魔法少女楓は友達が…………少ない
「ただいま」
魔法陣が床に現れ、そこから女性が姿を現す。
女性が現れた部屋には幾何学的な模様が描かれており、時折発光している。
その部屋には10席の椅子が置かれており、全てに人が座っていた。
その中にはリンネやロックヴェルトの姿もあった。
「お帰り魔女さん。
「ああ。雰囲気は違ったが、居たよ」
魔女は椅子に座りながら、リンネに言葉を返す。
アクマ達アルカナは、魔女にとっては得難い友と言ったところだ。
幾多の可能性を模索し、その度に世界を滅亡に導いてきた魔女だが、アルカナが現れなければもっと早い段階で
たが、そのアルカナ達も戦いの中で少なくなっていった。
そして、ついには戦いから逃げるものが現れた。
――それがアクマだ。
「本当に居たんだね。最初に聞いたときは眉唾だったが、面白いものだ」
「リンネはどの世界でも、そんなことを言ってたわね」
「それで、全員集めてどうしたのよ? 全員探すのは、結構大変だったのよ?」
10と書かれた椅子に座るロックヴェルトが魔女に毒づくが、魔女はフードの中でかすかに笑う。
「すまなかったわね。一応アルカナも現れたから、正式にプランを開始しようと思ってね」
魔女が手を翳すと、ホログラムが映し出される。
そこにはM・D・Wを始め、様々な魔物の情報やアクマ達アルカナの情報。
そして、イニーフリューリングの特異性について纏められた情報が表示されていた。
多少のどよめきがあるも、直ぐに静かになる。
「先ずは第一段階であるM・D・Wの作戦は失敗に終わった。まあ、8割方失敗しているから気にしなくていいわよ。次はリンネから提案があったから、それを進める予定ね」
「魔女に聞いたところ、例のイニーフリューリングと呼ばれる魔法少女は今回初めて現れたそうだ。アルカナが関係しているのもあるが、少々調べてみたくてね」
魔女の説明を補足するようにリンネが話し、自分の作戦を説明する。
何故リンネがイニーに興味を持ったのかというと、先日ロックヴェルトから聞いた話が関係している。
魔女はイニーフリューリングを知らず、2種類の姿に変身できる魔法少女も初めて見たと言ったのだ。
それだけでも面白いのに、欠損を治せる程の魔法が使え、M・D・Wを倒せるだけの火力がある。
ここまで可笑しな魔法少女は見たことないと、魔女も笑っていた。
今回アクマの反応を捉えたので、そのついでに挨拶する程度には、魔女もイニーついては気にかけている。
そして、リンネの話が終わる。
「作戦の概要はこんな所だが、誰か1人手伝ってくれないかな?」
「私が手伝おう」
5番の席に座る女性が手を上げる。
「そうか。なら来週辺りを予定しておいてくれ。正式に決まったらロックヴェルトを送る」
「分かった」
「大丈夫そうね。それでは今より、正式に”アンヘーレン・プラン”開始だ。”終末の日”までお付き合い願うわ」
魔女はそれだけ言い残し、再び魔法陣の中に消えていく。
残された面々もそれぞれの方法で去っていく。
数人が残る中、リンネは5番の席に座る女性に話しかける。
「君が手伝ってくれるとは思わなかったよ」
「ちょっと面白そうだと思ってね。ヴェルトも2回負けてるんでしょ?」
「仕方ないじゃない。あんな変身したり、両足斬り飛ばしてるのに回復したりとか反則でしょ?」
話を聞いていたロックヴェルトが、野菜ジュースを飲みながら野次を入れる。
1回目は決闘気取りでジャンヌに挑んだら後方から闇討ちされ。
2回目は倒したと思ったら回復された後に姿を変えて襲い掛かって来たのだ。
正直、闇討ちや再起動みたいな事を正義側である魔法少女がするのはどうかと思うロックヴェルトだが、負けは負けなのである。
「いじけるんじゃないよ。相手が悪かっただけじゃない」
5番の女性は手を軽く振ってロックヴェルトを慰めるが、ロックヴェルトとしてはイラっとするだけであった。
戦闘要員ではないロックヴェルトだから仕方ない。そう感じたのだった。
「さっきの説明通り、結界は魔女製の物を使う。恐らくイニーフリューリングも逃げることはできないはずだ」
「私はそのイニーフリューリングを捕えれば良いんだね?」
「ああ。もしも反抗されるようなら殺してしまって良いと魔女は言ってたよ」
リンネとしては捕らえて詳しく話を聞き、あわよくばこちら側に引き込みたい。
回復魔法の素養があるならこちらになびく可能性がある。
アクマと呼ばれるアルカナの問題もあるが、最後に待ち受けるのは破滅の未来だけだ。
魔女に勝つことなど、誰にもできない……。
そして、もしも倒せたとしても、
「了解よ。私はアフリカに居るから、予定が決まったら連絡してね。それじゃ」
5番の女性はそう言い残し、どこかに消えていく。
部屋に残ったのはリンネとロックヴェルトだけとなった。
「リンネはあいつを仲間に引き入れるつもり?」
「そうだね。イニーは万能型と特化型両方になれるし、戦力としても十分だろう。嫌かな?」
ロックヴェルトは飲んでいた野菜ジュースのコップを魔法で出した裂け目に捨て、不満げにリンネを見る。
ロックヴェルトは、ある理由から回復魔法が使える魔法少女を敵対視している。
