魔法少女の大盤振る舞い
少々問題があったが、やっと始まったな。
ここがどのようなフィールドで、デンドロビウムがどんな戦い方をするかは知らない。
先ずはやる事やらないとな。
「
杖があれば「風よ」だけで済むが、杖がないせいで、詠唱が長くなってしまう。
まあ、既に慣れてしまったが、魔法とは使い難いものだ。
ついでに何時もの翼を生やしておく。
(さてと、そっちも情報を貰えるか?)
『うい!』
アクマからの情報と、俺が集めた情報を統合すると、フィールドは浮遊島となっており、凡そ半径1キロ程となっている。
他にも小さな浮遊島はあるが、主戦場は此処になるだろう。
中心に大きな建物があるが、アクマ曰く城だそうだ。
デンドロビウムとは丁度正反対か……。
(さて、始めるか)
『接敵まで早くても5分かな。どうするの?』
そんなもの決まっている。今回は珍しく観客が居るんだ。
精々楽しませてやろう。
「集え。
今回は周りの被害を気にする必要がない。
安全を考えなければ、杖が無くても多少は詠唱を省く事ができる。
5分なら、3分程度を見積もっておけば良いだろう。
「絢爛なる火は世界を照らし、泡沫の水は生命の源となる。黄金たる地は全てを支え、花散らす風は豊穣を告げる鐘となる」
俺を中心に各属性の色をした玉が四方に現れる。
実際は見えてないので、あくまで感覚でだがな。
「原始の炎は災いをもたらし、慈愛たる水は抱擁するものを押しつぶさん。堅牢たる土は大地を引き裂き、荒廃の風は留まるモノを切り裂かん」
弾は回転しながら交わり、空に昇る。
そして、城の上空にて球体の魔法陣を4つ形成する。
ここまで大体2分と少し。
(デンドロビウムは?)
『城の近くだね。潜伏しながらハルナを探しているみたい』
(そうか……巻き込まれるか、あるいは逃げられるか。どうなるかな?)
「夜に散りゆく星は光を束ね、流れる涙は絶望に染まる……」
『あっ、気付いたみたいだね。高速でこっちに向かってるよ』
既に間に合わんさ。魔法は完成した。
さて、魔法名は……そうだな、空飛ぶ島と言えばあれが良いだろ。
「
4つの魔法陣が破裂し、色とりどりの光線となって降り注ぐ。
光線は他の浮いている島も含め、全てに降り注ぎ、島を粉々に粉砕していく。
この一番大きな島も例外ではなく、徐々にバラバラに砕け、地表が無くなっていく。
俺は魔法を撃つと同時に空を飛び、設定しといた安置にて成り行きを見守る……見ることは出来ないけど。
『周りの島は全て粉砕。残るはこの島だけだけど、後30秒位かな? デンドロビウムは何とか避けてるね』
当たれば死ぬだろうが、当たらなければ生き残れるはずだ。
威力は高いが、密度はそこまで高くはないしな。
運が良ければどうにかなるだろう。
しかし、目が見えない状態だと感覚でしか魔法の様子が分からないんだよな……。
恐らくイメージ通りに発動しているはずだが、確証はない。
運悪く俺に当たる可能性だってあるんだよな……。
まあ、その時は当たる前にアクマが警告してくれるだろう。
風が運んでくれる情報では、地面となる浮遊島はほとんどなくなり。城の崩壊を待つばかりだ。
(ふむ。生き残ったみたいだな)
『流石妖精局代表って所だね。最初に比べれば魔力反応が弱くなってるけど、生きてるよ』
島が崩れる時に出た大量の砂埃が薄れていき、魔法の感度が良くなっていく。
大体数百メートルって所かな?
位置は大体分かったし、攻めるか。
「
炎の蝶を大量に展開する。
因みに、魔力は既に4割程無くなってたりするが、問題は無いだろう。
『向こうも魔法を使いながら接近中。因みに武器は杖と蛇腹剣だよ』
何とも面白い構成だな。メインが杖か蛇腹剣か分からないが、俺の勘だと蛇腹剣がメインだろう。
ああいう大人しそうな顔をしている奴は、大体何かを隠してたりするもんだ。
顔を隠したいと言っていたことからも、戦闘狂だったりするのだろうか?
