魔法少女。チュートリアル戦に挑む
グリントさんの『リンド』は素晴らしかった。
光沢のある白い装甲の輝き。各武装の入れ替え動作。
あれ程男心を擽られるものはない。だが、テンションが上がっていた俺はタラゴンさんの「戦うわよー」を聞き流してしまった。
その結果、俺は魔法少女ランキング5位。魔法少女タラゴンことエクスプロ-ディアとシミュレーションで戦うこととなった。
(アクマさん情報プリーズ)
『完全に自業自得なのにね~。確かに、あの機体には目が惹かれたけど、だからって適当に返事しちゃうなんて……』
(男の子だもん。仕方ないじゃないか)
アクマは
似たような魔法少女で9位の人も居るが、彼方はロボットではなくパワードスーツの様なものだ。
確かに心惹かれるものがあるが、俺は純正ロボットの方が好きだ。
(後で何か買って上げるので、機嫌を治してください)
『まあいいや。タラゴンは爆発の
勝つと言いたいが、実力や経験も違い過ぎる。中身は良い歳した大人だが、経験は1ヶ月もない。
「成り行きでシミュレーターに向かってるいるが、本当に戦うのか? 言っては悪いけど、タラゴンはヤバイぞ」
ファンと伝えてから妙に優しくなったグリントさんが心配してくれるが、どんな状況でも、一度した約束を破るのは駄目だ。
「大丈夫です。問題ないです」
再び被ったフードにより俺の顔は周りには見られていないが、恐らく俺の顔はニヤついているだろう。
デメリット無しにランカーと戦えるなら、願ったり叶ったりだ。
『恐らく相手も手加減はするだろうけど、私としても勝ってくれると面白いね』
(いつの世も
お茶会会場からシミュレーターのある場所までは遠くなく。歩いて数分程だった。
途中ですれ違う妖精や魔法少女に変な目で見られたが仕方ない。
顔を隠している不審者が
「ここにあるのは
『訓練所の奴よりゴツゴツして性能が高そうだね』
(俺はヘッドギアの奴しか知らんが、まるで繭だな)
通された部屋には無数の繭みたいな物と、ゴテゴテとした操作パネルが、無数に置かれている。
待機室と呼ばれる部屋には大きなモニターが3つ設置してあり。ここでシミュレーション中の戦闘を見ることが出来る様だ。
「設定はデスマッチで痛覚はそのまま。場所はランダムだから頑張ってね」
到着して呆けていたら、タラゴンさんに手を引かれ、繭に寝かせられた状態で、ルールを聞かされる。
『補足だけど、この繭により精神体のみを結界の空間に似た場所に送るんだ。
何を安心すれば良いのか分からないが、殺しても死なないなら安心して
所詮負け戦だし、精々楽しもう。
ふと視界に入った楓さんとグリントさんに手を振り、フードを深く被り直す。
アクマが使う転移の時のような暗転を感じると、何時の間にか広い荒野に立っていた。
軽く身体を動かして確認をする。
ヘッドギアを使った時とは全く違い、生身と変わらない感覚がする。
軽く頬を抓ると結構痛い。
『正面200メートル程先に反応を確認。先手必勝だよ』
アクマも一緒に来れたことに驚きを感じながらも、眼を細めてタラゴンさんの方を見る。うっすらと人形が見えるが、先手を取れるなら今だろう。
気持ちを切り替えて、杖を構える。
さあ、派手にいこうか。
「
五本程、炎の槍を飛ばすが、全て途中で爆散してしまう。
『魔法対消滅。後出しでも簡単に蹴散らされたね』
あれがタラゴンさんの
「っ!
追加の魔法を放とうとすると目の前に違和感を感じ、とっさに自分を空に飛ばす。
その瞬間、俺が居た場所にはダイナマイトが爆発したような跡が出来ていた。
『当たれば一発でアウトだったね』
(あれでも様子見なんだろうな)
大きな爆音と共に突っ込んでくるが、まだ距離があるので。炎以外の魔法で次の手を打つ。
「
「やるわねー。でもそんなんじゃ温いわよ?」
タラゴンさんを中心に大きく地面を割るが、爆発を利用して空を跳んでくる。
だが、そんなこと位は予想の範囲内だ。
むしろ空を飛んでくれた方が都合が良い。
「
地表からタラゴンさんに向かって氷の礫を大量に飛ばずが、タラゴンさんは避けるように跳んで、此方に向かってくる。
「先ずは一発。死ぬんじゃないわよ?
