魔法少女の出生(嘘)
……ああ、またこの天井か。
目が覚めると、白い天井が見えた。
まさか、最後の最後に気を失うとはな……。
『でっ、結局
(そう急かすな。話してやるから)
さてと、どう説明するかな……。
俺のこの意思をアクマに伝えるのは悪手だろう。
アクマは無邪気で自分勝手の様に見えるが、しっかりとした芯の様なものがある。
それは世間的に正義感と呼ばれるものだ。
俺の意思とは程遠いものだ。
確かに俺は破滅主義派に付く気はないが、思想は向こうと似たり寄ったりだ。
向こうは世界の終わりを。
俺は闘争を。
世界を守ろうと戦ってきたアクマに、この思想は受け入れられないかもしれない。
まあ、この想いのせいで第二形態が暴走した様なものだったのだがな……。
だが、今回は中々に面白い戦いだったな……。
――おっと、余談に浸る前に、言い訳をしておかないと。
(正直、俺も正確には分からないが、お前の上司が何かしたんじゃないか?)
『……ありえなくもないね。私たちは既に追い詰められているからね。勝つ為に、ハルナに何かしていてもおかしくない』
あっ、これで良いのか。
(アクマから向こうには、連絡を取れないのか?)
『私からは無理だね。逃げる時にパスは全て切っちゃったから。ただ、向こうは私がこの世界に居るのは分かっているはずだよ』
(まあ、何をされていようと、やる事は変わらないさ)
俺の答えは変わらない。
戦いがあればそれで良い。
魔女を倒し、世界を救うのはついでだ。
ただ、やはり今のままでは勝つどころか、まともに戦うのも厳しい……どうすれば、どうすればもっと強くなれる?
『そうそう、今回は4日程寝込んでいたよ。症状は大量の失血もだけど、内臓がぐちゃぐちゃになっていたみたい』
第二形態を解除した時に血を吐いたのは内臓がイカレてたからか。
完全に回復するのを後回しにしてたし、もしも完全に回復してたら恐らくマリンを助ける魔力は残っていなかっただろう。
それにしても、まさか4日も寝込んでいたか……魔力は全快とまではいかないが、それなりに回復しているな。
今はゆっくりと休むとしよう。
左腕は元通りくっ付いているので、恐らくジャンヌさんが治してくれたのだろう。
また後でお礼をしなければな。
顔を少し横に向けると、点滴の袋が見える。
そう言えば、前に楓さんの所で寝てた時は点滴とかされてなかったな……。
なのに体調はそこまで悪くなかったが、どうしてだろうか?
あの時はジャンヌさんが特殊な魔法でも使ってたのかな?
(まだ眠いし、もう一度寝るとするよ)
『あー、ハルナさん? 反対方向を見てみ』
あん? あっ。
反対方向を見ると、丁度部屋の扉が開き、ジャンヌさんとタラゴンさんが入ってくる。
ふと思ったが、そもそもここはどこだ?
「おお、やっと目覚めたか。調子はどうかね?」
タラゴンさんは安堵したような表情を浮かべ、ジャンヌさんがニヤニヤしながら聞いてくる。
一応助けてもらた手前、ここで寝たふりをするのも忍びない。
寝てしまいたいが、諦めて話しをするか……。
「今回も大丈夫ですよ。他の方々は?」
「何が大丈夫よ。4日も寝てたのよ? 全く、心配させて……」
今回は死にかけていたが、死んでいなかったので大丈夫だ。
最後の失態と、第二形態の無茶が反省と言った所かな?
しかし、何というか……身体も重いし、妙に息苦しい。
「うーん。ちゃんとご飯は食べているのかね? 私が言えた義理ではないが、食事はちゃんと取った方が良いぞ?」
「家に居た頃それなりに食べていたけど、まさか抜いたりしてないわよね?」
失敬な。
毎日3食ちゃんと食べているんだがな……。
前も栄養が足りてないとか言われたが、何でだろうか?