目が見えない俺には分からないが、気にするだけ無駄だろう。
『距離約100メートル』
(了解)
翼から弾系統の魔法をばら撒き、ついでに槍系統の魔法も唱える。
『結構被弾してるね。後少しって所かな?』
なるほどね。このまま固定砲台として戦っていれば勝てそうだな。
そんな事をアクマと話していると、デンドロビウムの声が聞こえていた。
「ふざけてるの! あなたはそれで満足なの!?」
まあ、そう反応するよな……。
世間一般的には新人魔法少女の大舞台となる新魔大戦で、対戦相手が武器無しで目隠ししてたら怒って当然だろう。
俺ならラッキーだと思って隙を突いて倒そうとするが、正義感のある魔法少女からしたら馬鹿にしていると捉えられても仕方ない。
「これでも本気ですよ。こうしなければ、勝負にならないので」
「だからってそんな舐めた戦い方をするなんて……」
「そう思うなら、私に勝って証明してみなさい。こんな私に負けて恥をかくのはあなたですよ?」
「くっ!……良いわ。あなたに勝って、その馬鹿げた行いを後悔させて上げる!」
良いねぇ……その闘争心は素晴らしい。
だが、
精々抗ってもらおうかデンドロビウム。
『1メートル右に回避!』
アクマの指示に従い、横に移動すると、風切り音が通り過ぎる。
蛇腹剣か……よくこの状態で振れるものだな。
「青く、ただ碧く。沈んだ心は染まってゆく。揺りかごに揺られ、忘却の彼方へと運ばれる」
デンドロビウムとはまだ距離があり、幾ら蛇腹剣を振った所で届くまで時間が掛かる。
まだフレイムバタフライも大量に残っているので、直ぐに距離は詰められないだろう。
「想いだけで動く人形は闇さえ打ち砕く刃となり、朽ち果てた心臓は甘い蜜となる。憎しみも愛情も調べとなり、響き渡る」
イメージ通りなら、俺の前方に5枚の魔法陣が出来ているはずだ。
色は青と赤が交互に並び、それぞれ別方向に回転しているだろう。
『おっと、デンドロビウムに高魔力反応。大技が来るよ』
(こっちも丁度終わった所だ)
「イニーフリューリングーー!!」
「
魔法陣から放たれた魔法が、デンドロビウムの放った魔法と衝突したのを感覚で理解する。
空中の魔法対決とはさぞや派手に映っているのだろうが、見えないのが残念だな。
『白いビームと黒いビームの鬩ぎ合いか……調子はどう』
(余裕だが、向こうは?)
『ギリギリって感じかな? 執念で耐えてるって感じ』
俺が居なければ、デンドロビウムは優勝候補だっただろうに……お互い、運が悪いものだな。
残念ながら、俺の魔法に割けるリソースはかなり余裕がある。つまり……。
「
5枚の魔法陣を囲むように、更に魔法陣を追加する。
威力は大体1.5倍といった所だろうか?
デンドロビウムの魔法をあっという間に呑み込み、そのまま突き抜けていく。
『デンドロビウムの反応消失。お疲れ』
(疲れるほどでもないけどな。固定砲台をしてただけだし)
この後デンドロビウムに何か言われそうだが、悪いのは俺ではなく、
……早くシミュレーション終わらないだろうか? 足場がないから、待っている間も飛んで居なければならないのが地味に辛い。
それから少しすると意識が一瞬飛び、ポッドの中に戻ってこれた。
ポッドから出ると、どこからどう見ても怒っているデンドロビウムが待ち構えており、丁重に説明をすることになった。
1
試合開始の前から波乱に満ちた第5試合。
これまで色々と起きてきた新魔大戦だが、出場者選手がハンデを背負って戦うのは初めてだ。
新魔大戦は賭けの対象にもなっているので、その中の1人が不利になる様な状態では、黙って試合を見ていることはできないだろう。
負ければ賭けた金がパーになってしまうのだ。何を馬鹿な事をやっているんだ、と怒りたくもなる。
一部の人間はイニーが負けるとは考えていないが、あんなハンデを背負っていれば、負けてしまうと考えるのが普通だろう。
『さて、試合が始まってデンドロビウム選手は動き出しましたが、イニーフリューリング選手は動きませんね』
『イニーフリューリング選手は完全に後衛ですからね。待ち構えるつもりなのでしょうか?』
「そんなんで大丈夫なのか?」
「もしかしてわざと負けようとしてるんじゃないの?」
「これだから魔法少女って奴は……」
会場のあちこちで野次が飛び交い、イニーに対してのヘイトが高まる。
学園組も反論などしたいが、それでは火に油を注ぐだけとなるので、黙っている。
