第3話 ヘヴンス・フォール・ダウン①
〈ヘヴンス・フォール・ダウン〉
後にそう呼ばれる今日この日のことを僕は忘れない。火粉舞う中、紅く照らし出された"奴"の嬉しそうに微笑む顔と、両親の死に際を---。
僕ことマーシャル・ウィンチは、テルカポネアに住む、ごく普通の少年だ。
父親が勇者ってことを除けばね。あと、母親も回復役として一緒に冒険してたことも除けば。いやいや、僕の髪のツートンカラーも除けば、かな。
僕の父神無月奏太は十八年前にこの世界にやってきた。元々いた"日本"ってところでは交通事故に巻き込まれて死んじゃって、こっちの世界に来たんだって。それで色々あって、仲間四人を集めて、十七年前魔王を倒した。僕が生まれる二年前の話。そして、父は比肩する者のない世界最強の男になった。そんで、今では山奥で隠居している。
えっ、なんで、って?それはね、最初は王都に住んでいたらしいんだけど、なんか人付き合いで色々あったみたい。お金持ちのところにお金にありつきたい嫌な奴らが集まるみたいなもので、有名になったせいで悪い奴らに騙されそうになったらしい。
そんなこんなで、人付き合いにうんざりした父は突如として姿を消して、母マリル・ウィンチと赤ちゃんの僕と一緒にこの田舎町モーリスにやってきた。
最初は大変だったって聞いてる。僕は物心つく前で覚えてないけど。人口三百人しかいないモーリスの中でも更に山奥に父は家を築こうとしたもんだから、本当にゼロからだったみたい。流石の世界最強の男でも、建築と農業のスキルなんて持ってないからね。
でも、今は軌道に乗ってほぼ自給自足の暮らしをしながら、時々町に薬草を売りに行ったり、時々本を買ったりして暮らせるくらいにはなった。
僕は父と母と星空の下で焚き火をしながら楽器を弾いて歌うのが一番好きな時間なんだ。
この日も僕は父からの頼みで山を降りて町に来ていた。町といっても少しだけ家が集まっているところなんだけど。
商人をしているクランクさんの家に行って薬草を渡す。別の街に行った時に売ってきてもらうんだ。普段はそのときに僕と同い年のクランクさんの娘アンと話をしたり、道端で会った子供達と一緒に遊んだりする。そんな日の帰り道は少し寂しくなることもある。
でも、今日は違う。山を降りてくるときに雲一つない空に遠雷を聞いたから、なんだか胸騒ぎがして、みんなと遊ばずに早く帰ることにしていた。
町から山道に入るとき、僕は家の方に砂煙が上がるのを見た。少し不安を覚えたけれど、世界最強の父に何かある訳ない。そう思っているものの、少しだけ足早に僕は山道を登った。
side note---
勇者が現れることを、人々は魔王のいる生活--"地獄のような日々"から抜け出せると期待して〈ヘブンス・ゲート〉と例えることがあった。
※転生者の影響でこの世界の言語は日本語や英語に由来するものがいくつかある。しかし、作中に出てくる英語表記等はただ作者が「響きがかっこいい」という理由でそうしているだけであり、深い理由はない。
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