魔法少女と場違いな会議

 しかし、いつもいつも先手ばかり取られているが、犯行声明を出してくれるのは分かりやすくてありがたい。


 アロンガンテさんは通話を終えて俺に振り替える。

 内容はアクマによって分かっているが、確認は大事だろう。

 

「イニー……」

「魔女が動き出したのでしょう? 」

「はい。あまり時間はありませんが一度拠点に戻り、正確に状況を確認したのち、会議をしたいと思います。ついて来てもらえますか?」


 頷いてアロンガンテさんに応える。


 会議をするというが、緊急事態とは言え今の状況で人は集まるのだろうか?


(詳細な情報はあるか?)


『あるけど、状況はかなり悪いね。とりあえず頭に情報を流すよ』


 ――最近静かだと思ったが、これを準備する為だったのか。


 オーストラリア大陸を囲む超大型の結界。

 テレポーターでの移動はできないが、映像の取得だけは出来るようだ。


 そして、魔女からの犯行声明があり、約2時間後に、オーストラリアを滅ぼすとの事だ。


 最後に阻止できるなら阻止して見せろと笑っていたが、此方も笑いたくなるくらい状況は悪い。


 第一に魔女の結界を乗り越えられる魔法少女が此方にはほとんどいない為、基本的な防衛は今オーストラリアに居る魔法少女がやらなければならない。


 第二に、オーストラリアの居る魔法少女が全滅するのは、未来の事を考えるととてもまずい。

 広いだけあって、現在オーストラリアに居る魔法少女は結構多い。


 これだけの魔法少女が居れば魔女たちを倒せるだろうと楽観的な情報も出回っているみたいだが、間違いなく負けるだろう。


(結界は越えられるのか?)

 

『わざわざこれまで使っていた結界とプロテクトが一緒にしてあるね。単独でなら問題ないよ』


 単独か。とりあえず侵入できるなら良しとしよう。


(ついでに、俺以外に侵入できる魔法少女はどれくらい居るんだ?)


『全部で5人もいないんじゃないかな? ハルナが知っている範囲でだと、ブレード位かな? ただ、誰も来られなさそうだけどね』


 確かにあの人なら魔女の結界とはいえ、越えることができそうだな。

 しかし、結界外からの応援はほぼ無しか。

 正直俺1人でも構わないのだが、オーストラリア内の魔法少女を纏められる人が付いてきてくれると良かったのだが、無理そうだな……。


 運が悪いことに、今のオーストラリア内にランカーが誰も居ないのだ。

 通信もできないみたいなので、好き勝手動かれると被害が増えるだけとなる。


 俺からしたら知ったこっちゃないが、日本の魔法少女として最低限やる事はやっておかなければならない。


 せめて映像が映らないならこんな事を考えなくても良いのだが、見られているならそれ相応の行動を心掛けなければならない。


 ともあれ、先ずは会議で方針を決めてからだな。


 アロンガンテさんと共に拠点に戻り、会議の準備ができるまで喫茶店で時間を潰す。

 こういう時こそ一度落ち着ける時間を作っておくのが大事だ。


 適当に珈琲を頼み、微睡みながら疲れを癒す。

 流石に誰も居ないようだが、店員の妖精がテーブルを拭いたり、キッチンの方で何かをしているのが見える。


 妖精とはあまり関わってこなかったが、妖精とは一体なんなんだろうな。

 知識としては知っているが、正直よく分からない。


 妖精女王フェアリークイーンが妖精界を仕切っている事は知っているが、その妖精女王が何処に居てどんな人なのかを知っているのは、妖精だけだ。


 これから先関わる事はないだろうが、場合によっては妖精を使わせてもらうかもしれないので、機会があったら謝っておこう。


『呼び出しが来たよ。第一会議室だってさ』


(了解)


「ごちそうさまです。支払いはこちらで」

「承知しました。またのご来店をお待ちしてますー」


 さて、第一会議室はあっちだったかな。


(どれくらい集まっているんだ?)


『アロンガンテを含めて10人ちょっとかな。ジャンヌは来てるけど、模擬戦をしていた3人は来られないみたいだね。ついでにブレードも』


 一応世界的な危機だが、それだけに構っていられないのが現状だからな。

 数百数千万の命は大事だが、他も疎かに出来る余裕はない。


(俺の知っている魔法少女は居るのか?)


