かき氷
『ミーンミーン』という夏の風物詩。
あれを聞くたびに、暑くジメジメじっとりのイヤな夏がきたと感じる。
しかしこの国にはそれを演出するセミがいないので気持ち的に楽にすごせる。気がする。
本格的に暑くなるその前にお店のかき氷を食べさせてもらった。
フワフワで口に入れるとすぐに溶けてしまうほど。
味はシンプルだけどそれがいい。
「美味しい?お店の氷はほとんどミキちゃんが魔法で作ってくれているのよ」
「え?ミキがですか???」
「そうなの。たぶんだけどこの国で唯一、氷魔法が使えるの。その氷は綺麗でとても美味しいのよ」
「ほえー。そうだったんですね。すごいですね」
この国で唯一って……ミキはそんなにすごい子だったんだ。
その上、可愛くて、王族って……。
しかし、この氷ってどう作っているんだろう?手作りの氷……。ミキが生み出した……。
……。
……。
美味しい。
「もう販売はするのですか?」
「そうね。かなり多くストックできているからそろそろかな」
今までは電気がないので冷凍保存はできなかった。
去年、デンさんや紬さん、ミキ、国王様が中心になって、北にあるサホロ国の協力で氷室という地下保冷庫が飲食店などに設置された。
氷業者もできて一般家庭はそこから氷を購入し簡易的な保冷庫に入れて食材を保存する。
ただ輸入した氷は飲食には向かないのでやはりミキの氷は特別。
氷を削る機械は、木工職人のヤリさんが中心になって手動の氷削り機を作ってくれていた。
シロップについては、練乳。これは牛乳と砂糖を煮詰めたもの。苺や柑橘味はコチ国からの輸入。抹茶やあずきはなかった。
「抹茶味はないのですね」
「そういえば、そうね。私があまり食べないから気にしていなかったわ。抹茶はあるのかしら……。」
今日のお客様にちょうどギルドマスターのトウギさんが居たので聞いてみる。
抹茶は……なかった……。
ただ、お茶はあるので作ることはできるのかもしれない。お茶を粉状にすると抹茶になるのだろうか?
「ただいま帰りました」
ミキが学校から帰ってきた。
「おかえりなさいー」
「あ、かき氷を食べているのね。どう?お味は」
「うん。味は普通だけど氷がとても美味しいよ」
「普通……。まぁ氷が美味しいならよかったわ」
「ところでこれってどう作っているの?」
「うーん。口で説明するのも難しいのよね。そうだ。作っている部屋へ行きましょうか。教えてあげる」
お店は抜けても大丈夫と言われたのでミキと一緒に自宅へ帰る。
「ちょっと着替えるから待っててね」
着替えてきたミキに地下の部屋へと連れてこられた。
少し涼しいその部屋の中には草や木の枝、石や宝石、液体などがある。とにかく色々なものが所狭しと並んでいる。
「ここは……?」
「研究室兼勉強部屋かな。あまり触らないようにね。危ないかもしれないから。こっちへきて」
さらに奥の部屋へ案内をされる。そこはキッチンしかない綺麗な部屋。
「ここが氷を作っている部屋なの。ちょっと準備をするわね」
たくさんの器を用意をする。
「これは?」
「ここに氷を作るの」
ミキは手袋を着けてその器の上に手をかざす。集中をすると用意した器に水が溜まった。
「わ!すごい!今のが魔法!?」
「ちょっと待ってね」
次は違う手袋をはめて水晶みたいなものを取り出した。
そしてまた集中をすると徐々に周囲が冷えてくる。すると器に入れた水が凍りだした。
そのまま手をかざしていると完全に凍ってしまった。
「ふう。とりあえずこういう風に氷を作っているわ」
「すごすぎてよくわからなかった。けど、蛇口からのお水を凍らせるのはダメなの?」
「うん。できるけどね。あまり美味しくないの」
「そっかー紬さんがミキの作った氷は綺麗だっていってたね」
「お姉様ったら……そんなことを……」
「えっと……魔法を使うのに道具がいるんだ」
「そうね。媒体があると確実に、早く、安全にできるのよ」
「私の知っている魔法は杖を振り呪文を唱え発動していたんだよね。治癒をするときは"癒えよ!"ってね。あとは媒体を使うのは魔術だったりとか。」
「へぇー。そういう方法もあるんだ」
「ミキはどんな感じに使っているの?」
「んー媒体がある場合だけど。今の水を出す魔法はそのままでもできるんだけど、体力や色々な消耗が激しくてね。この手袋に水魔法を増幅させる石が入っているの。石以外の媒体は水魔法だと水が沢山含んでいる木の枝や水に長時間浸した生糸を使った織物もあるわ。ちなみにその糸で編んでいるからさらに力は強いわ」
「ふむふむ?」
「あとは呪文だっけ?そういうのはなくてね。空気に漂っている水分を集めて注ぐイメージをするの」
「イメージするだけなんだ」
「もしかすると具体的に"水よ集まり器に注がれよ"と、口に出したほうが実現しやすいかもね」
色々漫画やラノベを読んでいたけどたしかに言葉にしてたな。読者にはそうじゃないと伝わらないし……。魔法も"使われる方"にしたらイメージともに具体的に言われた方が理解しやすいのかも?
たとえば、こう……。
「"器に水を満たしたまえ"」
と同時に器に水であふれるイメージをする。
……。
……。
デスヨネ。
なにも起こらなかった。
ミキに肩を抱かれた。
泣きたい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます