魔法少女の戦いは終わった

 プリーアイズ先生と別れ、アクマの指示の下、一番近くに居るミカちゃんの所に向かう。

 

 まさかアロンガンテさんも、プリーアイズ先生も使い物にならないなんて思わなかったな……。

 晨曦チェンシーを倒した後にアロンガンテさんの救援に行ったら、アロンガンテさんとドッペルの戦いは痛み分けで終わった。


 あんな火花が出てたり、白煙が出てる状態で頑張れとは流石に言えなかった。

 

 回復魔法で機械が治せるか分からない。


 ただでさえ少ない魔力を、治せるか分からないものには使えなかった。

 

 どちらかと言えば治すより直すな気もするが、今度寮の家電を治せるか試してみよう。


 まあ、治せたとしても、使う相手は恐らくグリントさんとアロンガンテさん位しか居ないがな。


 (プリーアイズ先生の魔法ってもしかして楓さんの劣化版なのか?)


『正確には少し違うけど、そんな感じっぽいね。楓よりも限定的みたいだけど』


 まさかレールガンを構えてるとは思わなかったよ……。

 急にアクマが急かすから何事かと思ったら、プリーアイズ先生が死にかけていた。


 プリーアイズ先生のドッペルを魔法で仕留めきれなければ、そのままレールガンは撃たれるだろうと思い、確実に倒せる方法を取ることにした。


 俺が持っている杖の先はそこそこ細くなっており、俺の非力な力でも、頑張れば刺すことが出来る。

 ドッペルの真上から翼を羽ばたかせて落下していき、そのまま杖で貫いた。

 

 ドッペルは反撃をしようと口を開いたので、燃やしながら地面に縫い付けてやった。

 

 少々グロい絵面となってしまったが、姿かたちはプリーアイズ先生でも、所詮は魔物だ。


 殺さなければ、殺されてしまうのだ。


(さて、何故ミカちゃんはずっと防御をしているのだろうか?)


 空を飛んで直ぐにミカちゃんが見えたのだが、見た感じミカちゃんは自分から攻撃をしていないのだ。


『あー多分だけど、倒すだけの火力がないんじゃない?』


 そんな馬鹿な話があるのか?

 訓練をしている時に、攻撃よりは防御に向いてるとは思ったが、そんな事……ありそうだな。


(とりあえず助けて、次に行こう)


 俺ではドッペルと本物の区別は付かないが、アクマが判別してくれるので助かる。

 近付けば表情で判別が出来るが、距離があれば難しい。


 ミカちゃん程度のドッペルなら、物量でどうにかなるだろう。

 

 

氷よ。降り注ぎ、貫けアイシクルレイン


 雨と一緒に、氷柱をミカちゃんのドッペル目掛けて降らせる。


 ドッペルは基本的に化けた相手を攻撃する習性があるので、プリーアイズ先生の時もそうだが、奇襲が成功しやすい。


 1本目はドッペルがチャクラムで防ぐが、2本目がチャクラムを持っている腕を抉る様にして貫く。

 3本目が足を縫い付け、残りがドッペルの至る所を貫き、あっと言う間にドッペルは塵に変わる。


 ミカちゃんの横に降り立つと、ミカちゃんは顔を青くしており、今にも吐きそうに見えた。


 魔物とはいえ、自分と同じ顔をした者が死ぬのも見たのだ。

 死かたないだろう。


「う……うむ。助かったのじゃ……うぷ」


 泥で汚れているようだが、それ以外は目立った怪我はなさそうだな。

 それじゃあ次に……。


『しゃがんで!』


 アクマに言われるまましゃがむと、1発の銃弾が俺の頭上を飛んでいく。

 そう言えばアリスの武器はライフルだったような……。


 なるほど、他の生徒達の反応がバラけているのは流れ弾を警戒してか。


(先にアリスを助けに行くか?)