『名前だけなら全員知っているかもだけど、知り合いで言えばナイトメアが居るね。ついでにイニー以外はランカーだけが集められてるよ』

 

 ナイトメアか。魔法少女としてはそれなりに戦えるのは認めるが、ランカーとしてはぺいぺいだからな……マリンにも勝てないだろうし、微妙な奴だ。


 集められてるのがランカーだけってのは分かるが、その中にポツンと俺が居るのは何とも微妙な構図だな。


(微妙だな。2つの意味で)


『ついでに集まっているランカーは2軍とは言わないけど、最強と言えない面子ばかりだね。仕方ないとは言え、せめてアメリカか日本の1位が欲しいね』


(ないものを強請っても仕方ない。それより着いたぞ)

 

 第一会議室と書かれた扉の前には職員と思わしき人が待ち構えていた。

 盗聴や確認のためだろうが、ご苦労様だ。


「イニーフリューリング様ですね。どうぞ中へ。あなた様で最後になります」


(――狙ったか?)


『勿論!』


 唯でさえ場違いだというのに一番最後に入室となると、一体何を言われるやら……始まる前から気が重い。


「分かりました」


 扉を開けてもらい中に入ると、視線が集まる。


「遅れてすみません」

「いえ、開始時間より前なので大丈夫です。あちらの空いてる席にどうぞ」


 1つだけ空いてる席があるので、座らせてもらう。

 好意的な視線もあるが、あまり良い感情は向けられてないな。


「まだ時間がありますが、予定していたメンバーが集まりましたので緊急会議を開始します。進行は白橿が行いますので、よろしくお願いします」


 アロンガンテさんが座り、代わりに白橿さんが立って一礼をする。

 そして、会議室に 設置されているモニターに映像が映し出された。


「既に伝わっていると思いますが、魔女から犯行声明があり、オーストラリアが危機的状態となっています。オーストラリア内にも魔法少女は居ますが、追加でこの中から出撃してもらおうと思います」


 白橿さんはメンバーを見渡し、一呼吸入れる。


「しかし1つ問題があります。それはオーストラリア内にテレポーターでの移動ができない為、結界に穴を空けられる魔法少女か、直接転移できる魔法少女でなければオーストラリア内に入ることができません。残りのメンバーはオーストラリアの結界の近くで待機となります」


 結界内に入る第一陣と、結界が解かれた後の第二陣か。

 作戦としては普通だが、これには大きな落とし穴がある。


「質問よろしいでしょうか?」

「どうぞ」

「その結界はどれ位の強度なのでしょうか? また、直接転移出来る魔法少女はこの中に居るのでしょうか?」


 良い質問だな。

 おそらくこの中で結界の事を一番知っているのはアクマだろうが、白橿さんとアロンガンテさんがどれ位まで解析できているのか気になる。


「そうですね。結界についてですが、ランカー用に使用されている結界よりも強度は上だと報告されています。また転移についてですが、此方で用意していた人員は全員失敗していますので、試してみなければ分からないのが現状です」


 ふむ。俺がアクマから聞いた内容と一致しているな。


(誰かを連れて結界内に転移とか出来るのか?)


『妖精やロックヴェルトの結界なら大丈夫だけど、魔女のは無理かな。パスは分かっているけど、ハルナ1人が限界だね。魔法で……そうだね、影に潜むとか小物の一部になってなら、1人位一緒に転移出来るかも』


 影か。さっそくゼアーが使える場面だが、今回頼むのは止めておこう。

 あいつはあまり表に出さない方が良いだろうし、出すにしても今じゃない。


(了解。とりあえず成り行きを見守ろう)


「成程。因みに、この中でランカー用の結界に穴を空けられる方はいますか?」


 手を挙げたのは3人か。


(どう思う?)


『おそらく無理だろうね』


「丁度良いので、3名には作戦開始時に試してもらうとしましょう。ですが、被害が出ないような方法でお願いします。さて、続いて転移について話が戻りますが、イニー?」


 そこで俺に話を振るか。あまり答えたくないが、仕方ない。


「私1人なら可能ですね。影に潜んだり小物に変身できるような方が居れば、1人だけなら一緒に転移出来ます」

「成程。この中のメンバーですと……」


 スッとナイトメアが手を挙げるが隣の魔法少女に頭を叩かれた。

 何やってるんですかね?


「ナイトメアさんでしたか。確か闇の魔法が使えるのでしたね。影に潜ることも可能ですか?」


 意気揚々と答えようとするナイトメアを、またしても隣に居る魔法少女が押し止める。


(あの魔法少女は?)


