魔法少女と滅びゆく国

 一瞬にして会議室から荒野に景色が変わる。

 結界の中と言っても空は普通だな。

 

 さて、問題無く結界内に侵入は出来たし、行動を開始しよう。


「出てきて大丈夫ですよ」


 影からナイトメアが出て来るが、なぜか不満げな表情をしている。


「本当に1人で行くの?」

「ええ。ナイトメアさんもしっかりお願いしますよ。あなたの行動で救える命が増えるのですから」


 魔女の指定時間まで約30分。

 焼け石に水かも知れないが、魔物を狩っておこう。

 

(掌握は出来そうか?)


『やってはみるけど、ちょっと無理そうな感じかな。先ずは解除条件の取得と、それから解除できないか試してみるよ』


 態々侵入出来るようにしているくせに、プロテクトはちゃんとしているみたいだな。


(分かった。魔物の分布はどんな感じだ?)


『あっちこっちで反応があるね。都市近郊に多くいるから、先ずはそこを片付けよう。それと、余裕があるならちゃんと人命を優先しなよ』


 やはりアクマならそう言うか。

 面倒だが、ここで断ればあーだこーだーと文句を言ってくる。

 やる気はないが、返事だけはしておこう。


(了解。それじゃあ転移を頼む)


 おっと、一応ナイトメアにも声を掛けておこう。


「もしも死にそうになったら呼んで下さい。行けそうなら助けに行きますので」

「――大丈夫よ。私だって魔法少女としての意地があるわ」

「そうですか。ですが、死なれるのも寝覚めが悪いので、無理だけはしないように」


 それだけ言い残して転移する。

 結界内ならあいつも移動できるし大丈夫だろう。


 そう言えばオーストラリアに来るのは初めてだな。

 

 世界中を飛び回っていたが、オーストラリアは魔物が少ないせいで討伐をしにいく事がなかった。


 おそらく、相当前から魔女は準備を進めていたのだろう。

 本来ならこんな遊びなどせずに滅ぼせるのに、時間を設けたり結界を張っているのは俺で遊ぶためだろう。


 転移が終わり、移動用に翼を展開する。

 とりあえず白だけでいいだろう。


『魔物の反応が多すぎるから、マップデータとして頭に直接送るよ』


 データか……なるほど、これなら一々アクマに聞かなくて大丈夫だな。

 どこかのゲームで見たようなマップが視界に映るが、分かりやすくて良い。

 先ずは空を飛び、魔物が見える位置まで移動する。


 マップ上では赤い点が魔物として表示されているが、マップ上部は赤く染まっている。


 姿形までは見えないが視界にも既に映っている。


 魔物の行軍……こんなものがオーストラリアの主要都市目掛けて進んでいるのか。


 ランカーのいない状態では、数の暴力によって負けそうだな。

 

 それにしても、移動中も次々に魔物が湧いてくる。

 適当に魔法で倒すが、あまり意味が無さそうな感じがする。


 だからと言って放置も出来ないのが面倒だな。


『数は……見たまんまだね。一応だけど、環境破壊には注意してね』


 結界の中だが、現実だからな。強すぎる魔法を使うのは気を付けた方が良いか。


(了解)


 湧いてくるのは氷系の魔法で倒すが、大群はどうするか……。


 デンドロビウムの時の魔法が手っ取り早いが、大量のクレーターが出来上がってしまうので使えない。

 いや、この際だし新しい魔法を考えよう。


 前提として環境を破壊する威力は駄目だ。

 つまり一発が広範囲となる魔法を使う事は出来ない。


 例えるなら、グレネードが禁止だからマシンガンを使おうって感じで考えればいい。

 或いはミサイルが駄目なので機関銃を使うと言い換えても良い。


 持続性があり、一発の魔法で1匹の魔物を倒す。

 狙うのは面倒なので、自動照準機能も追加しよう。


 後は詠唱と魔法名だが……。

 

「羽ばたいた鳥は地に墜ちる。大輪の花は朽ち果てる。草原は死の大地となり、水は毒に変貌する」


 頭の上に光の輪は出現し、ビットの様な魔方陣を複数描く。


 光の輪は演算装置であり、これがビットを操って自動で魔法を使ってくれる。


 アロンガンテさんが使っていた奴を参考にした魔法だ。


「希望は潰え、死が世界を覆う。生を渇望し、死が救いとならん」


 白い翼と光る輪によって見た目が少々あれだが、実用性の観点から仕方ない。

 多分この状態をアロンガンテさんとかも見ていると思うが、どうか無視してくれる事を祈る。

  

「ならば覆そう。迫る絶望を追い払おう。全てを薙ぎ払い、世界に光を照らさん」


 少々似合わない詠唱だが、魔力の消費を抑えるためには仕方ない。

 杖の補助を使うと詠唱が物凄く中二病チックなものになってしまうのだが、なぜだろう?