『その方が良さそうだね。方角は銃弾が飛んできた方で問題ないよ』


(了解)

 

「私は行きますので、ミカちゃんは休んでいて下さい」

「すまぬ。わらわも休んだら、他に向かうとしよう」


 ……出来ればこのまま休んで貰った方が、不慮の事故防止になるのでありがたいのだが、下手なことは言うまい。


 再び空を飛んで移動するが、もっと早く移動できる方法はないだろうか……まあ、魔力が少ない状態では、贅沢も言ってられないか。


 高度を上げるとアリスだけではなく、他の生徒も確認する事が出来る。

 

 残りの魔力は3割程度……一応背中のこれも、出しているだけで魔力を奪われている。


(面倒だし、一気に倒してしまおう。アクマ、どれかドッペルが指示を頼む)


『ほいほい』


 アクマの指示を聞き、狙いを付ける。


 倒すだけなら炎の魔法が一番効果があるのだが、こんな雨の中では威力が弱まってしまう。

 雷は感電の恐れがあり、土はこの雨では使い勝手が悪い。


 水なら大量にあるが、殺傷力を上げる場合、魔力の消費が増えてしまう。

 

 結局、氷の魔法が一番無難になる。


「遍く広がる氷の息吹。我が想いを顕現させ、氷獄に閉ざさん」


 適当に魔法を使っても問題ないが、魔力の消費を抑えるため、長めの詠唱をする。


 今にも死にそうな奴が居るわけでもないし、結構余裕がありそうだ。

 

自らを墓標とし、アイスジャッジ裁きを受けよプリズン


 冷たい風が吹き抜け、気温を下げる。

 ドッペルの足元から3本の氷の棘が飛び出し、その場に縫い付ける。

 氷の棘が刺さった場所から凍っていき、最後は粉々に砕け散った。


 ミカちゃんのドッペルを倒した時は少々グロくなってしまったので、今回はその点を考慮した魔法を使った。

 

 氷が刺さった瞬間から凍り始めるので、血も肉も飛び散っていない。


 見た目は少々あれだが、それ位は許してほしい。

 

 これで一通りドッペルを倒せたはずだ。

 

 ――これってよくよく考えると、討伐数が結構凄いことになるのではないだろうか? 今のところ、アロンガンテさん以外のドッペルは俺が倒している。


(残りは?)

 

『結構離れた位置に1つだけあるね。恐らくマリンかな。急いだ方が良いかも』


 ――距離は……魔力の残量を考えると少し厳しいな。

 後数分もすればアロンガテさんも来るだろうが……。


(行くぞ)


 ギリギリな状態での戦い……素晴らしいじゃないか。


 アクマの返事を待たず、マリンの下に向かう。

 ミカちゃんの声が聞こえたような気がするが、時間が惜しい。


『この感じ、強化フォームになってるぽいね。ただ、2分も持たなさそう』


(戦いが始まる前は、先に倒すとか言ってたが、無理だよな……俺も第二形態になるか、自滅覚悟の特攻でもしないと勝てないだろうし)


 S級のドッペルなど完全に魔法少女殺しと言っても良いだろう。

 現にアロンガンテさんはギリギリの戦いをし、プリーアイズ先生は負けていた。


『今回のハルナは、その点だけは運が良かったね。晨曦には襲われたけど』


 元々俺狙いだったから仕方ない……もしかして今回の元凶って俺か?


 ――場合によっては学園を離れた方が良いかもな……。

 

 ジャンヌさんですらロックヴェルトに3回襲われているのだ。

 俺を狙って奴らが再び現れる可能性もある。


 まあ、この事は後で考えよう。


 数十秒程飛ぶと、雨の中に光りが奔るのを捉えた。

 恐らくマリンの刀だろう……が宙を舞った。


(今のはどっちだ?)


『本体の方の刀だね……間に合う?』


 何でこうタイミングよく、不運が舞い込んでくるかな……間に合わせるさ。

 

 カタナを飛ばされたマリンが距離を取ろうとバックステップするが、足を滑らせて倒れこむ。

 

 こんなぬかるんだ足場だ、仕方ない。

 

炎よ。吹き飛ばせバーン!」


 背中で爆発を起こし、一気に加速する。

 幸い雨のおかげで火傷は酷くないだろうが、結構な衝撃が身体を襲う。

 マリンのドッペルが、刀を構えてマリンに接近して行く……ッチ。


 魔法は間に合わない。かと言って、刀を構えてるドッペルにこのまま突っ込むのは危険だ。

 