「ちゃんと食べてますよ?」
「本当かね? まあ、それについては後で良いが、報告を聞いても良いかね?」
「ええ、大丈夫ですよ」
本当は寝たいが、面倒は先に片付けてしまおう。
今回は間違いなく映像も取られていないし、もしかしたらアロンガンテさんに第二形態を見られていたかもしれないが、今は確認のしようがない。
先ずは破滅主義派を名乗るリンネと晨曦が現れた事を話す。
そして、俺が勧誘された事と、回復魔法の素養について。
ドッペルが全員分現れ、俺とアロンガンテさんは直ぐに移動した。
自分のドッペルを相打ち気味に倒し、その後に現れた晨曦を撃退。
アロンガンテさんの援護をし、プリーアイズ先生を助けてからマリン以外の生徒のドッペルを撃破。
最後にマリンのドッペルを倒すが、その時に負傷した等を話す。
「成程ね。他からの報告とも違いはないし、嘘はなさそうだね」
「イニーが嘘を言うわけないでしょ、全く」
すみません。存在自体が嘘をついているようなもんです。
ついでに晨曦についての戦いも嘘です。
「さて、一応聞いておくが、君は幼いながら何があったんだい?」
「ジャンヌ!」
「タラゴン、これは聞いておかないといけないんだ。回復魔法とはそういう物なんだよ。本当はもう少し様子を見てからにしたかったんだがね……」
まあ、聞いてくるよな。
本当は姉が関係しているのだが、今の状態でそれを話すことは出来ない。
今の俺に、親族は誰も居ないのだから。
親族が居たのはハルナではなく、既に死んだ史郎にだ。
「……ジャンヌさんも、この想いを抱いたことがあるのですか?」
「まあね。楓のおかげで今は大丈夫だが、結構荒れていたね。タラゴンも知っているだろう?」
「一応面倒を見てたからね……」
M・D・Wの時に俺を治せたことを考えれば、ジャンヌさんも相当闇を抱えているのだろうな。
タラゴンさんには適当に施設から逃げて来た事にしているし、そこを上手く繋げて話すしかないな。
そう言えば、偽史郎がこの身体の髪についても話してたな。
アルビノでもないのに白髪など、普通はあり得ない。
タラゴンさんは何も聞いてこなかったが、この機会だ、でっち上げてしまおう。
(そんな訳で、何かあったらフォロー頼む)
『了解。因みにだけど、元は変身しているハルナと同じ青い髪で、眼は紫色だったよ』
そうなのか。偽史郎は髪の事は言ってたが、眼の事は言ってなかったな……。
「私は生まれた時から、どこか分からない施設で暮らしていました。そこには私の様な子が沢山居まして、ある実験に使われていました」
「――まさか」
ジャンヌさんが驚きで目を見開く。
タラゴンさんは強く手を握りしめているな……。
「その実験により何人も苦しみの中死んでいきました。人としての尊厳はなく、まるでモルモットの様に扱われまいた」
「……それで、その後は何が?」
「得体の知れない薬物や器具で身体を弄られ、いつの間にか、髪の色は抜け落ちていました。そして、その時毎日願っていました…………世界よ滅べと…………そして、いつの間にか私だけになってました」
「――もしかして、イニー、君は!」
「ええ、――私は作られた魔法少女です――」
あながち嘘でも無いだろう。
男であった俺が、魂を入れ替える事によって生きながらえ、魔法少女となったのだ。
人工的と言っても良いだろう。
「そう……だったのね……」
タラゴンさんが悲痛な表情で呟く。
一応この話は、昔本当にあった事件がモチーフとなっている。
実際は全員死んでしまい、実験を行っていた国は、魔法少女たちの制裁を受けて滅んでいるけど。
「なるほど、確かにそんな人生ならば致し方ない。施設はどうしたんだい?」
「タラゴンさんには少し話しましたが、妖精によって施設から逃げ出したので、施設の場所は分かりません」
「施設については私があちこち調べたけど、影も形も無かったわ。恐らく既に潰れたか、もっと深い闇の中かもね」
ああ、タラゴンさんが世界回りをしてたのは俺のせいでもあったのか……もしも実際にあったらそれはそれで困るので、問題が無くて良かった。
『因みにだけど、ハルナが今話した嘘のような話は、少し前まで本当にあって、破滅主義派の奴らが壊滅させてるよ』
(えっ? マジで?)
『うん。他の世界線でも結構似たような事もあったし、あるあるの話しだね』
考える事は誰も一緒って事か……。
都合良く魔法少女を作る事ができ、それを自由に扱う事ができれば、国としてはありがたいだろう。
やられる側はたまったものではないが、魔物に怯えて暮らす生活をしていれば、人権など無視した行いをしてでも、自分達の身を守りたくなるのだろうな。
それは追い詰められた魔法少女も、似たり寄ったりだがな……。
あっ、もうそろそろ限界かも。
「病み上がりなのに色々とすまないね。タラゴン、イニーも眠そうだし、今日はここまでにしておこう」
「そうね……また来るから、ちゃんと休んでおくのよ。起きたら呼びなさい」
ジャンヌさんとタラゴンさんはそう言い残して、部屋を出て行った。
とりあえず修羅場も脱する事ができて良かった。
(寝る前に、ここってどこなんだ?)
『妖精界にある魔法少女用の病院だよ。因みに、今入院してるのはハルナだけだね』
俺1人か……ならば静かで良さそうだな。
(寝るから、何かあったら起こしてくれ)
『ほいほい。お休み、ハルナ』
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