『おっと! イニーフリューリング選手も翼を生やしたー!』
『彼女が移動用に使う魔法ですね。白と黒のパターンがあり、今回は黒なので戦闘用となります』
白いローブに黒い翼というのは何とも似合うものであり、黒い目隠しと相まって、堕天使を思わすような姿となる。
そして、イニーの詠唱が始まる。
『色的に四元素でしょうか? 綺麗ですね』
『やはり魔法は見ているだけで心が躍りますね。最近は魔法よりも、近接や近代的なものが増えているので、魔法を見る機会が減り、残念です』
『魔法陣もそうですが、詠唱も良いと私は思いますね』
イニーの詠唱が進むとともに変化していく魔法陣は、一種の芸術といって良いだろう。
魔法少女と言えば、その名の通り、魔法を主体に戦うものが多かったが、時代の流れと共に、魔法少女の魔法も変わり始めていた。
杖から剣に変わり、そして最近では銃を使う魔法少女も居る。
変わり種として楓やアロンガンテ、プリーアイズ等も居るが、魔法のみを使う魔法少女はかなり少数となってきていた。
日本のランカーで魔法を主体として戦うのは10位と6位だけだ。
5位と2位も似たようなものだが、魔法とは少し違う。
1位である楓も魔法系に分類されるが、特殊な例だ。
魔法陣は円形の立体となり、混ざりながら城の上空へと上り、新たな魔方陣を形成し、輝きを増していく。
『デンドロビウム選手も気づいたようですね』
『あれだけ派手に打ち上れば、流石に目に付きますからね』
イニーの魔法に気づいたデンドロビウムは直ぐに空に飛び、イニーの居ると思われる方向に飛んで行く。
『
イニーが最後の詠唱を終えると、魔法陣は破裂して様々な色の雨を降らす。
「綺麗ね」
マリンがぽつりと呟く。
見ている分には、鮮やかな雨が降っているように見える。
だが、その雨がこれから起こす惨劇に、会場は凍り付く事になる。
『これは……イニーフリューリング選手! 浮遊島を破壊し始めました』
『妙に詠唱が長いと思いましたが、納得の威力ですね』
先程まで飛んでいた野次は静まり返り、鮮やかな雨がもたらす惨劇を、ただ眺める。
『デンドロビウム選手も頑張って避けていますが、当たれば一撃で終わってしまいそうですね』
『このフィールドはイニーフリューリング選手には不利だと思いましたが、まさかフィールドの破壊を始めるとは思いませんでしたね』
浮遊島は全て破壊され、真ん中に鎮座している、城のある島も崩れ去っていく。
その美しい魔法からは想像も出来ない破壊の痕跡に、誰もがイニーの狂気を知ることになる。
目が見えないとか、武器がないなど彼女にとっては問題にならない。
いや、ハンデを背負っていてもこれなのだ。
ハンデが無かった場合の結果など、目に見えているだろう。
『デンドロビウム選手はとても怒っていますね……』
『対戦相手があの様な状態で戦っていれば、怒りたくもなるでしょう。しかし、会場の皆様方はハンデの必要性が既に分かっていると思いますが、如何でしょうか?』
『私もここまでとは思っていませんでしたね。昔あった現ランカーのタラゴンやグリントの時もそうですが、日本の魔法少女は隠し玉が多いですね』
デンドロビウムも決して弱い魔法少女ではない。一人でA級を討伐する事ができ、相性次第ではS級すら倒す事ができる。
しかし、今はイニーに翻弄され、傷が増える一方となる。
『おっと! イニーフリューリング選手新たな詠唱を始めたー!』
『何とも心に来る詠唱ですね。しかし、彼女の魔法は詠唱の長さに比例するので、また恐ろしい魔法を使いそうですね』
『デンドロビウム選手も蛇腹剣から杖に持ち替えて、大技を繰り出す準備に入る!』
叫びながら魔法を使うデンドロビウムとは対称に、イニーは静かに魔法を唱える。
デンドロビウムの杖からは極太の黒いビームが放たれ、イニーは魔法陣を5枚使って白いビームの様なものを放つ。
一見互角の様に見えるが、デンドロビウムの表情と、イニーの状態は雲泥の差である。
『威力は互角の様に見えますが、どう思いますか?』
『……それに答える前に、イニーフリューリング選手の魔法陣に注目してください』
イニーが
瞬く間にデンドロビウムの魔法を呑み込み、その後には何も残らなかった……。
『試合終了! 勝者、イニーフリューリング!』
静まった会場に、フェイの声だけが響き渡った。
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