 マリンは何とか立ち上がるが、ドッペルの刀を防ぐ手段は無いだろう。

 吹っ飛びながら左腕を突き出す。


 ドッペルが刀振り落とす瞬間に、マリンを突き飛ばす。

 そう言えば、似たような事を少し前に、ミカちゃんにやったな……。


「イニー! イニー!」


 俺の左腕が宙を舞い、地面に落ちる。

 痛みで叫びたいが、その前にドッペルと距離を取らなければ……。


炎よフレイム!」


 ドッペルが振り下ろした刀を反す前に、魔法で吹き飛ばす。


 左腕から血が溢れ出るが、今は回復するだけの魔力が惜しい。


「先輩。直ぐに刀を取って来て下さい。早く!」

「でも、イニーの……」

「先輩がしっかりとしなければ、2人まとめて死にますよ? 私の事より、先にドッペルを倒しましょう」

 

 マリンが顔を蒼白とさせ、俺に縋りつこうとするので、声を張り上げて叱咤する。

 

 残念ながら、ドッペルは俺よりも先に、マリンを狙い始める。多少邪魔をして時間を稼げるが、マリンがしっかりとしてくれなければドッペルを倒すのは難しい。


 魔力も無ければ、雨のせいで血が止まる事無く流れ続ける。

 

 マリンは涙をこらえながら頷き、刀を取りに走る。

 ドッペルも態勢を立て直しているので、魔法で牽制する。


 とは言っても、魔力は既に雀の涙だ。


 とどめの一撃分も残さないといけないが……足りるか?

 最悪は……。

 

 動きを制限するように魔法を使っていると、 マリンが刀を持って戻ってくる。

 

 しかし、髪の色は戻っており、強化フォームが戻っていた。

 だが、ドッペルは強化フォームのままだ。


 まあいい、隙さえ出来れば殺すことは出来る。


「先輩、落ち着いて聞いて下さい。やるのは何時もの訓練と一緒です。先輩が前に出て私が援護する。ただ、最後はこちらでやるので、足止めすることを念頭に置いて下さい」

「わっ、分かったわ。イニー……腕は?」

「大丈夫ですから……行って!」


 視界が少しぼやけ、思考が鈍るな……だが、ドッペルさえ倒せれば止血程度は出来るだろう。


 マリンがドッペルの攻撃を受けに行き、俺は杖を地面に突き刺して支えにする。

 さて、最後の一撃だ。

 

「ふぅ……。流れし血は国を作り、固まりし血は領土を作る。与えるは生命、奪われるは孤独。瞳に映る世界は裏返り、哀れな悪魔は涙する。希望は絶望となり、願いは届かず雨となる」


 杖の意思に従い詠唱を唱える。

 魂を消費するほどではないが、残っているほとんどの魔力を奪われる。

 だが、ドッペルさえ倒せれば、マリンが後はどうにかしてくれるだろう。


「離れて!」


 マリンが多少怪我を負いながらも、強化フォームのドッペルを抑え込み、俺の声を聞いて飛び退く。


恐れる悪魔の涙ディア・イーラ・ティア


 ドス黒い氷槍が複数現れ、3本がドッペルを縫い付ける様に発射されるが、2本はドッペルにより砕かれる。


 しかし、残りの1本がドッペルの足に刺さり、地面に縫い付ける。


 残りの氷槍がドッペルを中心に、六芒星を描くように地面に突き刺さり、空中に裂け目が現れる。


 裂け目から眼の様なものが出現し、黒い雫が落ちてくる。

 

 それがドッペルに当たり、黒い氷の塊が六芒星の中に現れた。


 数秒経った後、氷は砕け、後には何も残らなかった。


 これで終わった……な。

 

 杖を引き抜くと、腕が無いせいでバランスが悪くなり、倒れそうになる。

 今にも気を失いそうだが、結界が解かれない以上、ここで倒れるわけにはいかない。


「イニー! しっかりして! やだ……こんなに冷たくなって……」


 マリンの叫ぶ声が頭に響く。

 全く、この前のA級は問題なかったのに、これでは蜘蛛型の魔物と戦った時と変わらないな。


 『うーん。死にはしないけど結構危ないね。魔力が回復次第、直ぐに治療しないと』


 今回は魔力と血が減った以外は問題無いが、腕が無いのは流石に不味いな……。

 

 雨のせいで身体も冷えるし、意識を保つのも辛い。


 早く結界が解けてくれないだろうか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る