集う魔法少女達!(欠席半数以上)
「今日の出席者は5人ですか。全員参加して欲しいのですが……」
妖精界にある、お茶会と呼ばれる会議専用の部屋で、そう零す魔法少女が居た。
彼女こそは魔法少女ランキング1位に輝き、『支配領域』の
その名も、魔法少女楓である。
「10位、9位、8位は欠席で、6位は何時もの依頼で欠席。3位は昨日の夜起きた、事件の調査の為に欠席ですか。はあぁ」
どうしたものかと少女はため息を零す。
少女の代になってからランカー全員が出席したのは1度しかなかった。それも最初の1回のみだ。
折角1位になったので、頑張ろうと思っていた彼女は最初のお茶会以降、満席になる事のないこの会場でため息を零す様になった。
そして最近目立つ様になってきた魔法少女による被害や魔法局の腐敗等、彼女の心労が積み重なる事ばかり増えてきた。
何とかしようと頑張るも、彼女に出来る事は少なかった。暴力に訴えれば簡単に事は運ぶだろうが、それができる程彼女は非情ではない。
そんな彼女に光が差す。それが今回お茶会にゲストとして呼んだイニーフリューリングだ。
新参でありながら力があり、
彼女なら現状を打破してくれるのではないかと、
正直な所、駄目だろうと彼女は思っていた。何なら返信すら来ず、無視されるのではないかとも思っていた。
度重なる心労により、どうしてもネガティブになってしまう。
参加の返信をもらった時は思わずガッツポーズをした。
(どうか良識のある方であると良いのですが……)
その様な事を考えながら、今日の
そこには様々な事が書かれている。
資料の最後には要注意の三文字が書かれていた。
(さて、もうすぐ時間ですが、皆さん遅刻しないで来てくれるでしょうか?)
ランカー達にはイニーフリューリングよりも20分前に来るように連絡してある。
その時間まで後5分。
彼女はどうしても心配になってしまうが、待つ事しか出来ない。連絡を入れても良いが、昔やりすぎて怒られてからは控えるようにしている。
少し様子でも見に行こうかと考えていると、扉が開かれた。
「お待ちしておりました。席にお座り下さい」
入って来た3人に向けて彼女は微笑んだ。
「遅くなってすまんな。後は2位の彼女待ちかな?」
4位の席に座った魔法少女が言った。
彼女は5メートル程ある
『白騎士』の異名で呼ばれているが、機体は射撃が主体である。また、その機体の大きさや性能の関係で1日で
その名も魔法少女グリント。
「ええ、彼女は事情もありますから。来ないなら先に始めようと思います。今回はゲストも居ますからね」
「ゲストって例の新人さん?」
4位と1位の会話に5位の椅子に座る少女が加わる。
「はい。出来れば現状打破の鍵になれば良いと思いまして」
「最近では日本にもあまり居られないしねー。私の後輩にも話はしてるけど、日本の環境はちょっと危ないかなー」
ランカー達はその強さ故
日本はB級は多く出るがA級やS級等の、討伐が難しいとされる魔物があまり現れない。
彼女らが学生であったなら、学生の身分を盾に、日本に居座る事も出来たのだが、10人の中で最も若いのが1位の19歳である。そもそも少女は居なかった。
また、魔物による被害や魔法の発展により、日本の義務教育は16歳までとなっている。
「そう言えば昨日の事件の事は聞いたー?」
「はい。魔法少女2人が倒された事件ですよね? 自業自得とは言え、2人を無傷で倒した魔法少女には興味があります」
昨日の夜にハルナが起こした魔法少女襲撃事件は既に広まりを見せており、情報に明るい者は皆知っていた。
魔法少女が倒される事件となると、通常は犯人を探すために各所が動くのだが。魔法少女同士の争いを止める為に倒したとなると話が変わる。
一応犯人の魔法少女は探すが、見つかっても注意と称賛をされて終わりとなる。
そもそも魔法少女の見た目は、個性的なのが多いのですぐに見つかる。
だが、被害者からの証言を元に探したところ、犯人となる魔法少女は該当しなかった。
「報告では剣と恐らくバリア的なものを使用。後は移動に関する能力を持ってるみたいですね」
「普通に強いだけって感じかな? 次報告が上がるまでは保留な感じ?」
「ええ、緊急性もありませんからね。さて、予定時間になりますので出席の確認をします」
10ある内の4席が埋まり、各自が姿勢を正す。
「4位、白騎士」
白いパイロットスーツの様な服を着た少女が頷く。
「5位、
髪が炎の様に揺らめく少女が手を上げて返事をする。
「7位、剣王……えい」
剣王は椅子に座ったまま寝ており、1位が召喚した金ダライが頭に直撃して目が覚める。
「あい」
満足したように頷き、金ダライを消した。
「以上3人と1位の支配領域にて今回のお茶会を始めます」
1位の支配領域の
この出席確認は今代から始めるようになり、本人以外から不評である。
「今回は例の新人をゲストとして呼んでいます。主な議題は日本の魔法局と魔法少女の質の低下についてです」
昨日の魔法少女同士の争いによる被害や、1ヶ月前の一般人を巻き込んだ事件。他にも魔物の討伐が遅れたり、魔法局による魔法少女の私的利用などが問題となっている。
「日本だけではなく、世界的に問題ではあるけどね」
白騎士はやれやれと肩を竦める。
「魔法局の方は後回しですが、魔法少女内の争いは新人の方にお願いしようと思います」
日本に居られる時間も少ないのだが、基本的にランカーは火力が高過ぎるため、重傷を負わせずに鎮圧するのが難しいのが多い。
丁度良く現れた新人にお願いするのはそこら辺の関係があった。
「さて、次ですが……どうやら到着した様ですね」
1位のスマホに連絡が入り、新人ことイニーフリューリングが到着したことを知らせる。
相手となる魔物を消滅させる程の火力を持ち、回復すら出来る欲張りセットの魔法少女。
謎多き魔法少女がついにお茶会に現れる。
コンコンコンコンと4回扉が叩かれる。
1位の彼女はその事に感動する。
魔法少女は当たり前だが子供が多い。その為に礼儀やマナーがおなざりな者が多い。
たかがノック。されどノック。彼女はイニーフリューリングの評価を1段階上げた。
「どうぞお入り下さい」
扉が開かれ、イニーフリューリングが入室する。
白いローブにフードは被ったまま。流石に杖は持って居ないが、その姿は何時もと変わらない。
彼女は指示に従い席に座る、その振る舞いは少女にしては洗練されていた。
「先ずは自己紹介を、魔法少女ランキング1位こと魔法少女楓と申します」
「4位の魔法少女グリントだ。宜しく頼む」
「5位のタラゴンよ。人が少ないのは気にしないでね」
「7位のブレード。ちんまいな~」
楓から順に自己紹介がされる。イニーフリューリングも都度頷いて答えるが、グリントに対してだけ熱意の様なものを感じさせた。
「あなたの自己紹介の前に、そのフードを脱いで頂くことはできますか?」
少しの間の後に頷き、フードが前に揺れる。
両手でゆっくりとフードを脱ぎ、その美しく輝く青髪が現れる。フードの外にかきあげられる髪は長く、その美しい顔立ちに良く合っている。
だが、楓は彼女の眼を見て驚く。幼くも美しい顔立ちに反比例して濁った様な、深い海の底の様な眼。
その眼から感じるものに胸が締め付けられる。
「魔法少女イニーフリューリングと申します。この度はお招き頂き、光栄です」
その声を聞き、楓は我に返る。先ずは今日のお茶会を無事に終わらせよう。そう思うことにした。
「今回あなたを呼んだのはお願いとお礼を言うためです。魔法局からのクレームもありますが、こちらは無視で構いません」
「もし直接なにか言われても無視で構わないわよ。魔物の討伐は早い者勝ちが当たり前よ」
楓の発言にタラゴンが補足するように続く。
クレームの内容は、魔法局が出動依頼を出した魔法少女以外での、魔物の討伐を控えてくれと言ったものだ。
魔法局が正常に機能していたならこのクレームも正当性があるのだが、ランキング工作や裏金等の不正も目立っており魔法局の意向などランカー達や上位の魔法少女は無視している。
「先ずは1人の魔法少女を結界内から救い出してくれたことに、お礼を言います」
「あれは偶然なので気にしないで下さい」
表情の変わらない顔を見るに、本当にそう思ってるのだろうと楓は感じたが、偶然で助ける様な場所ではないのですが……、と思わずにいられなかった。
「1人の魔法少女として、私が感謝しているのは覚えていてくれると嬉しいです。それと詳細は話さなくて良いのですが、あなたは結界に自由に出入り出来るのですか?」
