魔法少女と天を穿つ魔法
転移先でも警報が鳴っていて、人々が避難を始めていた。
空は雲で覆われているせいで、月の光はほとんどない。
季節的な理由もあるが、真っ暗である。
「さてと、先ずは安全確保をしないとね……っとその前に。咲かせなさい”星孔雀”」
フルールさんの服装が変わり、強化フォームとなる。
元々緑を基調とした服装だったが、そこに花や植物などの模様が増え、見た目が豪華になる。
俺との戦いでは持ってなかった杖も持っており、風格がある。
星孔雀は花だったと思うが、流石にどんな花かは知らない。
まあ、そんな時のためにアクマが居るのだがな。
(星孔雀ってどんな花なんだ?)
『星の様な花を咲かせる植物で、赤系の色だよ。因みに花言葉は復活の喜びとか熱情とかだね。参考資料をどうぞ』
頭に軽い痛みが走り、星孔雀がどんな花なのか情報が流れてくる。
なんとも綺麗な花だが、フルールさんにとってなにか思い入れのある花なのだろうか?
ついでに俺の周りに大きな葉っぱが展開され、周りから見えなくなった。
どうせする事がないし、少しだけ手助けしておくか。
「あら?」
「私の魔力とパスを繋げました。多少使える魔力が増えるはずです」
「ありがとうね。それじゃあ……えい!」
目の前から木が生え、住宅街の上空を覆いつくす。
急にこんな事をして大丈夫なんですかね?
だが、これで魔物が現れたとしても、住民や建物への被害を抑える事が出来る。
耐久の面もフルールさんなら問題ないだろう。
木の一部に穴が開き、フルールさんは木の上に上がる。
そして目の前の空間が歪み、魔物が姿を現した。
木で作られた床が軋み、魔物が咆哮を上げる。
周りには既に眷属も居るが、そこまで多くはない。
その分強いのだろうが、オーストラリアの時に比べると見劣りする。
ついでにあの時魔物を倒して手に入れた魔石は、アクマからアロンガンテさんに渡して貰ってある。
多分、オーストラリアの復興に充ててくれるだろう。
特に贅沢する気はないので、金は有り余っている。
もしもオーストラリアの討伐分を貰っていたら、下手なランカーの生涯収入を超えていたかもしれない。
後方から魔法が飛んできて、眷属に当たる。
どうやら指令室に居た6人もすぐ近くまで来ているみたいだな。
「うーん。どう戦おうかしら?」
本来なら俺ももう少し慌てた方がいいのかもしれないが、正直焦る要因がない。
フルールさんは魔物が現れて直ぐに四肢を植物で拘束し、動けなくしてしまったのだ。
更に口が開かないように固定しているので、まさにまな板の鯉である。
どう戦おうかしらではなく、どう倒そうかしらと言ったところだ。
シミュレーションでは勝てたが、フルールさんもランカーなだけあって強いのだ。
それは目の前で起きている理不尽が証明している。
もしも運悪く拘束されていたら、負けていたかもしれないな。
「早めに倒した方が良くないですか?」
「そうなんだけど、思ったより硬いのよね~。私が火力を出そうとすると建物を壊しちゃう可能性もあるのよ」
確かに
拘束は出来ても倒すのに難があると……。
「木の棘じゃあ貫けないし、押しつぶそうとすると下にまで被害が出ちゃうし……うーん」
これは俺にやれって事かな?
幸い拘束が外れることはなさそうなので、時間的な問題はなさそうだ。
強いて言えば杖を取り出すことが出来ない事だな。
「私がやりましょうか?」
「本当? お願いしても良いかしら?」
うん。知ってた。
仕方ないが、やるとするか。
地面側に被害が出ないようにしながら、高威力の魔法か……。
いかせん俺の使う障壁は周りへの被害を抑えられるが、地面と上空には被害が出てしまう。
被害を抑えることもできるが、正直面倒なのでやりたくない。
それを踏まえると……。
「荒れ狂う風よ。生い茂る自然よ」
フルールさんの両肩辺りに魔法陣が現れる。
前後に分裂しながら増え、砲身の様になる。
「定められし可能性を捨て、永劫の輪すら無に帰す。崩壊の先にある絶望を覆いつくし、虚栄の姿を晒さん」
「あら? あらら?」
フルールさんに繋いだ魔力パスを使い、フルールさんの魔法を一部乗っ取る。
下に生い茂っている木の枝で魔法陣を包み、フルールさんに固定する。
外から見ればフルールさんの両肩に、木で出来た大きな砲身がある状態だ。
これならフルールさんが魔法を使ったように見えるだろう……多分。
「全てを失い、地の底で叫ぶ獣よ。救済など叶わないと、闇の奥で踞る幼子よ。その苦しみを糧に天を穿たん」
2つの砲身が伸び、合体して1つの砲身を作り出す。
「なんだかとっても物騒な言葉が聞こえるんだけど、その魔法大丈夫なのよね?」
集中しているせいでフルールさんが何を言っているか聞こえないが、あと少しで魔法が完成する。
今回のはオーストラリアの時に使ったマグナ・レイの収束バージョンだ。
威力的にはマグナ・レイの1.5本分位の威力しか出ないが、解放していないので仕方ない。
完全な下位互換だが、見栄えはそこそこのものになりそうだ。
「
砲身から魔法が放たれ、ギルゴデスに向かっていく。
形状の問題で反動があるが、フルールさんを木で固定しているので問題ない。
