初めての保護活動

 "コンコン"


 猫エリアの窓を外からノックしている方がいる。


 なにか訴えているようだけど声が聞こえない。


 紬さんが外に出てその方と話をはじめた。


 しばらくすると何度も頭を下げ帰っていった。紬さんも戻ってきた。


「今の方は町外れに住んでいる方なのですが、町を少し出た街道沿いで妊娠をしているような猫ちゃんを見つけたらしいの。かなりお腹が大きいみたいなので心配で相談をするためにきたみたい。とりあえずその場所を見に行ってみるわ」


「ミホちゃんも行ってみる?」


「はい。ぜひ行きたいです!」


「わかったわ。準備をするからミホちゃんも手伝ってね」


「あ、ハチくん。急ぎたいからお願いしていいかな?」


「オウ。イイゾ」


「ありがとう。よろしくね」


 紬さんに連れられてバックヤードへ来た。


 キャットフードや猫砂、毛布、ケージ、掃除道具などが色々と入っている。


「必要なものはキャリーと布袋と大きな布。あと念のために捕獲器も持っていきますね」


「わかりました。捕獲器持ちますね」


「イヤ。オレがもつ」


「ありがとうございます。でしたら布を持ちますね」


「ふたりともありがとうね」


 荷物を持って街の門まで来た。


「それじゃハチくんお願いね」


「オウ」


 そういうとハチさんがみるみるうちに狼みたいな生物に変わっていく……


「も、もしかしてこれって……フェンリル……???」


「ヨクしっていたナ」


「あ、デンさん。いたのですね。はい。大きくてふさふさなのでそうかなと」


「オドロカナイんだな」


「びっくりはしましたけど以前お聞きしていたので大丈夫でした」


「ダレカはきぜつしたけどな」


「あのことはいいの。さぁ乗りましょう」


 荷物を背負い直して紬さんの背中にしがみつく。


「大丈夫よそこまで捕まらなくても」


「ウン。ゆっくりいくよ」


 ゆっくりでもかなり速い。デンさんはハチさんの頭の上に乗っているが落ちる様子がない。


 あっという間に教えてもらった辺りまでたどり着いた。


 その猫さんはすぐに見つかった。


 そのままこちらへ近づきスリスリをしてきた。


「野良の子でもこんなに慣れているのですね」


「たぶん通る方にごはんとかもらっていたのでしょうね。たしかにお腹は大きいわね」


「そんなに大きいのですか?」


「そうね。あと1.2週間で産まれるかも。数は……5匹か6匹か」


「そんなことまでわかるのですか!?」


「あくまでも感だけどね。猫は大体1匹から6匹で産まれるのだけどこの大きさは多いほうね」


「へぇー出産時期の方はどうなのですか?」


「うん。そっちもなんとなくね。猫の妊娠は2ヶ月間なの。そして1ヶ月授乳をしてそのタイミングでも妊娠ができちゃうの。早いと一年で4回も妊娠をしてしまう計算になるわ」


「4回……もし全部6匹だと……一年で24匹に増えるのですか!?」


「しかもね。生後半年で妊娠することができるようになるの」


「なっ!そんなに早いんでしか!?」


 動揺してかんでしまった。


「ね。びっくりでしょう。なので日本では問題になっていたの」


「そうだったのですね。ぜんぜん知りませんでした」


「今はこの子がいるのでまた今度話すわね」


「わかりました。で、この子はどうやって連れて行くのですか?」


「そうね……。よっと。うん。抱っこまではできるけど……キャリーに入れるときが危ないのよ。ね。デンさん」


「ソウダナ。だいじょうぶだ。と、こえはかけているケドナ」


 そう言いながら紬さんが猫さんをキャリーに入れようとした瞬間、


『ミギャーオ!!!』


 と叫び暴れ出した。私は仰け反ってしまったけど紬さんは慣れた様子でそのまま手を離さずキャリーに入れた。


「ミホちゃん!布を被せて!」


 その声に一瞬遅れながらも大きな布をキャリーに被せる。


「そのままキャリーの上から私の腕ごと押さえてて」


 言われるがまま押さえる。


「そのまま。そのままよ」


 紬さんは片腕を抜くとキャリーのフタを閉じる。


「ふう。お疲れ様。ね。この抱っこできる子でもキャリーに入れるときはこういうことが起きてしまうの」


「びっくりしました。こんなに暴れるのもなんですね」


「ホンノウできけんだとかんじるんダロウ」


 キャリーに入った猫さんに対して


「ダイジョウブだからよ。あんしんシナヨ」


 デンさんは優しく話しかける。そう言われ落ち着きを取り戻したように見える。猫さんはデンさんが日本語のままで話してもちゃんとわかるようだ。


「とりあえず依頼はこの子だけね。それでも少し周りを見てみるね」


 他に猫さんがいないか見て回るけどいなさそうなので町へ戻ることした。


 治療院へ連れて行き健康チェックをしてもらう。感染症や怪我は特になにもなかった。


 肝心のお腹の子猫も大丈夫そう。早ければ一週間以内に産まれるとのこと。


 この子は自宅の方で産ませることになった。空き部屋を妊婦猫さん専用にして産まれてくるのを見守る。


「しかし、すごいですね。紬さん」


「うん?」


「あんなに暴れる子をよく捕まえられましたね」


「暴れることを想定してやっているからね。あそこで離してしまうと次いつ捕まえられるかわからないので思い切ってやるしかないの。手加減すると逆にお互い怪我をしちゃうの」


「なるほど……」


「本当は捕獲器を使う方がお互いに怪我をしなくて済むけど時間がかかることもあるし、今日は緊急事態だからね」


「勉強になります。油断と無理をしてはいけないんですね」


「うんうん。怪我をしないのが一番」


「さてと。私たちの仕事はここまでね。あとはお母さんにまかせましょう」


「なにもしなくていいのですか?」


「そうね。緊急なことが起きなければ基本的に手を出さないわ。手を出すとストレスになることもあるから」


「マァこそだてはワシにもわからん。せいかいはナイからナ」


「なるほど……」


「それじゃ、お店へ戻りましょうか」


 初めての保護活動をした。大変な仕事……自分はどこまで手伝えるかわからないけど少しでも頑張りたいという気持ちが増えてきた。

 子猫たちが無事に産まれますように。

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