 薄々……本当に薄々とだが、原因に心当たりはある。


 だが、これについては今触れるようなことではないので、道具は道具として使うだけだ。


一人だけの殲滅隊ファーストライン


 ガッツリと魔力を吸われるが、複数のビットが魔物目掛けて飛んでいく。


 魔法陣からは地形を破壊しない程度の魔法が次々と放たれ、マップに映る赤い点が消えてく。

 空中で魔力の回復を待ち、5分ほどで1回目の戦闘が終わった。

 

(次だ)


『はいはい』


 転移を繰り返して魔物を殲滅していく。


 纏まって動いてるのはビットに任せ、たまに湧いてくる魔物は俺が対応する。


 今の所強くてもA級だが、魔女の指定した時間以降はどうなることやら……。


 流石にS級になると環境や地形に配慮などしていられない。

 生きるか死ぬかの瀬戸際なので。多少の事は許してくれるだろう。

 

 しかし、数が多いから仕方ないが、ただの殺戮はあまり面白くない。

 やはり命を削り合うギリギリの戦いではないとやる気がでない。


 時間になるのが待ち遠しい。


(ナイトメアの方はどうだ?)

 

『状況はあんまり良くないみたいだね。ざっくり3つ意見に分かれてるみたいで、それぞれの言い分で争っているみたい』


(3つ……魔法局と魔法少女と一般人か?)


『大体そんな感じだね。全体的にパニックを起こしてるから、全く統制が取れないみたい。ゾンビがパンデミックを起こした映画みたいな状態だね』


 この様子だと街中にも魔物が沸いてもおかしくないからな。

 此方としてはどうでも良いが、当事者たちは阿鼻叫喚だろう。

 

(大変そうだが、問題になってるのはなんだ?)


『そうだね……。第一にシェルターが足りてない事かな。そのせいで暴動が起きてるね。次に魔法局と魔法少女たちで意見が食い違ってる感じだね。全てを守りたい魔法少女と、限られた中で最善を尽くそうとしている魔法局とで対立が起きてるね』


 敵が来ましたから一致団結して戦いましょうなんてアニメの中だけの話だよな……。

 本来なら魔法局の命令を聞く魔法少女も、この前起きた魔法局の不祥事のせいで反感を持っているのだろう。


 魔法局の言い分も捉え方によっては必要ない人間は見捨てると言っているようなものだ。

 ランカー――それなりに年を取っている魔法少女が居れば良いのだが、誰も居ないのが悔やまれる。

 

 子供とは夢見がちだからな。


 しかも魔法少女なんて力を持ってしまえば、全てを助けたい、助けられると思ってしまうのだろう。

 

『魔物を倒すための魔法少女の一部は市民の暴動を抑えるために動いてたり、魔法局も総出であれこれしているせいで連携もできてなさそうだね。結界内での通信やテレポートは出来るみたいだけど、このままだとヤバイね! ついでに結界の破壊は駄目だったみたい』


 何故若干嬉しそうなのかが気になるが、本当に困ったものだな。

 それにしても、結界はやっぱり駄目だったか。


 そうなるとナイトメア頼みだがアクマが言ってる限りだと駄目そうだな。


 指示系統……魔法局を纏め上げ、残っている魔法少女の中で一番ランキングの高い奴を従わせ、そこから一般人や魔物をどうにかするのが良いと思うが…………仕方ない、少しだけ手を貸してやるか。


 時間はあまりないが、方法はある。


 展開していたビットと光の輪を消す。


(アクマ。ナイトメアの所に送ってくれ。一応物影に頼む)

 

『何だかんだで助けるんだねー。了解』


「分かっているが、人が足りないのだ! だから出来る事を選ばなければならない。それがなぜ分からない」

「だからと言って人を見捨てて良い訳ないでしょう! 無理だからって諦める訳にはいかないでしょうが!」

「だから話を聞けって言ってるでしょ! バラバラで動いてたら意味が無いって分からないの?」

 

 転移するとナイトメアたちの怒声が聞こえた。

 どうやら会議をしているみたいだが……。

 

(どういう状況だ? )


『相手はオーストラリア魔法局本部の副局長とオーストラリアの魔法少女ランキング25位の魔法少女だね。名前は覚える必要もないかな』


 なるほど。大体話の流れも見えたし、やることをやってしまおう。

 

「っ! 誰!」


 わざと足を取を立てて馬鹿共に気付かせる。


「あなたは確かイニーフリューリングでしたか。魔物討伐ありがとうございます。話はナイトメアから聞いていますが、出来れば早々に魔物の討伐に戻っていただけると……」


 俺に気付いた局長の顔色が悪くなるが、それはそうだろう。

 俺が此処に居ると言う事は魔物が増える一方であり、被害が増えるのだ。

 魔法少女の方は睨んでくるが、もっと感謝してくれても良くないか?


「面倒なので端的に用件を言います。私に従いなさい。さもなければ全員見捨てます」

「たとえあんたが居なくたってまだ大勢の魔法少女がオーストラリアに居るのよ! 別に……」

「ば! 冷静になりなさい! 映像を見て分かっているだろう! あんな量の魔物を倒すのは不可能だ。それに、イニーフリューリングに敵わないのは分かるだろう!」

 

 また言い合いが始まったか……申し訳なさそうにナイトメアが俺を見るが、もう少し頑張ってほしい所だ。


「黙りなさい。10秒以内に答えなければ私は帰ります。それと、もしも反論したらその時点でも帰ります。10……8……5」

「分かった! 我々魔法局は君に従う。だからどうか国を守ってくれ」

「――私たちも従うわ」


 これで一旦大丈夫か。


「二言は許しませんからね。ナイトメア。後は任せましたよ。あなたも何かあれば逃げてしまって良いですからね」

「そうね。今がどれだけ危険な状態かも理解出来ないようなら、見捨てるのも視野に入れるわ」


 こんなんでもナイトメアはランカーだからな。

 そのネームバリューとアロンガンテさんが用意してくた書類を無視するようなら早々に見切りをつけても良いだろう。


 まあ、俺はたとえ全員死んだとしても、最後まで戦い続けるけどな。

 こんな楽しい遊び場から逃げるなんてとんでもない。

 

 どうやら正確に状況を理解した2人は顔を青くしているが、これなら大丈夫そうだ。


「それでは、生き残っていたらまた会いましょう」


 再び転移する……前に釘を刺しておきますか。


「そこのあなた」

「なに?」

「夢を見ずに現実を見なさい。この世には救えない者の方が多いのですから」


 返事を待たずに、転移が始まる。


 再びマップには大量の魔物を現す赤い点が広がっているが、一旦纏めては排除してしまおう。

 指定時間まで3分位あるし何とかなるだろう。

 

(アクマ、1回大技使うからよろしく)


『なるほど、こんな方法もあるんだね』


 俺の思考を読み取ったアクマが関心した様な声を出す。


 理解してくれたなら良かった。


 先ずは愚者の力を解放して魔力を回復する。


 そしてマップを広げてもらい、オーストラリア全域を映してもらう。

 処理は玉が肩代わりしてくれるので何ともないが、通常状態ならこの時点で鼻血が垂れ流しになるか、頭が破裂するくらいの情報が頭に流れ込んでくる。


 地形を気にしなければいけない分、無駄な工程が増える。

 

 玉は空に昇り、今はくるくると回っている。


「対象ロック完了。魔力供給問題無し。地形保護終了。魔法陣展開」


 M・D・Wの時に使った魔法陣が霞むほど大きな魔法陣が、瞬く間に空へ広がっていく。

 軽く酩酊の様な感覚が襲うが、少しの我慢だ。

 

愚者を操る糸フール・ザ・パペット


 魔法陣から氷槍が降り注ぎ、魔物を塵に変えていく。

 全ては無理だが、現状の魔物の大半はこれで倒せたはずだ。

 建物の中や上空から影になっている場所は範囲外だが、建物などを壊すわけにはいかないのでそれ位は頑張ってもらおう。


 魔法の発動が終わるのを確認して愚者から白魔導師に変わる。


 そして、時間となった。


イレギュラーSS級~測定不能複数の出現を確認。1匹でもこの国を亡ぼせる力を持ってるよ』


 時間丁度に魔物か。それも複数なのは俺への当てつけもあるが、この国を人の住めない状態にするためだろう。


 そもそもイレギュラーSS級~測定不能の強さにもよるが、1体で国を滅ぼせるし、何なら大陸を海に沈める事だって可能だろう。


『眷属も出現して来たから、とにかく近場から……ハルナ!』


 禍々しい魔力を感じると空間が歪み、そこから1人の魔法少女が現れる。

 初めて会った時の太々しい態度は鳴りを潜め、隙を見せずにゆっくりと歩いてくる。


 青龍刀と盾を持ち、中華風とも和服とも言えそうな服をなびかせて歩く……。


 晨曦チェンシーが再び姿を現した。

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