第5話

「あれ……ここは……?」


 目が覚めると、見知らぬ場所にいた。どこだここは? 確かさっきまで城の中にいて……

 そうだ! 思い出したぞ! 俺はあの野郎に襲われて殺されたんだ! じゃあここは死後の世界なのか? それにしてはやけにリアルだな。

 そんなことを考えながら自分の体を見ると、なんと無傷だったのだ! これは一体どういうことだ!?

 混乱する頭を整理するために深呼吸して心を落ち着かせると、冷静に今の状況について考えてみた。

 まず最初に思ったことは、何故生きているのかということだ。普通ならあり得ないことだろう。だが、実際にこうして生きているのだから仕方がない。

 次に考えたのは、ここがどこなのかということだ。見たところ普通の部屋に見えるが、もしかしたら牢屋なのかもしれない。それに、手足も縛られているから自由に動くことができない。

 どうしたものかと考えていると、部屋の扉が開いた。入ってきた人物を見て俺は驚いた。それは、俺を襲ってきたあの男だったからだ。


「やあ、目が覚めたみたいだね」

「お、お前は……!」

「そんなに警戒しなくても大丈夫だよ」


 そう言って微笑む男を睨みつけると、男は苦笑しながらこう言った。


「まあ、無理もないよね……でも安心してほしい、僕は君に危害を加えるつもりは無いからさ」

「信用できると思うか?」

「うーん、まあ無理だろうね」


 そう言うと、男は肩をすくめてみせた。何だこいつ? ふざけてるのか?

 怒りを覚えながらも黙っていると、男は話を続けた。


「まあ、そんなことよりも君の名前を教えてくれないかな?」

「断る」

「えー、教えてくれてもいいじゃないかー」

「黙れ」


 冷たく言い放つと、男は拗ねたような表情を浮かべていた。気持ち悪い奴だな……

 内心そう思いながら見ていると、急に真面目な表情になって話しかけてきた。


「そういえばまだ名乗っていなかったね、僕の名前はケヴィンっていうんだ」

「そうか、俺はお前の名前なんて知りたくなかったけどな」

「そんなこと言わないでさ〜教えてよ〜」


 しつこい男だな……無視してもしつこく聞いてくるので仕方なく教えることにした。


「レイジだ」

「レイジか……いい名前だね」

「そりゃどうも」


 適当に返事を返すと、俺は再び黙り込んだ。これ以上話すことはないと判断したのだろう。しばらくすると、彼は部屋から出ていった。一人残された俺はこれからどうしようかと考えていたが、結局答えは出なかった。考えても無駄だと思い考えることをやめた俺は眠りについたのだった……




 それから数日が経過したある日のこと、部屋でボーッとしていると突然扉が開いて誰かが入ってきた。見ると、そこにはイリスの姿があった。彼女はニコニコしながらこちらに近づいてくると、いきなり抱きついてきた。突然のことに驚いていると、彼女は嬉しそうに話しかけてきた。


「お久しぶりですね! 元気にしていましたか?」

「……ああ、元気だよ」

「そうですか、それは良かったです」


 彼女はそういうと、さらに強く抱きしめてきた。そのせいで柔らかいものが当たってくるのだが、不思議と嫌な気分にはならなかった。むしろ心地よいとさえ思えるほどだった。しばらく抱き合っていると、彼女は満足したのか離れてくれた。そのことにホッとしていると、彼女はこんなことを言い出した。


「ねえ、何かして欲しいこととかありませんか?」

「え?」

「何でもいいですよ? 私にできることならなんでもしてあげますから」


 そんなことを言われても特に思いつかなかったので何もしなくていいと伝えた。すると、彼女は不満そうに頬を膨らませた。そして、そっぽを向くと拗ねてしまった。

 困ったな……どうすればいいのだろうか? 悩んでいると、彼女はため息をついて呟いた。


「やっぱり私なんかじゃダメなんですね……」


 悲しそうな声で呟く彼女に何と声をかけていいのか分からずにいると、突然彼女が立ち上がりこちらを振り向いたかと思うとニッコリと笑って言った。


「分かりました、もう諦めます」


 その言葉にホッとしたが、何故か胸騒ぎを覚えた俺は思わず引き止めようとした。しかし、彼女はそれを聞かずに部屋を出ていってしまった。呼び止めようとしたが間に合わず、伸ばした手は空を切ったのだった……

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