第4話 ヘヴンス・フォール・ダウン②

 星に願いを。もしも願いが叶うなら、それは嘘であって欲しかった---。




 夕方。気の早い一番星が輝き始める頃。僕は家に着いた。だけど、家は無かった。僕の目に飛び込んできたのは、砂埃が舞い、崩れた家や森の木々が燃え、黒煙が星の輝きを隠す凄惨な光景。"今まで"が崩れ去った光景だった。


 頭が処理できずグルグルと回る視界の中で、崩れた家の瓦礫の下に母の腕を見つけた。何故か生きていないと分かった。父は知らない男に首を掴まれ宙に浮いていた。その他に人の気配はなかった。

 父を掴む恰幅の良い盗賊然とした男が笑う。


「ゲラッラッラッラ!やったぜ。遂にやったぜ!」


 僕は理解出来ず、真っ暗に染まった瞳で、それを朧に見ていたが、考えるよりも先に口が動いた。


「何してんだよ、あんた」

「あ"あ?なんだあ?」

「何してんだよ!って聞いてんだよ!」


 僕はその侵略者に向かって叫んだ。そいつは蛇のようにいやらしい顔で舌舐めずりをした。


「何って見てわかんだろ?テメェのクソ親父とクソママーをぶち殺してんだよ。それともなんだ?そんなのも分かんない赤ちゃんでちゅかー?」

「貴様!」


 どんな経緯があろうとも許せはしない。僕は感情のままに走り出して長剣を抜いた。同時に魔法の準備に入る。

 その瞬間、盗賊然とした男が笑った。僕には見えていなかったが、まだ生きている父に息子の死を見せ、より悲しみのどん底に落としてから父を殺すことが出来ると企んだのだ。


 僕の氷魔法〈氷の礫ロック・アイス〉が発動し、走る僕の側から氷柱状の氷が矢のように奴に飛んでいく。奴は小指でそれを弾く。僕はそれをもう一発繰り返した。そして、十分に間合いを詰めたと判断し、奴に向かって剣を振りかぶった。



 その瞬間、男は確信した。このガキを殺せる。この忌々しきクソ野郎の目の前で!苦しめ、悲しめ!オレ様に与えた苦労の代価として!

 男は拳を固く握り締めた。対して僕は、勢いのままに力強く地面を蹴り、跳びながら剣を振り下ろしていた。


 男が拳を引いて、殴るための体勢に入る。男は大きく口を開いて笑った。赤ずきんを食べる前の狼のように。なぜか僕の目にその顔がはっきりと見え、そして思考ではなく感覚として『間違えた』と感じた。スローモーションとなった世界の中で肌が僕に教えてくれた。


 僕は死ぬ。





 そのとき、僕と奴との間に魔法陣が現れ、深緑色に発光した。



side note----


 魔物は生命力を奪う力を持つ。強い魔物になると、歩くだけで足元の植物を枯らすほどになる。魔物は生命力を奪い生きるため、生命力の溢れる自然の中にいることが多い。

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