第82話 二人のお父さん


 翌朝、午前九時に俺は望月奈緒に連絡した。

「はい、奈緒です」

「奈緒さん、工藤です。今日、奈緒さんの実家でいつもの様に会う約束をしていましたが、大切な話をしたいので、俺の実家に来て頂けますか。そちらの駅まで迎えに行きます」


 えっ、祐樹さんが彼の実家に私を呼んで大切なお話があると…。も、もしかして正式に結婚のお話が。門倉さんへの工作が功を奏したのかしら。


「はい、喜んで伺わせて頂きます」

「では、午後一時に、そちらの駅で待ち合せしましょう」

「はい」


 これで彼女は大いに誤解してくるはずだ。中途半端な精神的ダメージで終わらせてたまるか。


 俺は、日曜日で家にいる父さんに声を掛けた。

「どうしたんだ。祐樹」

「父さん、大事な話がある」

 俺はそう言うと、望月奈緒が野乃花に行った事を話した。


「祐樹、確かに望月のお嬢さんの行った事は、門倉野乃花さんに対して大変失礼な事であり、精神的な苦痛も大きいだろう。

 だが、奈緒さんが、この工藤家と望月家の為に門倉さんに身を引いて貰う為に行った所業だと考えれば、奈緒さんを我が家に呼んで、彼女の行った事を断罪するのは、父さんとしては賛成できない」

「父さん、奈緒さんがやった事で俺と野乃花が二ヶ月半もの間どれほど苦しんだのか分からないからそんな事言えるんだよ。彼女がやったことを軽く考えるなら、俺は彼女を一生許さないし、この後も徹底的に彼女を貶めてやる。

 父さんの言う工藤ホールディングスや工藤グループを率いて行くという事の大切さは俺なりに理解している。だけどそれは野乃花と一緒に居る事によって成り立つ。奈緒さんではない!」

「祐樹!」


「俺は、今回奈緒さんが行った事を、彼女の父親にも話す。そして二度と彼女に会わない事も言う」

「待ちなさい祐樹。工藤家は、望月家以外にも他の政財界の人達とは強くつながっている。今回のお前と奈緒さんの結婚もその一つだ。

 お前が門倉さんを大事にしているのは分かる。だが奈緒さんの事は別の話だ。工藤家と望月家の話だ。個人の好き嫌いの話ではない。そこを理解しろ」


「父さん、俺はそんな事理解したくない。とにかく、今日、奈緒さんをここに呼んできっぱりと二度と会わない事をいう。

 彼女が、俺と野乃花がホテルに入って行く動画を教育委員会に出したいなら勝手にさせる。工藤家に汚点が付くと言うなら父さんの力で潰せばいいじゃないか。そんな事簡単だろう。俺は用事が有るからもう出かける」

「祐樹!」



 俺と入れ替わりに母さんがリビングに入って行った。俺は急いで靴を履くと野乃花の家に急いだ。



「あなた、誰かにそっくりですね」

「しかし…」

「ふふっ、祐樹があんな事言うなんて。やはり血は争えませんね。あなたも懐かしいでしょう。でも望月さんのお嬢さんがそんな姑息な手を使うとは思いませんでした。正々堂々と門倉さんに挑むと思ったのですが」

