第79話 変ってしまった日常


読み始めて気持ち悪いと思われた方は望月奈緒の独り言七百文字位スキップして祐樹の思いから読んでくださっても結構です。

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 毎日、私の所に報告が届く。あれから門倉さんは祐樹さんとの接触を一切絶った様だ。学校が始まっても門倉さんを守る様に緑川さんという子と水島さんという子が祐樹さんとの接触を避けさせているという。


 私は最初、門倉さんとは話し合いで祐樹さんから離れて貰う様にお願いするつもりだった。


 だけど、彼女の容姿を見た時、それは自分が甘い事に気付いた。私では全く歯が立たない。私も相当に容姿が良い事は自覚している。

でも彼女は美しさと可愛さを兼ね備えている。それに少しの色っぽさも。勝負にならないと思った。

 

 そして彼女と話している内にこの子は脅しに弱いという事も分かった。祐樹さんと門倉さんがホテルに入って行く動画を見せた時の驚き様は無かった。


 私ならこんなもの勝手にすればいい程度で相手にしなかったのに。こんなもの教育委員会に提出しても取り合ってなんかくれない。むしろ私が盗撮とストーカーの疑いを掛けられて終わりだ。


 それにホテルに入る様子は映したけど、二人が性行為は何も無かった。話していただけだとか入らずに帰ったとか言えばそれで済む事。

悪くても停学一週間程度だろう。それにあの二人が付き合っている事は私の耳にも入る位有名。今更何の事はない。


 でも門倉さんはこんな事に動揺して私の言う事をすべて聞いてくれた。本当に素直で良い子。もし祐樹さんと私の事が無かったら素敵なカップルに慣れたかも知れない。


ごめんね門倉さん。



 後は、私が祐樹さんの心をゆっくりとほぐしてあげて、いずれそういう事になれば、彼は私のものになる。もう敵はいない。時間もある。今週の日曜日も会う事になっている。

ふふふっ、楽しみだわ。




 俺は、始業式、いや春休みから野乃花とは会う事も話す事も出来ていない。その前までの事が夢の様に思われた。


 朝の登校は俺の行く時間帯に野乃花はいない。時間をずらして会えたとしても緑川さんと水島さんにブロックされてしまう。


 入学式後の下校時、俺は図書委員なのに何故か図書委員会を退会させられていた。新垣さんに事情を聴いても図書室担当の先生からの指示だという。彼女も分からない様だ。


 そして、普段は水島さんとクラス委員の仕事をして一緒に帰っている。この仕事のお陰で、桜庭エロ先生からの変な誘いも始まった。

 生徒会室に顔を出す事も多くなった。俺と元生徒会長の事を聞いているのか、皆優しかった。


 それでも俺は、野乃花と会いたい。会って話をしたい。だから道場に行った帰りは必ず野乃花の家の前から少し離れた所で待つことにした。

勿論前の様に門倉家から見える位置には立っていない。俺の姿を見て警戒されると思ったからだ。

前は二ヶ月位で元に戻れた。だから今回も続けていれば必ず元に戻れると信じている。



 そして日曜日。


「祐樹さん、今日はお食事の後、お買物を一緒にして下さいね」

「はい」

 毎週日曜日は、奈緒さんと会っている。でも俺の心の中は野乃花の事で一杯だ。


「祐樹さん、私との食事はつまらないですか?」

「そんなことないですが」

「でも、いつも心ここにあらずという目をしています。私の事をもっと真剣に見て頂けませんか?」


 この人の人としての柔らかさ、優しさは俺にも分かる。そして俺を見ていてくれることも。でも俺は野乃花だけだ。


「そんな事ないですよ。奈緒さんの事は真剣に考えています」

「そうですか。そう言って下さると嬉しいです」


 食事の後は、デパートに行って洋服を買いたいと言っていた。だから一緒に居る。彼女から手を繋いで来ても拒否はしない。でもそれ以上もしない。


GWはもう目の前だ。それまでに野乃花ともう一度元通りになりたい。


「祐樹さん、こちらとそちらを試着室で来て見たいのです。一緒に見て貰えますか?」

「いえ、俺は店の外で待っています」

「そんな事言わないで下さい。祐樹さんとお会いする時のお洋服ですから」

「そうですか」


 仕方ないしに試着室の前で待った。衣擦れの音がしている。カーテンの向こうで着替えているんだろう。


 ふふふっ、カーテンの向こうに祐樹さんが居る。今日は、ちょっと見せようと思って自分でも素敵な下着をつけて来ました。私はカーテンの隙間から顔を出して周りに祐樹さん以外の人がいない事を確認するとカーテンを開けた。


