SS級とかなら余っているが、倒すにはアルカナの力を使わなければならない。
そしてアルカナの力を使えば魔女に捕捉される恐れがあるので、使う事が出来ない。
S級なら大丈夫だが、SS級を素の状態の俺が倒すことは出来ないので、暇を持て余す結果となった。
とは言ってもあれから日も経ち、後2日でイギリスでの生活は終わりだ。
結局破滅主義派が襲ってくる事はなかったが、安心することは出来ない。
だが、暇なものは暇なのである。
治療をしたあの日以降リンデが訪れる事はなく若干怖いが、アクマが確認した所、普通に討伐はしているようである。
来たとしても自宅待機のニート状態なので、困るだけだがな。
憎悪も今の所大人しく、身体に異常は感じられない。
少しとはいえ、魔物を倒しているからだと思うが、何も起きない事を祈るばかりだ。
しかし、憎悪と呼んでいるが、あまり悪く言うのも気が引ける。
元は俺の中に芽生えていた感情であり、男として生きてきた俺の残りカスだ。
爆弾ではあるが、無下に扱うのは可哀そうである。
……暇なせいで思考がおかしくなっているな。
(なあアクマ)
『うん? どうしたの?』
(記憶が正しければ、後2人生き残りのアルカナが居たと思うんだが、そいつらはどんな奴なんだ?)
アクマと偽史郎のどっちが言っていたか覚えていないが、俺が魔法少女になった段階でアルカナの生き残り5人だった筈だ。
残っているのは女教皇と太陽だけだが、折角なので聞いておくとしよう。
これまでの流れを考えると、その内会うことになりそうだからな。
(女教皇……名前はイブ。私たちの数が少なくなってからは指揮を執る様になっていたね。性格はアロンガンテとハルナを足したような感じかな。能力については言えないけど、どちらかと言えば武闘派だね)
武闘派か……名前的に回復系だと思ったが、そうではないみたいだな。
流石にこれ以上の契約はないだろうが、能力が火力方面なのは魅力的だ。
『一応イブは行方不明ではないらしいけど、私に連絡はないね。何をしているか知らないけど、もしかしたら既にこの世界に居るかも』
(なるほど。真面目な感じな奴か。もう片方は?)
『太陽……名前はサン。こっちは結構前から行方不明だね。性格はタラゴンを少し幼くした感じかな。 こっちも能力は戦いに特化しているけど、補助も出来るね』
行方不明ね……こっちについては一旦忘れても良いだろう。
探すことは出来ないし、仮に見つけたからと言って俺の助けになる訳でもない。
(仮にだが、これ以上アルカナと契約したらどうなる?)
『ほぼ間違いなく死ぬね。今の状態だって本当は危険なはずなんだから。これ以上は何があっても駄目だよ』
そりゃそうだよな。
何故2重契約しているのに、俺が生きていられるのか明確な理由は分かっていない。
俺もないとは思うが、3体目は無理だと思う。
(ならフールの時みたいに、アクマやエルメスに譲渡って形なら?)
『それなら大丈夫だけど、私としては嫌だよ。ハルナだって、タラゴンやマリンを殺してまで強くなんてなりたくないでしょう?』
(まあな)
フールが特殊だっただけであんな自殺行為なんて普通しないだろうし、譲渡された側も嫌だろう。
これ以上アルカナの能力で強くなるのは難しいか……。
ならば俺自身が強くなるしかないのだが、どうすれば強くなれるんですかね?
(今の状態で魔女に勝てるか?)
『魔女だけなら3割位あるね。けど……』
(けど?)
『その後は1割もないかな……仮に勝てても、この星が人の住めないレベルで汚染される可能性がある』
(北極に封印されてる魔物ねぇ。汚染って魔力によるか?)
『うん。この世界だと事故によって生まれたのが魔力となっているけど、8割以上の世界にはあの魔物が関係しているよ。ついでに、最終的にほとんどの世界が魔物によって滅んでいるよ。魔女が解き放っているのもあるけど、戦える魔法少女を軒並み殺されているからね』
魔女もそうだが、強いとか凄いとか話には聞くが、今一ピンとこないんだよな。
前情報なんて有った所で役には立たないし、戦う時に考えれば良いか。
『それと……おや?』
(どうしたんだ?)
アクマは何かを言いかけるが、急に疑問の声を上げた。
途中で止められると気になるのだが、どうしたんだ?
『お客さんみたいだよ』
お客……ああ、リンデか。
一体何の用だ?
ベッドから起き上がり、1階のリビングに降りると、挙動不審なリンデが居た。
「あっ」
「どうかしましたか?」
俺に気づいたリンデは少しバツの悪そうな顔を浮かべるが、直ぐに笑顔に戻った。
「あの、イニーさんにお願いがあって……」
「お願いですか?」
「うん」
今のイギリスで俺に頼み事をするような事態はそうそう起きないと思うんだがな。
「話を聞く前に飲み物でも用意しましょう。ココアで良いですか?」
「うん。ありがとうございます」
鍋に牛乳を入れて、適当に温めてからココアの粉を入れて完成である。
個人的には牛乳を少しに煮詰めたいが、今回はいいだろう。
「どうぞ。それで話とは?」
「今日の魔物討伐へ、一緒に来て欲しいの」
魔物の討伐か。
今更俺など必要ないと思うのだが、どういうことだ?
「折角他国から凄い魔法少女が来てくれたから、近くで戦いを見てみたいなって思って。いつも一緒に戦ってる先輩は今日都合が悪くて……駄目かな?」
「レンさんでは駄目なんですか?」
「あの人はちょっと……」
気持ちは分かるが、レンさんの戦いは参考になんて出来ないからな。
タラゴンさんやブレードさんも魔法少女としてレベルが違ったが、レンさんは更に上をいった。
昔のRPGであった三段階の魔法みたいに、最上位はずば抜けて強いのだ。
まあ、そんなおかしい人たちの事はどうでも良いのだ。
問題はこのリンデの提案だ。
暇なので提案に乗るのは良いが、妙な感じがする。
ただの勘だが、何かを隠しているように感じる。
(どう思う?)
『うーん。ハルナが助けた時に居た魔法少女が今日休みなのは本当だね。仮に何か裏があったとしても、今のハルナなら何があっても大丈夫じゃないかな?』
確かに下手な魔物や魔法少女が現れたとしても、俺なら対処ができるだろう。
切り札であるアルカナの同時開放をすればおそらくレンさんにも勝てる。
……俺が気にしすぎているだけか?
俺自身が魔法少女になってしまったから仕方ないが、元々魔法少女という存在が俺は好きではなかった。
サブカルチャー的に楽しんだり、アニメ感覚で戦闘の動画を楽しんだりもいていたが、その存在を根っこから信用する気にはなれない。
特にあまり知りもしない相手となれば、仕方のないことだろう。
なんにせよ、仮に罠だったとしても食い破ればいいのだ。
「分かりました。暇を持て余していたので付いて行きましょう」
「ありがとう! 出撃は2時間後だからまだ時間があるけど、移動する?」
移動と言われてなんの事かと思ったが、通常はテレポーターで魔物の出現場所に移動するので、魔法局の待機室で待っているのが普通なのだ。
野良の魔法少女にはほとんど関係がなく、俺が待機室を使ったのはこれまでで2回だけだ。
学園の時も東北支部の時もあまり良い思い出がないので、出来れば行きたくはない。
「時間まで此処でゆっくりしていましょう。ココアもまだ残っていますからね」
「うん。そう言えば、イニーさんの能力ってどんななの?」
違和感を感じると思ったら。呼び方が”ちゃん”から”さん”になっているからか。
リンデの先輩である魔法少女がなにか言ったのだろうと思うが、どうせ短い付き合いだし、訂正しなくてもいいだろう。
「四属性、火水風地の魔法と回復魔法ですよ。属性を混ぜて氷や雷とかも使えますが、それ位ですね。魔法専門のため、武器での戦いはできないです。リンデは?」
リンデの能力は知っているが、話を繋げる為に聞いてみる。
「私は風の魔法が使えるけど、どちらかと言えば戦斧での近接戦が得意かな」
「そうですか。私も接近戦が出来れば良いのですが、魔法一辺倒です」
アルカナや第二形態になれば近接戦も可能だが、今の状態では難しい。
この前のオールドベースみたいに紛い物なら可能だが、やはり手に感触が残らないと心が躍らない。
「私は魔法の方が良いと思うけどなー。魔法の方が華やかだし、見ていて面白いし」
魔法少女と言えばやはり魔法だが、今時魔法を使える魔法少女の方が少ない。
補助として魔法を使うのは多いが、魔法メインとなると10人に1人位だろう。
そんな感じで他愛もない話をしていると、あっと言う間に時間が過ぎていった。
「あっ、もうそろそろ行かないと」
「そうですね。行きましょうか」
何事もなく終わると良いが、絶対なにかありそうだな。
リンデは話している間に時間を気にしていたり、瞬きの回数が多かったりと挙動不審だった。
自分で何か企んでいるのか、それとも誰かに唆されているのか。
アクマの言う通り、俺が対処できる事だと良いのだが……。
リンデの言っていた時間よりも少し早くロンドン魔法局本部に着き、待機室で少しだけ時間を潰す。
待っているとリンデの端末が鳴り、出撃の依頼が入った。
「じゃあ行きましょう」
「はい」
テレポーターに入ろうとすると、リンデがこっそりと端末を弄っているのが見えた。
やはりなにか隠しているみたいだな。
テレポーターに入ると、機器を操作している職員が驚いている顔が見えたが、直ぐにテレポートが始まってしまった。
跳んだ先は荒野だが、一緒に跳んだはずのリンデは傍におらず、軽く見渡した程度では見つからない。
(アクマ)
『ごめん……ちょっと舐めていたみたい』
アクマの反応からすると、結構ヤバイみたいだな……。
まったく、偽の依頼だと分かっていたが、やはり運がない。
(それで此処はどこなんだ?)
『うん。此処は……』
「久しぶりだね。イニー」
アクマの話しに割り込んでくるようにして、声が聞こえた。
なるほど、此処がどこだか、アクマが言わなくても分かった。
リンネにロックヴェルト。それに見たことのない魔法少女が4人。
「随分な歓迎ですね。パーティーの招待を受けた覚えはないのですが?」
「そう言ってくれるな。逃げられないとは思うが、逃げたらどうなるか分かるね?」
ロックヴェルトが裂け目から拘束されたリンデを取り出し、俺に見えるように前に出す。
さて、どうしたものか……。
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