腹を抉られる様に殴られ、更に上空に飛ばされる。
口から血が出るが、内臓が飛び出ないだけマシだな。
「
これで一旦大丈夫だが、良い感じに飛ばしてくれたので、このまま次に活かせてもらおう。
空を飛ぶのに使った魔法を切り、そのまま慣性に従って割れ目に落ちていく。
「
逆さの状態で落ちていく途中で、タラゴンさんと目が合う。
此方を見る眼は次に何をするのか、ワクワクしている様に見えるが、その顔を歪めるために
「我が名の元に、
空に飛ばした魔法を起点に端が見えない程の氷の塊を出現させる。
タラゴンさんも上空に現れた氷を目にし、俺の発動してる、他の魔法を無視して突っ込んでくる。
その顔は多少とは言え。慌ててる様に見える。
割れ目に真っ逆さまに落ちる俺と、天を覆う巨大な氷。
魔法使い同士の戦いは大味になってしまうが、これも醍醐味だろう。
「
「バカー!」と、叫びながら追ってくるタラゴンさんを尻目に俺は割れ目の中に沈んでいく。割れ目が閉じると、土の中に居ても分かる程の振動と、轟音が響くのを感じた。
(まあ、こんなんで終わる訳ないよな)
『反応は今だ健在だね』
簡単な
「
俺の足元を起点に広範囲の地面を隆起させる。
地表を突き抜け、20メートル程そのまま伸ばすと、俺の目線の先にタラゴンさんが現れる。
「今のはちょい焦ったよ。良い魔法ね」
爆発を細かくして滞空するって、よくやるな。
「次は仕留めます」
多少汚れてはいるが、全くの無傷って……この人あれをどうやって対処したんだよ……。
「じゃあ、私もギアを上げていきましょう」
その言葉と共に、タラゴンさんの髪は輝きをまし、周囲の気温が上がる。
先程までの様子見の時とは違う、明確な殺意を感じる。
此方はまだ新米だと言うのに、殺意が高すぎませんかね?
(痛いのは好きじゃないが、
『死なないとは言え無茶はしないようにね』
(俺が即死すれば無茶も糞もないけどな!)
「さあ、
「雷よ纏え。疾風よ。
威力が低減される補助魔法を二つ重ね、それなりの速度を得る。
俺がその場から逃げると、それを追随するように爆発が追ってくるが、空をジグザグに進んで逃げる。
だが、後ろから追ってくる爆発は、どんどん数を増やし、俺を追い詰める。
下手に逃げ回ってもこのままでは爆発に呑まれてしまう。
タラゴンさんからは多少距離を取れたが、焼け石に水だろう。やはり此方から攻めるしかないか……。
まだまだ魔力には余裕はあるし、取り敢えず炎には水だろう。
「
タラゴンさんを囲むように大量の水球を撃ち出す。
当たれば骨位折る威力だが……。
(いや、そんな気はしてだが、あれは狡くない?)