もしかしたらちょっと痛むかもしれないが、フルールさんなら大丈夫だろう。
因みに、戦っていた6人の魔法少女はまだ離れているので問題ない。
天穿の烽火はギルゴデスの上半身を消し去り、雲に大穴を開けて突き抜けていく。
数秒すると砲身から徐々に魔法が弱まっていき、やがて消えた。
雲が消えたおかげで、綺麗な星空が見るな。
ギルゴデスの上半身が消し飛んだことにより、下半身は塵となり、周りの魔物と共に消えていった。
どうやら本体と連動して眷属が消えるタイプみたいだな。
雑魚の殲滅をしなくて済んで良かった。
「終わりましたね」
「これはちょっとやりすぎじゃないかしら~?」
「ランカーですし大丈夫じゃないでしょうか? あっ、討伐料は結構です」
空を覆っていた雲は丸く穴を開け、月の光が差している。
周りは葉っぱで覆われていて確認できないが、恐らく援護に来ている魔法少女は驚いているかもな。
被害なしで勝てたのだし、後始末はフルールさんに任せるとしよう。
フルールさんは床代わりにしていた木を解除し、地上に降りる。
「終わったし帰りますか?」
「その前に声を掛けておきましょう。おーい」
フルールさんの声を聞いて数人の魔法少女が近寄ってきた。
その表情は驚きや困惑と言った色が強く表れていた。
「私は戻るからあとはお願いね」
「はい。……ところで先ほどの魔法は……」
「知らない方が、良い事もあるのよ?」
脅しか……まあ下手に説明してもややこしくなるだろうし、これが一番良いのかもしれないな。
「それじゃあね」
「は、はい! 救援ありがとうございました!」
アクマに頼んで転移して貰い、再び魔法局に戻ってきた。
念のためテレポーター室の前に転移したが、これが正解だろう。
「さっきの魔法ってどんな魔法だったの?」
「最初に作った2つの砲身で異なる属性の魔力を増幅し、その後の大きい砲身で圧縮し、変換した後に撃ち出しました」
「うーん。原理は分かるけど、それであのギルゴデスを消し去れるかが分からないのよね~」
そりゃあ倒せるまで圧縮して強化したからであるが、後は属性の関係だろう。
今回使ったのは雷の属性だ。
見た目はただのレーザーだが、その内に秘めたエネルギーは中々なものだ。
消し去ったというよりは蒸発させた。もしくは分解したと言った方が正しい。
まあ理論なんてあって無いようなものなので気にしなくてもいい。
魔法を科学に当てはめる方が間違っているのだ。
「威力を出すために回りくどい事をしましたからね。
「そうだけど、それでもSS級を倒せちゃうのね……」
「相手が動かない的だったからですよ。通常では少し厳しいですね」
俺個人でイレギュラークラスを倒すのは厳しいというか無理だ。
魔力的な問題はなくなってきているが、手数や瞬間的な火力に問題がある。
何なら俺自身は紙同然の装甲なので、魔物のラッキーパンチで死ぬ可能性もある。
いやはや、理不尽な世の中である。
「あまり無理はしないようにね? とりあえず報告をしたらジャンヌちゃんと合流しましょう」
俺を囲っていた葉っぱが解け、若干息苦しくなる。
魔法で作られた植物のはずなのにちゃんと酸素を作っていたみたいだ。
本当に魔法とはよく分からない。
「討伐完了しました」
「ありがとうございました。これで被害が出ること無く、事態を終息させることが出来ます」
「そうね。死んでしまった彼女たちについては私から何も言わないけど、常に不測の事態には備えるようになさい」
指令室に着き、フルールさんは局長に終わった事を告げる。
フルールさんの言う通り、不測の事態に備えるのは大事だが、今は難しいだろう。
せめて後1日事件が起きるのが遅ければ、怪我をしている魔法少女たちも復活し、十分な戦力を確保できただろう。
死んだ2人には悪いが、運が悪かったのだろうな。
「はい。こんな時だからこそ、万全を期すべきでした。本当に助かりました……」
「今回の魔石のお金は2人の遺族に回して構わないわ。それじゃあね」
「お気遣い感謝します」
とても真面目な話をしているのだが、フルールさんの上には俺が居る。
端から見たらかなりシュールなのだが、もう少し気にした方が良くないですかね?
しかし、魔物が襲来するとは思わなかったな。
フルールさんが居て本当に良かった。
仮にフル-ルさんが居なければ、俺は逃げるしかないからな。
指令室を出て廊下を歩く。ジャンヌさんと別れて1時間位だが、どこに居るのだろうか?
そんな俺の疑問に答える様にして、フルールさんは端末を取り出してジャンヌさんに電話を掛けた。
「こっちはつつがなく終わったわよ。今何所に居るのかしら?」
『お疲れ様。こっちは第一医療室で待機しているよ』
「分かったわ。今からそっちに行くから待っててね」
通話を切り、スタスタとフルールさんは歩く。
警報がなっていたのもあり、まだ人は少なく、ほとんどすれ違う事はない。
数分歩き、第一医療室と書かれた部屋に着いた。
これで、中国でやる事は終わり、後は合流して帰るだけだ。
全く、本当に散々な目に遭った。
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