これにも彼女は少しだけ間が空いた後、頷いて肯定した。結界を壊せるものはそれなりに居るが、壊さないで侵入出来る者はあまり居ない。
此処に居るランカーでは5位のタラゴン以外は結界を容易く壊せる。タラゴンも壊せるのだが、
因みに結界には
魔物の討伐や魔法少女を助けるのは大事なことなのだが、それで被害が拡大しては元も子もない。
「そうですか、此方のお願いは日本での
実際には魔法少女同士の争いが有った場合の、仲裁もお願いする予定であったが、彼女の暗い眼を見た楓はそれを止めておくことにした。
恐らく彼女は10歳程度だろう。あんな眼をこの歳からしてる事に疑問がある。
善良であると信じたいが、先ずは魔法少女ではない時の彼女を調べない事には答えが出せない。
幸い急いで事を進める必要もないので、段階を踏んで行く事にした。
「どちらも問題ないです。ただ、助けるのは私の判断で行う」
「ありがとうございます。討伐については何もできませんが、結界内で成果を上げてもらえれば、此方で報酬を用意します。前回の分の報酬として、何か欲しいものはありますか?」
まだまだ不明な点が多いので、先ずは物で釣って彼女の趣向を把握しようと楓は企む。
ここでお金を欲しがる様なら、彼女の裏に何かが居るかもしれないと疑う。彼女の討伐数を考えると、かなりの金額を稼いでいるはずだ。
その状態でお金を欲しがる様なら、少々手荒いが彼女の身を押さえる事も視野に入れる。
どうか後ろめたい物を頼まないでくれと思いながら、彼女の返答を待つ。
すると、彼女はスッと手を上げて行き、4位の席に座るグリントを小さな指で指す。
おや? と、イニーフリューリング以外の全員が思う中、彼女が望んだのは……。
「グリントさんのファンなのですが、『リンド』を直接見ることって出来ますか?」
場の雰囲気が一気に緩くなった。
楓が感じていた様に、他の面々も彼女の異質さを感じていた。
異質な少女が望むもの。それは一体なんなのだろうか?
だが、まさかそんな事を望むとは誰も考えていなかった。
変な魔法少女であるが、面白い。そう、思うのであった。
「私は構わないが、そんな事で良いのか?」
「その為に、此処に来たと言っても過言ではないです」
その濁った瞳から出るとは思えない、熱い熱意を感じさせた。
グリントとしてはこそばゆくもあるが、正直嬉しくもあった。
世間的に人気のあるグリントであるが、魔法少女の中では人気があるとは言えない。
彼女は『リンド』と呼ばれる5メートル程のロボットに乗って戦う魔法少女? なのだが、ロボットは女性にはあまり人気がない。
魔法少女なのだから、魔法を使って戦う方が好かれる。
戦力としても1人で戦うタイプなので、共闘する事も少なく、魔法少女内ではわりと孤立していた。
なので面と向かって(魔法少女に)ファンだと言われると嬉しいのだ。
ただ、楓には興味が無いと言った様なものなので、楓の心にそれなりのダメージを与えた。
「それなら構わないが、広さもあるし此処で良いか?」
「えっ、ええ。構いませんよ」
グリントが楓に魔法の許可を求めるが、先ほどのショックを受けているのか、少々どもってしまう。
席を立った彼女はテーブルから少々離れる。
「来たれ、終わりを告げる鳥よ」
宙に魔法陣が現れ、そこから白いロボットが出てくる。白を基調とした機体には、神経にも見える青いラインが、全体に引かれている。
地面に降り立ったその姿は圧巻としか言いようがない。
イニーフリューリングはグリントに近づき、視線を合わせる。頷いたのを確認した彼女は、まるで子犬の様に『リンド』に駆け寄った。
「こうやって見る分には普通の子よねー」
グリントの隣に来たタラゴンが、イニーフリューリングを見ながら呟く。
「私としてはファンが居てくれて嬉しい限りだけどね」
フードを脱いだ時に見えた、濁った眼は今も変わらない。
しかし今の『リンド』を見上げたり、触ったりしている姿は歳相応に見える。
普通の少女とは思えない彼女は、腐り始めた日本に何を
「気が済んだら次は私と戦って貰うからねー」
タラゴンの爆弾発言と、それを肯定したイニーフリューリングによって、今回のお茶会はお開きとなった。
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