第7話
後ろから呼び止める声が聞こえた気がしたが無視して走り続けた。そして、しばらく進んだところで立ち止まった。辺りを見回すと誰もいないようだったので安心すると、その場に座り込んだ。
その時だった。突然目の前に何者かが現れたかと思うと、そいつはニヤリと笑いながら話しかけてきた。
「おやおや、こんなところで何をしているんだい?」
いきなり現れたそいつに対して驚いていると、さらに続けてこう言った。
「そんなに驚いた顔をしてどうしたんだい? もしかして私のことを忘れちゃったのかな?」
そう言われて思い出した。こいつは確か魔王軍の幹部の一人だったな……名前はなんだったか思い出せないけど、まあいいや。それよりも今はこの状況をどうにかしないとな……どうやって逃げようか考えていると、そいつは再び話しかけてきた。
「ねえ君、これからどうするつもりなんだい? よかったら私が助けてあげようか?」
その言葉に思わず反応してしまったがすぐに冷静になると断ることにした。
「いや、遠慮しておくよ」
「あら残念、振られてしまったわね」
そう言うとクスクスと笑った。何が面白いのか分からないがとりあえず無視することにして立ち上がろうとした時だった。突然体に力が入らなくなり倒れそうになったところを彼女に支えられた。
一体何が起きたのか分からず混乱していると、彼女がニヤニヤしながら話しかけてきた。
「どうしたのかな? 急にふらついてしまって」
「うるさい! それより早く離せ!」
怒鳴るように叫ぶと彼女は素直に離してくれた。ホッと胸を撫で下ろしていると、彼女は微笑みながら言った。
「ごめんね〜ちょっと悪戯してみたくなっただけなんだ〜」
そう言いながらもまだ笑っている彼女を見て怒りを覚えながら睨みつけると、彼女はようやく笑うのを止めた。そして真面目な顔になると、静かに尋ねてきた。
「それで、本当に帰るのかい?」
その問いかけに俺は迷った。確かにこのまま帰ってもいいのかもしれない……だが、ここで帰ったらもう二度と元の世界には帰れないような気がしたのだ。それに、ここには大切な人がいる……だから、俺は帰らないことにした。そう伝えると、彼女は嬉しそうに微笑んだ。
「そっかぁ〜それじゃあ仕方ないね〜」
彼女はそう言うと指をパチンと鳴らした。すると、俺の足元に魔法陣のようなものが現れたかと思うと光を放ち始めた。突然のことに戸惑っていると、彼女は笑みを浮かべながら言ってきた。
「じゃあそろそろお別れだね」
「え?」
「大丈夫さ、きっと上手くいくよ」
それだけ言うと手を振ってきたので振り返すと、目の前が真っ白になった。
気がつくとそこは自分の部屋だった。夢でも見ていたのだろうか? 不思議に思っていると扉が開いてイリスが入ってきた。
「おはようございます!」
元気よく挨拶してくる彼女に戸惑いながらも返事をすると、不思議そうな顔で見つめてきた。どうかしたのかと尋ねると、彼女は首を傾げた後なんでもないと言って部屋を出ていった。それを見届けた後、ふと窓の外を見ると綺麗な青空が見えた。
それを見て改めて自分が異世界にいるという実感を得たのだった……
それから数日後のこと、俺達は魔王城に戻っていた。あの出来事は一体何だったのか未だに分からないままだったが、それでも良かったと思っている。なぜなら、こうして彼女と出会えたのだから……
そんなことを考えながら隣を歩いている彼女の横顔を見つめていると、視線に気づいたのかこちらを見て微笑んでくれた。そんな彼女の笑顔を見てドキッとしたが、悟られないように平静を装いながら微笑み返した。そして、心の中で思った。
これからもずっと一緒にいたい……ずっと一緒にいよう……愛しているよ……
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