オーデサントゥール

私は笑った。

言い訳を隠すために。

嘘の香りを振りまいた。

あなたも笑った。

言い訳を見抜いていながら。

お互い気づかないふりをして、お互い気づいていることを。

どこまでも優しくて、どこまでも悲しい先送りにした。

嘘をついていない振りをした。ちょっとだけ本当を混ぜて、時々思い出すくらいの香りをつけた。


「ダメじゃないよ」


どっちが言ったんだろう。

私は肩に下げたカバンを握った。

あなたは肩にかけたリュックを背負いなおした。


絶妙な距離感を保って、崩れて。嘘の香りのオーデサントゥールが私から消える前に。その香りを覚えてしまえるくらいに。

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