『ロシアの1位で名前はストラーフ。一応ナイトメアの師匠的な存在でもあるよ』


 なるほど。ならナイトメアの実力を正確に把握しているわけだ。


 場合にもよるが、ナイトメアが生き残れる可能性はかなり薄い。

 魔女のことだろうし、現れる魔物は手強いものばかりだろう。


 他の魔法少女と協力すれば大丈夫だろうが、絶対などあり得ない。


「……ストラーフさん。心配なのは分かりますが、せめて話だけでもさせてはいかがですか?」


 ストラーフさんは少し悩んだ後に、諦めたかのようにナイトメアを解放した。

 

「いたた……。えっと、影に潜ることは出来ます。なので、イニーと共に行くことは可能です」

「そうですか。一応確認ですが、生きて帰ってこられる可能性はとても低いです。それでも宜しいですか?」


 白橿さんは真剣な眼差しでナイトメアを見る中、ストラーフさんがこちらをチラリと見る。


 その視線はどうにかして断ってくれないかと言っている感じがする。

 正直どうでも良いが、軽く恩を売っておくか。


「個人的には1人の方が良いのですがね。白橿さんの言う通り、生存確率は0に等しいはずですから」

「――大丈夫です。私は魔法少女として、いつでも死ぬ覚悟は出来ています」


 なぜかナイトメアは覚悟を決めた顔をする。

 

「訂正します。必要ないので、ナイトメアさんはお返しします」 

「なんでよ! 一緒に戦った仲じゃない! それとも、あの事を話しても……すみません。ごめんなさい」


 馬鹿な事を言いそうになったなので、フードを少しだけ捲って睨んだらこの有様である。

 

 脅す覚悟があるなら、こちらはタマを取るだけだ。


 馬鹿のせいで微妙な空気となってしまったが、白橿さんに任せるとしよう。

 

「えー、ナイトメアさん以外にイニーが上げた魔法を使える方は…………居ませんね。どうする?」


 白橿さんはアロンガンテさんに聞くが、アロンガンテさんは軽く肩を竦めて立ち上がる。


「イニーとストラーフには悪いですが、ナイトメアにはイニーと共に行ってもらいます。ですが、ナイトメアは現地の魔法少女との協力の下行動して下さい。内容については後でお伝えします。イニーも宜しいですね?」


 落し所としては妥当だな。

 ついてこられる分には面倒だが、向こうの魔法少女を纏めてくれるなら願ったり叶ったりだ。


 一応ランカーだし、向こうも言う事を聞くだろう。


「2名以外はオーストラリア近海に用意されている船にテレポートしていただきます。イニーとナイトメアの姿は常に映しておきますので、何かあれば紙に書いて知らせて下さい。質問のある方は居ますか?」


 先程手を上げた魔法少女とは違う魔法少女が手を上げる。


「どうぞ」

「そのイニーフリューリングですが、信用できるのでしょうか? 容疑は晴れているみたいですが、完全に信用するのは早計ではないですか? 正直な話、結界内に転移できるのかも眉唾ものです」


 その言葉に数人の魔法少女が頷くが、その批判をされるのは想定済みだ。

 まあ、批判されたからと困ることはないし、やることは変わらない。


 俺を止める方法はないからな。


「信用などいりませんよ。仮にこの場に誘われなかったとしても、私個人で動くだけですからね」

「――生意気ね」


『珍しく荒波立ててるけど、どうしてだい?』


(大した理由じゃないが、どうせ今後会う事もない奴らだし、ヘイトを買っておけば俺の邪魔はしなくなるだろう?)


 まあ、俺とナイトメア以外はオーストラリアに入れないと思うが、1人で行動できた方が個人的にありがたい。


 結界が解かれたからって助けに来られても、邪魔にしかならない。

 

『ふーん。そうなんだ。それと、映像を弄る事は出来るから、もしも第二形態に変身するなら、先に言ってね。個人的にはしてほしくないけど』


(善処する)


「本来なら色々と説明をしたいですが、イニーは信用できる人物だとランカーとして私が保証します」

「……こんな小娘がね」

「言いたいことは理解できますが、今は緊急事態ですのでご了承下さい」

 

 それは小娘という部分なのか、生意気な部分なのか、どっちの意味でですかね?


「それでは会議は一旦終了とします。先行潜入部隊の2人は此処に残って下さい。他の結界破壊部隊と待機部隊は30分後に再び集まって下さい」

 

 釈然としない者も居るが、これで全体の会議は終わりか。

 後は部隊……と呼べる程ではないが、個別にすり合わせをする感じか。


 さて、忌々しいナイトメアはどうしたものか……。

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