特に欠損すらも治す、奇跡と呼べるようなことをできる者達は皆殺しにしてやりたい。
それはジャンヌもそうだが、前回の事でイニーも追加されている。
「まあ、仲間になるって言うなら我慢するけど……」
「どうなるかは分からないが、その時は頼むよ」
リンネはロックヴェルトの肩を叩き、部屋を出て行く。
何時もの部屋で本を読むために……。
1人になったロックヴェルトはため息を吐き、任務の為に裂け目の中に消えて行く。
タケミカヅチ殺害の任務を失敗したせいで、魔女から割り振られたのだ。
これにより、ロックヴェルトの暇な時間が大幅に減ったのであった。
1
その日、楓は朝からそわそわとしていた。
楓は友達が少ない……語弊が無いように言っておくが、魔法少女としての付き合いならば、かなり多い方だろう。
だが、あくまでも仕事上の付き合いであり、遊んだりなどの付き合いはない。
1位としての仕事が多忙過ぎるのもあるが、殆どの魔法少女は楓を恐ろしい人物だと思っており、近づこうとすらしないのだ。
そんな中、楓に相談があって会いたいという、奇特な魔法少女がいた。
その名はイニーフリューリング。愛称はイニー。
新人どころか、魔法少女としてあり得ない量の魔物を倒し、準とはいえSS級を倒した魔法少女だ。
その準SS級のM・D・Wを倒した際に手に入れた魔石は諸事情により全て寄付する形となり、それにより魔法少女用の服が大量に作られる事となった。
それはショッピングモールほどの規模にまで発展し、今日も賑わっている。
ついでに、楓が学園に放り込んだ魔法少女でもある。
折角なので、学園での生活や、タラゴンと暮らして居た時の事も聞ければいいなと考えながら、自分の執務室で楓はイニーが来るのを待つ。
楓が紅茶を淹れていると、3回のノック音が部屋に響く。
「どうぞ」
失礼しますという声と共に、扉が開く。
白いローブにフードを被った魔法少女、イニーが来たのだ。
「今、紅茶を淹れているので、座ってお待ちください」
「分かりました」
慣れた手付きで紅茶を淹れ、お菓子と一緒にイニーの前に出す。
「会うのは学園に入学する時以来ですね。体調は大丈夫ですか?」
「体調の方は大丈夫ですね」
楓がイニーと会うのは、イニーがタラゴンの家に向かった日以来だ。
タラゴンとは何度か会っており、その度にイニーの事を聞かされていた。
イニーの事を話す時のタラゴンはデレデレとしており、鬱陶しいほどだ。
仕草が可愛いのとか、食べるのが遅くて可愛いとか、非力な所が可愛い等、姉バカというよりは親バカだった。
「タラゴンとの生活はどうでしたか? 迷惑とか、鬱陶しくなかったですか?」
「……正直面倒臭い人でした」
何時もは謙遜したりするイニーもこればっかりは素直に答えるのだった。
イニーとしても、お風呂に入ってる時に突撃されかけたのは、トラウマになりかけていた。
「あの人のお節介は筋金入りですからね。悪い人ではないんですけど……」
昔からタラゴンに助けられた魔法少女は多いのだが、その破天荒さやお節介焼きな面から、話題に事欠かない人物である。
「一応お世話にはなっています……」
「コホン……それで、今日は何の用でしょうか?」
これ以上タラゴンの話題を出せば、濁っているイニーの目が更に酷くなると思い、話題を変える。
因みに、当の本人であるタラゴンはまだ世界巡りの途中である。
「ジャンヌさんに聞いたのですが、魔法少女の武器を召喚出来るのは本当ですか?」
「――一応機密事項なんですけどね。何が知りたいのですか?」
ジャンヌの
それは身を守るためでもあり、強すぎる力は人を狂わすからだ。
イニーが結界に侵入できる能力を公表していないのも同じ理由だ。
イニーの場合は広く知られてしまっているが、公表しているかいないかは大きい違いである。
そして、イニーはM・D・Wの戦い以降、杖が使えなくなったことを話す。
勿論図書塔で調べた事や、ジャンヌに聞いたりしたこともだ。
「なるほど……武器が無くなると普通は変身など出来なくなるんですけどね。イニーの武器は見た事があるので、一度試してみますか」
楓が座ったまま空に手をかざすと、魔法陣が現れ、そこから見慣れた木製の杖が現れる。
それを手に取り、楓は微妙な顔をする。
「なるほど。杖に特殊な能力があると思っていたのですが、補助的な能力しかないんですね……」
楓はイニーがM・D・Wを倒せた理由がこの杖にあるのではないかと思ったのだが、実際に確認してみて落胆した。
能力が魔法と魔力の補助しかなかったのだ。
つまり、武器が凄いのではなく、イニーに何かがある。そう、楓は考えるのだった。
「一応召喚してみましたが、所有者は私なので、どうなるかは分かりませんよ?」
元の持ち主はイニーだが、今は召喚者の楓に所有権がある。誰かに自分が召喚した物を使ってもらったりした事はあるが、それが永続的に続くことは無い。
楓が込めた魔力か、楓の意思一つで消す事が出来てしまうのだ。
「駄目で元々なので、大丈夫ですよ。お願いします」
「分かりました。それではどうぞ」
楓は持っていた杖をイニーに渡す。
そして……。
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