言葉
紬さんに街の案内をしてもらったあと、お店へ戻りお仕事のことを教えてもらう。
私の仕事はお客様のお出迎えと猫さんたちの遊び相手。少しずつ仕事を覚えていく。
「他にはどんなこと覚えていけばいいですか?」
「そうね。キッチンはジェフさん。ホールはナナさんとハチくん。デンさんは接客全般。私は全体のフォローや雑用なので私の助手みたいなことをお願いするわ」
「紬さんの助手ということは全般に覚えないといけませんね」
「できる範囲からね。そうだ。そもそも保護猫活動ってわかるかしら?」
「あーそういえばよくわかってないです」
「捨て猫や野良猫を保護し避妊手術をする。そして安全な場所、シェルターや保護猫カフェで生猫同士生活をしながら新しい飼い主、家族と出会ってもらうの」
「なるほど。この子たちは捨て猫や野良猫さんだったのですね。みんな幸せそうです」
「デンさんが居るからコミュニケーションは取りやすいわ。けれどなるべくこちらからのことは押し付けないようにしているの。この子たちの意志を尊重し生活してもらっているの。私たちも、ああしろこうしろとは言われたら迷ってしまうでしょう。だから大事な部分だけデンさんから伝えてもらうの」
「たしかに押し付けられるのは嫌でした……おばさんに色々と言われていたので」
「あ、ごめんなさい。嫌なこと思い出させてしまって」
「いえ。大丈夫です。ごめんなさい。でもそういうことなのですね」
「ですね。たとえそれが相手のためだったとしても受け取り方で変わってしまうからね」
受け取り方か……あの人たちはどうだったのかな……たしかに本当に嫌ならとっとと追い出せばよかったのに……あれ……そう思うと……いや、いまは考えないとようにしよう。
「ミホちゃん。そういえばまだちゃんとみんなと遊んでないわよね?ほら中へ入って」
お客様がいないのでみんなが寄ってくる。なにかを伝えようとにゃーにゃー鳴いている。
「紬さん。これは一体なにを要求されているのでしょうか?」
「これはお出迎えの挨拶かな。かまってほしいアピールもあるかな」
「紬さんは猫さんの言葉がわかるのですか?」
「まさか。そんなことないわ。ただそう言っているような気がするのよ。実はね、大人猫って怒っているとき以外はあまり鳴かないの」
「そうなのですか?」
「ええ。子猫のときは母猫を呼ぶときに鳴くことはあるけどほとんど鳴かないわ。天敵に襲われてしまうから本能で抑えているのね」
「たしかに子猫だとあっという間に……」
「大人猫でも同じなの。だけどこうして室内で暮らしている子たちはよくおしゃべりをするようになるの」
「安全だとわかっているのですね」
「そうね。で、さっきの話。猫の言葉がわかるのかだけど、今は分からないわ。」
「今はですか?」
「ミホちゃんは外国語話せる?」
「英語が少しできるくらいです」
「十分じゃないすごいわ。他の言葉はできないわよね?」
「まったくわからないです」
「日本語、英語、中国語、韓国語、イタリア語、フランス語、スペイン語あげたらきりがないわ。でも言葉や音でコミュニケーションを取れるのは人だけじゃないわよね?」
「たしかにそうですね」
「なら動物たちの言葉も外国語みたいに理解することができそうじゃない?」
「いやいや、流石にそれはできないと思いますよ」
「あら?そうかしら?実際に言葉は同じトーンや同じリズムで話すわ。表情や前後の行動とかを合わせて聞いてみるとなんとなくわかる気がしてこない?」
「表情……」
「そう。ちゃんと見るとすごく表情豊かよ。感情もあるからね」
あれ……思ったよりレベルの高い話をしているぞ……。
でも動物と話せるまではいかなくても少し理解できると楽しいかも。
「猫さんとお話……できなくても少し理解をしてみたいです。あ、そういえばピピさんと初めてあった日によろしくお願いしますと言ったら『はーい』って返事してくれた気がしました」
「そう思うのが大事よ。気持ちよ。気持ち。あ、ちなみにこの子たちは私たちの言葉をある程度理解しているからね」
「そうなのですかっ!?」
猫さんたちはこちらを見てニコニコしている気がする。
まずはみんなの顔と名前を覚えないと。壁に貼ってある名前表をみながら喋りかける。
「私も君たちの言葉がわかるようになるかな?」
『ナーゥン』
と返事をしてくれたのはヒメさん。まだ1歳になっていない女の子。
「おーよかった。頑張るね」
『ヒャン』
今度はハンちゃんが返事をしてくれた。この子は3歳くらいの女の子。
本当にわかっているみたいでなんだか楽しい。
「ね。わかっているでしょう?」
「こちらも猫さんの言葉覚えたいですね」
「コトバはおしえてもらうものじゃない。おぼえるものダヨ」
「あ、デンさん。たしかにそうですね。たくさんおしゃべりをして覚えます」
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