 シャー。


「祐樹さん、似合っています?」


 私はスタイルに自信がある。思い切り恥ずかしいですけど、これからの為です。


「えっ?!」

 彼は凄いスピードで反対側を向くと


「冗談は止めてください。帰りますよ」

「でも、祐樹さんに見て貰いたくて」

「今でなくていいじゃないですか」

「じゃあ、後で」


 今度はきちんと洋服を着てからもう一度カーテンを開けた。

「どうですか?」


 彼がゆっくりと振り向くと

「に、似合っています」

「良く見て下さい」


 今度は正面を向くと

「良いと思います」

「ではもう一つ来て見ますね」


 カーテンが閉まると俺は試着室の方に背中を向けた。この人頭おかしんじゃないか。淡い水色の下着姿を見せるなんて。それも結構きわどかった。どういうつもりだ。


 また、カーテンが開いた。

「どうですか?」


 俺はそっと首を横にしてチラッと見ると洋服を着ていた。正面を向いて

「とても素敵だと思います」

「祐樹さんは、先ほどの洋服とどちらが良いと思います?」

「どちらも似合っています」

「どちらがお好みですか?」


 面倒だな。自分で決めろ。

「先ほどの洋服の方が」

「分かりました」

 

 先に来たのはパステルブルーの腰と肩にアクセントのあるワンピース。後の洋服は、パステルイエローのワンピースだ。こちらには花柄がある。


「祐樹さん、会計してきますね」

「はい」


 この後は、池の有る公園を散歩するか、近くにある大きな川の川べりを散歩するかだ。今日は川べりをご所望の様だ。

「祐樹さん、GWのご予定は?」

「何も入っていません」

 本当は野乃花と思い切り遊ぶ予定だったのに。


「そうですか。では私とずっと一緒に居ましょうか」

「お誘い有難いですけど、今年は受験生なので家で勉強しようと思っています」

「では、勉強休みにお会いしましょうか」 

 この人意地でも会う気なんだ。


「そうですね、一日位なら」

「えーっ、せめて二日にして下さい」

「分かりました。二日にしましょう」




 GWに入った。まだ野乃花とは会えていない。


 家には二月終わりに病院を退院した兄さんがいる。兄さんの彼女君津川英里奈さんが毎日兄さんに会いに来てくれているというか家デートだ。


 彼女は兄さんの事を甲斐甲斐しく世話をしてくれている。早く結婚すればいいのにと思う位だ。


 兄さんの体を考えて二階に会った兄さんの部屋を一階の部屋に移して、玄関から完全なバリアフリーにしてある。その兄さんが、


「祐樹、最近門倉さんと会っていないようだが?」

「うん、彼女が会ってくれないんだ。理由は全く分からない」

 兄さんからはこんな事を聞かれても素直に答えられる。


「理由が分からない?あんなに仲睦まじかったのに?」

「うん、何とか会おうとしているんだけど、全然駄目で」

「そうか。つまらない事聞いて悪かったな」

「いいよ」


 弟の祐樹は正月に望月奈緒さんとお見合いしたと聞いている。多分、父さんが強引に進めたんだろう。しかし同時に門倉さんという素敵な彼女と会えなくなった。なんか関係でも有るのか?




 GWも過ぎ、中間考査も終わった。来週は体育祭だ。はっきり言って出たくない。欠席するか。

 こんなの時、小見川が居てくれたら、色々相談に乗って貰えたのに。俺は今日一人で下校している。今日は水島さんは、用事が有るとかで学校に残っている様だ。




 私は、体育祭の練習でグラウンドでバトンパスの練習をしていた。祐樹が校舎から出て一人で歩いている。

 本当は、彼の傍に行って思い切り抱き着きたい。彼に思い切り抱きしめて貰いたい。でもそれは出来ない。

「野乃花。そんなに工藤君の事諦めきれないなら、どんな理由があるにしろ一度工藤君と話してみたら?」

「里奈、それは出来ない。たとえどんな事が有っても」


 野乃花が目に涙を浮かべている。新学期になってからの野乃花の落込み様は酷い。最初の内は、お昼のご飯も満足に食べられない程だった。

 最近は普通に食べれる様になったけど、いったい野乃花に何が起こっているんだろう?


――――― 


投稿意欲につながるので少しでも面白そうだな思いましたら、★★★頂けると嬉しいです。それ無理と思いましたらせめて★か★★でも良いです。ご評価頂けると嬉しいです。感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。


 

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