『爆発も元を辿れば熱だからね。あんな芸当も出来るでしょ』
撃ち出した水弾は、当る前に全て蒸発していた。
これでは幾ら撃った所で、全て水蒸気になってしまう。
「そんな水遊びじゃ私は倒せないわよ! やるなら全力で来なさい!」
B級位なら余裕で倒せる魔法なんだが、これもランカーにとっては遊びと変わらないと……。
いいね。やはり戦いは
自然と上がる口角が心地良い。魔法少女には憎しみしかないが、今は全て忘れておこう。
「
空の上から巨大な氷の槍を降らせて、時間を稼ぐ。
距離を取る軌道から、タラゴンさんの頭上を目指す軌道に変える。
流石に氷の槍を溶かしきる事は出来ない様だな。
絶対零度とはいかないが、固くした甲斐がある。
後は氷の落下位置をそれとなく修正しながら、一気に駆け抜ける。
「嫌な気配がするわね。口惜しいけど終わりにしましょう。
何かを言っているのを微かに耳で捉えると、強烈な熱と痛みが左腕から伝わってきた。
『左腕爆発。出血が酷くなる前に治して!』
(クッソ痛いが、まだ我慢出来る)
「
再生よりも、失血をしないように治していく。杖を持っている腕を爆破されなかったのは運が良い。
それに一発食らったおかげで、爆発前の魔力の揺らぎが何となく分かるようになった。
直接身体を狙った爆発のみを避けながら、予定位置に急ぐ。
何発かは身体を掠めるが、魔法の準備の為に回復は最小限に留める。
途中でフードが消し飛び、髪が風によって暴れる。
白いローブも煤や血で汚れてしまった。
だが、準備は整いつつある。
地面に突き刺さした氷の下準備は問題ない。
繰り出される爆発はかなりきついが、タラゴンさんもこっちの魔法で牽制出来ている。
『前も思ったけど、よく魔法から魔法に繋げられるよね』
(仕事がデザイナー兼設計だったからな。組み立てや組み合わせはお手のもんさ)
最後の最後で左足を爆破されたが、指定位置までは来れた。
さあ、今度は耐えられるかな?
「魔法の主たる我が命じる」
地表に突き刺さっている氷槍を起点とし、魔法陣が描かれていく。
「契約の元、その身に宿す力を使わん」
氷槍の先から溢れる光が俺の持つ杖へと集まり始める。
リソースの関係でタラゴンさんに撃っていた分の魔法を止めると、タラゴンさんが猛スピード突っ込んでくるのが見える。
だがギリギリ、こちらの魔法は間に合うはずだ。
下準備とばら撒いた俺の魔法の残滓を使い、詠唱の8割をカット。被害軽減の為の魔法も展開済みだ。
「虚無の彼方に消えるがよい。
杖の先に出来た魔法陣から、轟音と共に極太の雷の様な光が放たれる。
タラゴンさんも何かしらの
『魔力量4割まで低下。それと失血が結構酷いよ』
(言われずとも分かってるさ! 糞痛いのを我慢してるんだからな!)
守りに力を割いているとはいえ、威力は前に使った
それを当たり前のように防いでいるのだから、
(だからって負けたくはないよなぁー! 一応男の子だし!)
神撃に割いてるリソースのせいで、これ以上は魔法を使えない。だが、どうせ死なないのなら限界の先に手を出しても良いだろう。
「深淵なる魔の力よ」
沸騰するような、頭の痛みを気力で抑え込み、赤く染まる視界で、タラゴンさんが居るであろう方を見据える。
「天光満つる輝きの元、仇なすものを滅ぼさん」
『流石に諦めて負けを認めても良いな~って、アクマちゃんは思ったりして』
物理的に手足の数本吹き飛ばされ、現状も片足は吹き飛んだままだし。失血のせいで意識も飛びそうだ。
それでも俺は今、心の底から
いや、一瞬雑念が入ったな。兎に角これで駄目なら、文字通り
(文字通り最後の一撃だ。これで駄目なら諦めるさ)
「
神撃の魔法に追加で魔法を重ね、神撃のエネルギー砲を圧縮して爆発を起こす。壁を作らなかったせいで俺自身も巻き込まれて吹き飛ばされるが仕方ない。
(あの時の様に身体が動かないな……)
『魔力残量0。失血防止に割いていた分もないから、このままじゃ失血死かな。私の魔法も使えないから、タラゴンがどうなったかは分からないね』
大量の魔力を一度に消費した事により、ギリギリ保っていた意識が闇に落ちていく。タラゴンさんを倒せたかを確認できないまま、俺は死亡判定となり意識を失った。
『生きてるかー?』
世紀末状態の荒野から一転。タラゴンさんに放り込まれた、繭に戻って来たようだ。
『鼻血出てるから拭いときなよ』
(どうも。さっきまでの痛みは無いけど、サウナを限界まで我慢した時みたいに、体が重い)
『シミュレーション上とはいえ、最後にはあんだけ有った魔力が空になってるからね。仕方無いよ』
よっこらせと繭から出て、グリントさん達が待っている待機室に向かう。
スライド式のドアが開き、待機室の中に入る。
そこには 正座させられて、他の三人に怒られてるタラゴンさんが居た。
こんな時、どんな顔をすれば良いんですかね?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます