魔法少女とS・B・T(サポート・ブースター・タラゴン)
(時間だな)
『万全とは言えないけど、頑張っていこう』
タラゴンさんから与えられた休憩時間を終え、集合場所に向かう。
結局良い魔法を思いつくことはできなかったが、出たとこ勝負なのは何時ものことだ。
「来たわね。準備は良い?」
まだと答えてみたいが、この雰囲気の状態で冗談を言うのは流石に野暮だろう。
「大丈夫です。何時でも行けます」
「そう……。分かったわ。他の3人も私が帰ってくるまでの防衛を任せるわよ」
「はい」
3人か一緒に返事をする。
スターネイルとブルーコレットはともかく、マリンの顔色が悪いが大丈夫だろうか? 帰ってきたら全滅してましたなんて、笑えないからな?
そんな俺をよそに、3人は一般人を連れ、更に後方に下がっていく。残された俺とタラゴンさんは作戦の最終確認を始めた。
「もう後戻りは出来ないわよ? やるからには、絶対に勝ちなさい」
ハナから負ける気はないが、勝ったら勝ったで、その後が問題だからな。
カギとなるのは、何が要因で爆発を起こしているかだ。
爆発の核となる場所があるなら、もしかすれば……。
そもそも、そこまでたどり着けるかどうかも分からないがな。
M・D・Wの距離はおよそ50キロ。前回の時は、半径20キロ圏内に入ると攻撃を受けたらしいが、今回はもう少し余裕を見た方が、良いだろう。
召喚される魔物も、運が悪ければS級も出てくるかもしれない。俺の火力では、M・D・Wの装甲を撃ち抜けない可能性だってある。
ああ、困難な仕事程
「こんなことになってごめんね。どうか、私を恨んでちょうだい」
おっと、少し現実逃避をしすぎたな。
「恨みませんよ。それじゃ、お願いします」
タラゴンさんは俺を抱きかかえ、魔力を高めていく。髪が炎の様に揺らめき、徐々に気温が上がっていく。
「いくわよ。吐かない様に気を付けなさい!」
そしてタラゴンさんは飛んだ。
思ったより風圧を感じないが、流れる景色が速さを物語っている。ジョットコースターなんて目じゃないな。
(これ何キロ位出てるんだ?)
『大体500キロ位じゃないかな?』
俺では出せない速度だな。超速度と豪語するだけの事はある。500キロって事は、あっと言う間にM・D・Wの射程圏内に入りそうだな。
「来るわ! なるべく避けるけど、多少は手伝ってね!」
M・D・Wの方から、砲撃だと思われる光が見え始める。狙って撃ってくるというよりは、面での攻撃だ。
砲撃の他にも、空中に浮かんでいる魔法陣からも、魔法が飛んでくる。
これが特S級か……怖いものだな。
「
あまり助けにはならないだろうが、風の推進力を追加する。
ついでに、タラゴンさんから発射される時に備えての準備とする。
タラゴンさんは弾幕に突っ込み、避けれるものは避け、無理なものは爆発させる。
多少の被弾は無視をする代わりに、速度を落とさずに飛ぶ。
きっとこの戦いを客観的に見る事が出来たら、手に汗を握る事だろう。付き合ってるこっちは、かかる
(さて、もうそろそろ
なるべく平常を保ち、何時もの様にアクマに語り掛ける。大丈夫だ、俺ならやれる。
『ふふ。そうだね。なら飛び切り辛いのでも、良いかい?』
(辛いのは何時もの事だろ? 時間もないし、手短にしよう)
『なら今回は、敵勢魔物であるM・D・Wの完全沈黙並びに、迎撃用魔物の8割以上の撃破。そして……生きて帰ろう』
(おう。
男なら仕事はスマートにこなし、契約は守る。
「もうそろそろ離すわよ。準備は良い?」
時間か……さて、魔法の準備は整っている。後は唱えるだけだ。
「ええ。何時でも大丈夫です」
「……生きて帰って来いなんて言わないわ。どうか……、どうか私達の為に、死んでちょうだい」
タラゴンさんは、本当に良い魔法少女だな。最後まで憎まれ役を買って出るなんて……。だが、俺にはアクマとの
タラゴンさんが憎まれ役を買うなら、こちらは少しだけ、カッコ付けさせてもらおう。
「魔法少女としての責務は果たします。
「っ! ……後は頼んだわよ!」
頭に水の様な何かが、落ちてくるのを感じた後に。大音量の爆発と共に俺は射出された。
頭に何が落ちて来たのかなんてのは分かるが、ここは男として黙っておこう。
「
移動用としてではなく、攻撃の要として背中から、光り輝く翼を生やす。
あくまでも攻撃用なので、威力の減衰は無い。
『M・D・Wまでおよそ10キロ。詳細な攻撃方法は分からないから、常に警戒は怠らないようにね』
注意深く観察し、情報精査して答えを出すのは慣れている。まあ、身体が追い付くかは別問題だがな。
タラゴンさん程上手くはいかないが、翼から魔法を発動して、迎撃を行う。威力が高そうな物は多少の被弾を覚悟して避ける。
(手が足りないなー!)
近づく前に魔法を使い過ぎれば、唯でさえ火力不足なのに、更に酷くなる。
『残り2キロ。……不味い! 誘導弾がきてるよ!』
ただでさえ辛いのに、追尾もしてくるのかよ!
近づくにつれて、M・D・Wの全容が見えてくる。魔物というよりは、機械仕掛けの超大型要塞だろう。4枚のカタパルトらしきものと、戦艦に積んであるような砲身が見える。
昔の事だが、人は戦車には勝てないってどこかで読んだ事があるが、これはそれより酷いな。
「
直撃すれば、そのまま消し飛んでしまいそうな弾が身体を掠め、血が噴き出る前に治していく。
短期決戦ならば出血を気にしないが、大量の出血は思考能力の低下となる。
一瞬の判断が生死を分ける状態で、思考が鈍るのは困る。
だが消費魔力の多い回復魔法の使用はギリギリまで抑える必要があるが……その塩梅が難しい。
『先ずは第一作戦成功って所だね。もう少しすれば迎撃用の魔物も来るだろうから気を付けてね』
(ここまで来るのに2割程度魔力が減ったけどな。それでも、まだ戦える)
「秘められし混沌の力よ。天翔ける光となり、終息をもたらせ」
出来る限りアクマから魔力を引き出し、背中に展開している翼に伝達させ、翼の数を二対四翼にする。
移動用の速度重視と最低限の迎撃に、機動力と攻撃力を足す。
先ずは魔物を捌きながら砲台の破壊だ。一部とはいえ、防衛の方にもこの攻撃は届いている。被害軽減の為にも、砲台の破壊は優先しといた方がいい。
『魔物の反応を多数確認。これは……最低でA級。でも殆どがS級以上だよ!』
流石変異種ってところか。絶望させるのが得意だ。
普通に戦えば、1体にすら苦戦するが、勝てないことはないだろう。だが、そんな相手が数えきれない程出てくるとは……笑いが出てくるな。
これは折角生やした翼も、牽制程度にしか使えないかな?
なあ杖よ。こんな時に役立つ魔法とかあったりしないものかな?
答えなんて期待してないが、愚痴りたくもなる。
これまで培ってきた魔法の知識を使い、出来る限り砲台を破壊して、魔物も倒せる奴から倒していく。
頭では理解している。このままではM・D・Wどころか、迎撃用に召喚される魔物すら倒しきれないだろう。
戦闘開始時の魔力残量が、回復分をいれて6割ちょい。M・D・Wに近付く為に2割程消費。
砲台を壊すのも、魔物を倒すのも、毎回全力の魔法が必要だ。
エレメントフリューゲルにも常に魔力を吸われ、常に全力で走っている様な戦いを続けた。
だがら、まあ。そう言うことだ。
『魔力残量無し……』
砲撃の直撃をもらい、かなり遠くまで吹っ飛ばされた。
その時の防御に魔力を割いた結果、回復する魔力さえ残らなかった……。
(見事に空っぽだ。タラゴンさんと戦った時と同じ位酷くないか?)
魔力を節約する時、どうしても最初に削るのは回復魔法となる。被弾や魔物の直接攻撃による裂傷。幸い千切れる事はなかったが、何度骨が折れただろうか?
壊せた砲台は6割程度。魔物は減ってるかどうかすら分からない。
魔力の無い魔法少女など、ただの人だ。それに、死にたくなかっただけで、そんなに未練がある訳でもない。
タラゴンさんには悪いが、全て背負ってもらおう…………なんて諦められる程、俺は
魔力が無い? 身体が動かない? 命が、心臓が動いてさえいれば諦める理由にはならない。
さあ、
(さあ、闇に落ちよう)
『ハルナ……君はまだ足掻くんだね……』
アクマには悪いが、俺の我が儘に付き合ってもらう。なに、
「
ボロ切れとなっているローブから、黒いゴスロリと和服を足したような服装に変わる。
髪の色も抜け落ち、白銀となる。
杖の代わりに黒剣を携え、眼前に迫る魔物と弾幕を見据える。
ある時から噂になった情報がある。魔法少女の
弱い魔法少女には、魔法少女となった理由が殆ど無い。なれるからなった者がほとんどだ。
タラゴンさんや楓さんなど、強い魔法少女には何かしらの、強い想いがある。
挫折や後悔。憎悪や執念など、様々な想いがある。
例え紛い物の魔法少女でも、想いがあれば戦えるはずだ。
魔法少女に
『何これ……魔力なんて、もう無い筈なのに! こんなことあり得ないよ!』
(アクマが教えてくれたことじゃないか。魔法少女に不可能はないってな)
砲撃や魔法を、障壁を
突っ込んでくる魔物は黒剣を振るって塵に返す。
『だからってこれじゃあ……。こんなことが
微妙にアクマの言動に違和感を感じるが、それに構っている暇は無い。
戦いはまだ途中だからな。
「断空・ホークスラッシュ」
空を分断するような、大きな衝撃波を複数飛ばし砲撃を防ぎ、空の魔物を殺す。先程みたいにチマチマではなく、一気に倒せて楽だ。
そして開いた空間を、障壁を足場にして通り抜ける。
アクマは驚いていたが、この力にはちゃんと理由がある。ちょっとばかし、命を燃やしているだけだ。
これは有限であり、制限のある力だ。何故そんな事が出来るのかと聞かれれば、俺の能力は
魔力の代わりとして魔法を使うには、申し分無い。まあ、流石に白魔導師の方では、燃費的に使えないがな。
それに、俺の
この
一撃一殺で魔物を殺し、残りの砲台を壊していく。砲台が少なくなると、それに比例するように魔法陣が増え、俺目がけて魔法が飛んでくる。
攻撃は最小限で避け、障壁で直撃しない様に逸らす。
一時としてその場には留まらず、最も効率の良い方法を考えながら破壊を続ける。砲台を……魔物を……魔法陣を。一刻と迫る
俺の命が尽きる前に、砲台を全て壊すことに成功する。後は蝿のようにうざい魔物と、M・D・Wを壊すだけだ。
(後少し、後少しだ。M・D・Wを破壊する為の魔法は考えた。魔物を殺しながら準備を整え、白魔導師に戻って魔法を使えば……)
心臓を締め付けられるような痛みが走り、一瞬意識が飛ぶ。本当の限界まであと少しだと、身体が教えてくれる。
『……ねえハルナ。君が苦しむ必要なんてないんだよ? 諦めて死んでも良いんだよ?』
これが
魔法少女になる前の俺か、魔法少女になったばかりの俺なら、誘惑に負けたかもしれない。
(ふっ。最初の頃とは大違いじゃないか)
娯楽や好奇心だとか言って、俺を弄ぼうとしてた頃が懐かしい。
もう1カ月か、まだ1カ月か、お互いに影響を受けているようだな。
何度世を恨んだか分からない。何度滅べと呪詛を吐いたか覚えていない。魔法少女が溢れ、魔物が溢れ。最後には魔法少女に殺され……。
そして、
(見ておけよアクマ。こんな世界でも。こんな俺でも、何かできるってところをよ)
『そう……なら、何も言わないよ。ただ、ハルナには最後の時まで付き合ってもらうよ』
最初の契約通りだな。アクマの好奇心が、これで満たされるのを願ってるよ。
残りの魔物は、アクマの感知上500体。それを倒しながら下準備を終わらせ、M・D・Wを破壊する。
「さあ、
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