第6話
あれから数日が経過していたが、未だに彼女の行方は掴めていなかった。どこへ行ってしまったんだろうか?
心配になった俺は探しに行こうと思ったが、この状態ではどうしようもなかった。なので今は大人しく待つことにした。大丈夫、きっと帰ってくるはずだからな……
自分に言い聞かせながら待っていると、部屋の扉が開かれた。見てみると、そこにいたのはイリスだった。彼女は微笑みながらこちらを見つめている。その姿を見て安心した俺は声をかけた。
「無事だったんだな」
「はい、もちろんです」
彼女はそう答えると、俺の近くまで歩いてきた。そして、そのまま抱き着いてくると耳元で囁いてきた。
「私、決めました」
「何を?」
「貴方を守り抜くって」
どういう意味だろう? 不思議に思っていると、彼女は続けて言った。
「私は何があっても貴方の味方ですからね」
「ありがとう」
お礼を言うと、彼女は微笑んでくれた。とても可愛らしい笑顔だった。そんな彼女を見ていると、なんだか幸せな気持ちになってきた。ずっとこのままでいたいと思ってしまうほどに……
だが、現実は残酷だった。何故なら、俺は魔王軍の幹部の一人なのだから……いずれは戦わなければならない運命なのだ。そう考えると憂鬱になってしまうが、いつまでも落ち込んでいるわけにはいかない。気持ちを切り替えて立ち上がると、部屋を出た。
「どこに行くのですか?」
「ちょっと散歩してくる」
それだけ伝えると、城を出た。一人で歩きたい気分だったからだ。だからあえて行き先を伝えなかった。
少し歩くと、小さな村が見えてきた。この村には来たことがなかったので興味本位で入ってみることにした。中に入ってみると、そこには誰もいなかった。おかしいなと思いながら歩いていると、どこからか声が聞こえてきた。
気になったので声のする方に向かって歩いていくと、そこには大勢の村人達が集まっていた。何をしているんだろう?
気になった俺は近づいてみる事にした。すると、彼らの会話が聞こえてきた。
「これで全員か?」
「ああ、間違いない」
「よし、では始めるとしよう」
「そうだな」
何の話をしているのか気になり、もう少し近付いて話を聞いてみた。
「いいか? 今から儀式を始めるぞ!」
「分かった」
「それじゃあ行くぞ! せーのっ!」
『我らに力を!』
次の瞬間、地面から紫色の光が放たれたかと思うと俺を包み込んだ。あまりの眩しさに目を閉じるが光は収まらずどんどん強くなっていき、やがて収まった時には別の場所に移動していた。
ここはどこだろうか? 周囲を見渡すと、そこは森に囲まれた草原のような場所だった。俺はどうしてこんな所にいるのだろうと思っていると、背後から声をかけられた。
驚いて振り向くと、そこにいたのは一人の少年だった。年齢は十代前半といったところだろうか?
見た目は普通の人間だったが、よく見ると耳が尖っていた。どうやらエルフのようだ。彼は俺を見ると声をかけてきた。
「ようこそいらっしゃいました」
「君は誰だい?」
そう尋ねると、少年は丁寧にお辞儀をしながら答えた。
「僕はルシウスと申します」
「そうか、それでここは一体どこなんだ?」
「ここは魔界にある辺境の地です」
「魔界だって!?」
予想外の答えに驚くと同時に納得した。どうりで見たことがない景色だと思ったよ……まさか魔界に来ていたとはな……驚きながらもどうして連れてこられたのか聞いてみることにした。すると、彼は申し訳なさそうに話し始めた。
「実は貴方にお願いがありまして……」
「お願い?」
聞き返すと、彼は頷いてから言った。
「はい、単刀直入に言いますと、僕達を助けて欲しいのです」
「助ける? 一体どういうことだ?」
意味がわからずに困惑していると、彼が説明してくれた。それによると、今現在魔族と人間との間で戦争が起こっているらしく、このままでは全滅してしまう恐れがあるらしい。そこで、彼らを助ける為に協力して欲しいとのことだった。
俺は悩んだ末に了承することにした。どのみち俺には選択肢がないのだ。ならば、少しでも生存率を上げるために行動した方がいいと思ったからである。
俺が協力することを伝えると、彼は嬉しそうな表情を浮かべていた。それを見て俺も嬉しくなったのだった……
それから数日後のこと、俺達は戦場に向かっていた。いよいよ戦いが始まるのだ。緊張しながらもゆっくりと進んでいくと、前方に敵の姿が見えた。それを見た瞬間、心臓が激しく鼓動し始めた。
落ち着け……大丈夫だ……自分にそう言い聞かせて深呼吸をした。
しばらくして落ち着いたところで戦闘が始まった。最初は上手く連携が取れなかったが、徐々に慣れてくると互角の戦いが出来るようになった。そしてついに決着がついた。勝ったのは俺達だ!
喜びに浸っていると、兵士達が集まってきた。
「ありがとうございます、おかげで助かりました」
そう言って感謝の言葉を述べてきた。それに対して俺は気にするなと言ってその場を後にした。
その後、しばらく歩いているとまた敵が現れたので戦ったのだが、今度は苦戦を強いられてしまった。何とか倒して一息ついていると、兵士が話しかけてきた。
「大丈夫ですか?」
「ああ、なんとかな……」
そう答えると、彼は笑顔を浮かべて言った。
「さすがですね、尊敬します」
その言葉に照れていると、突然兵士の一人が声を上げた。何事かと思って見てみると、彼の視線の先には負傷した仲間がいた。どうやら怪我を負ってしまったようだ。
それを見た他の兵士達が慌てて手当てを始めたのを見て安心していると、また別の場所から悲鳴が聞こえてきた。何事だと思ってそちらの方を見ると、なんと先程の兵士と同じような状況になっているではないか!
まずいと思い助けに行こうとしたのだが、既に手遅れだったようで息を引き取っていた。その光景を見て呆然としていると、またしても別の場所で悲鳴が聞こえた。
しかもそれは一つではなかった。次々と聞こえてくる悲鳴を聞いているうちに恐怖が込み上げてきた。このままだと不味いことになるかもしれないと思った俺は急いでその場から立ち去った。
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