「実は、私もそう思っていた。いずれにしろ、祐樹が派手に動き回る前に望月さんに連絡を入れておこう」




 俺は、野乃花の家に少し遅れて着くとインターフォンを押した。直ぐに野乃花が出て来た。

「祐樹、上がって」 

「えっ、でも」

「いいの。さっ早く」


 俺は玄関に入って靴を脱ぐと

「ご家族は居るの?」

「うん、挨拶する?」


 そう言えばこれだけ野乃花と会っていて、ご両親に挨拶もしていない。やはりした方がいいか。

「そうだね」

「じゃあ、こっちに来て」


 俺は玄関のすぐ左にある部屋に入らされた。リビングダイニングだ。

「お父さん、お母さん。紹介します。工藤祐樹さん。私がお付き合いしている人です」


 リビングのソファに座って新聞を読んでいた男の人が手を止めると俺の方を見た。

「野乃花、立って挨拶も無いだろう。座って貰いなさい」

「うん、祐樹、座って」

「ああ」


 いきなり野乃花の父親の前に座らされた。ダイニングの方にいた女性、多分の彼女の母親だろう人が、男の人の隣に座った。


「初めまして。工藤祐樹と言います。野乃花さんとお付き合いさせて頂いています」

「門倉正樹(かどくらまさき)だ。野乃花から君の事は色々聞いている」

 それ以上は何も言わない。ただ俺の顔をジッと見ているだけだ。


「私は野乃花の母親の門倉真由美(かどくらまゆみ)。野乃花からはあなたの事色々聞いているわ。野乃花をとても大事にしてくれているみたいね」

「はい、野乃花さんは俺の大切な人です」


「君は、娘の親の前で、良くそんな事が言えるな」

「えっ?」


「お父さん。何でそんな事言うの。祐樹は私にとっても大切な人よ」

「野乃花もそう思っているのか?」

「当たり前です。一生彼について行きます」

「何?!どういう事だ?」

「そういうことよ。お父さん」


「野乃花、随分性急な事を言うのね。工藤君、君は野乃花をどう思っているの?」

「もちろん、俺も野乃花を一生大事にします」


「二人共、親に相談もせずに良く言うな。私達が二人の関係を認めなかったらどうするつもりだ」

「お父さん!私達の事でしょう」

「私は工藤君に聞いている」


「認められるまでご両親を説得します。勿論時が来たら順番逆になっても先に野乃花とは結婚させて頂きます。その上でご両親の説得を続けます」

「君も良く言う男だな。君の親が金持ちだからって、娘を簡単には嫁がせないぞ」

「お父さん。祐樹はそんな事全く思っていません。この前までは大学出たらどうなるか分からなけど俺の傍に一生いてくれと言ってくれました。何で今日はそんなに意地悪なの?」


「野乃花、大切な娘の心配をするのは当たり前だ。特に工藤君は工藤ホールディングスの跡取りとなる人間だ。これから歳をとる毎に色々な女性が彼の前に現れる。その時、野乃花がどう扱われるか心配で言っているんだ」

「俺は、他の女性なんか興味ありません。野乃花だけです」

「それは、今いる君の世界が狭いからだ。これから大学に入りそして社会人になれば、今の何十倍、何百倍もの女性が工藤家を見て君の傍に群がって来る。厳しい言い様だが、君の前に野乃花よりもっと魅力的な女性が一杯現れるだろう。

 今回の様な姑息な手段よりもっと汚い手で野乃花と君を引き離しに来るかもしれない。その時、今言っている事が本当に守れるのかね」


「それは…」


「もういい!ちょっと挨拶つもりで祐樹を紹介したのに。祐樹私の部屋に行こう」

 

 彼女が俺の手を引っ張る。


「すみません。失礼します」




 二人が部屋を出て行くと

「あなた、何も初めての挨拶なのに、あんな事まで言わなくてもいいでしょう」

「真由美、工藤ホールディングスとそのグループは巨大だ。その跡取りともなれば、どれだけの女性が彼を見ずに工藤の家を見て彼に近寄って来ると思う。その都度に苦しむ娘の姿を見たくないだけだ」

「あなた…」



 俺達は、野乃花の部屋に行くと

「ごめんね祐樹。挨拶なんかしなければ良かったね。いつもはとても優しいお父さんなんだけど」


「構わないよ。でも野乃花のお父さんが言っているのも事実だ。変な女が姑息な手段で俺に近付いて来るのは目に見えている。俺が野乃花をどれだけ大切にしようとしても、今回の様なことはいくらでも起こる可能性がある」

「じゃ、じゃあ、私はどうですればいいの?祐樹」


「俺が絶対に野乃花を離さない」

「でもそれだけじゃ、駄目だと祐樹は言っているよね」


 大学を出てからでも良いと思っていたけど、早める必要があるかな。


――――― 


投稿意欲につながるので少しでも面白そうだな思いましたら、★★★頂けると嬉しいです。それ無理と思いましたらせめて★か★★でも良いです。ご評価頂けると嬉しいです。感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。


 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る