第78話 三年生になって



 私、緑川優子。昨日突然、野乃花から私と里奈に連絡が有った。とても大事なお願いが有るから私の家に来てくれと言われた。

そして、今、里奈と一緒に野乃花の部屋にいる。明後日は始業式だ。



 野乃花は何も話さない。

「野乃花、何が有ったの?」


 彼女はただ首を横に振るだけだ。そして少しだけ黙っていた後、ゆっくりと口を開いた。もう泣きそうな顔をしている。その内容は自分達の耳を疑うものだった。



「優子、里奈。私、もう祐樹と会う事も話をする事も出来ない。でも同じクラスになる。だから学校に行く時、一緒に登校して。帰りは、里奈一緒に帰って。祐樹が話しかけても彼を止めて。

 教室で彼が私に話しかけてきたら止めて」

「野乃花、何言っているの。全然分からないよ。あれだけ大好きな工藤君でしょ。一生一緒に居るって約束したんでしょ。何言っているか分からないよ」

「そうよ、野乃花、分かるように説明して」


「ごめんなさい。理由は言えないの。お願い助けて」



 野乃花が泣き崩れてしまった。どうしたんだろう。尋常じゃない。もしかして


「野乃花。もしかしてカラオケに行った時、誰かに襲われたの?」

 首を横に振っている。


「何も無かった」

「それなら、なんで?」

「お願い、助けて」


「助けてって。いつまでこういう事続けるの?」

「一生。もう二度と祐樹と…」


 また思い切り泣かれてしまった。



「野乃花。どういう理由で話せないのかは分からないけど、とにかく野乃花は私達の大切な友達。協力はする。でもどこかで理由を話して」

 野乃花は首を縦にも横にも振らなかった。



私と里奈は、工藤君を野乃花に近づけさせないと約束した後、野乃花の家を後にした。



「里奈、想像つく?」

「全然分からない。でも野乃花の様子尋常じゃない。あのカラオケで何かが有ったんだ。そうとしか考えられない。

もしクラスの誰かが野乃花に悪い事していたら、学校に行って彼女の様子を見ていれば分かる。

野乃花が他に好きな男の子が出来たなんて事は全く考えられない。明らかに誰かに脅されている。でも誰に?」

「分からないわ」




 俺は、始業式の日なら野乃花に会えると思った。前と同じように午前七時半に彼女の家のある駅のホームで待っていたけど十五分経っても来ないので仕方なく電車に乗った。


 学校の有る駅に着いて急いで学校に行った。上履きに履き替えると掲示板に張り出されているクラス編成表なんか見ずに急いで3Aのクラスに行くと野乃花、緑川さん、水島さんがもう席に着いていた。


 俺は直ぐに野乃花の所に行こうとしたら、いきなり水島さんが、俺の所にやって来て


「工藤君、ちょっといい」

「良くない、野乃花の所に…」

「いいから」


 俺は腕を引っ張られながら廊下に出された。水島さんは、厳しい顔で俺の顔をジッと見ると


「工藤君、良く聞いて。野乃花にはもう近付かないで。話しかけるのも近寄るのも駄目」

「何言っているんだ。野乃花は俺の大切な人だ」

「工藤君、春休み全く会えなかった事を思い出して。彼女から拒否されていたでしょ」

「野乃花からは、拒否されていない。周りから拒否されたんだ。だから本人と話をすれば」

「工藤君、野乃花の事を考えてあげて。あれほど君の事を好きだった彼女がここまで苦しんでまで君を拒絶している」


「水島さんは理由を知っているのか?」

「優子も私も知らない。ただ野乃花から君を近付けないでと言われている。私達は野乃花の親友として彼女を守る。それより工藤君こそ、何か心当たり無いの?」

「えっ?」


 ここで予鈴が鳴ってしまった。仕方なく俺と水島さんは教室に入ると


 担任が入って来た。俺はその先生を見て驚いた。


「私が、一年間君達の担任になる桜庭清香です。知っている生徒も多いわね。始業式が始まるから、皆廊下に出て体育館に行って」


 なんて事だ。あのエロ先生がまた担任だとは。だから三学期の終りに通知表を渡す時、笑っていたんだ。



 俺は、始業式の先生達の話なんか全然頭に入ってこなかった。頭の中は、水島さんが言っていた事が反復されるだけだ。


 俺に心当たりはないかと言われた。心当たりなんかあるはずがない。俺は野乃花を一生守るって決めたんだ。それなのに…。



 ただ体が、周りの生徒と一緒に動いているだけ。教室に戻っても、俺はずっと野乃花の姿ばかり見ていた。いったい何が有ったんだ。



 担任の先生が入って来た。

「皆さん、初めての人もいるから改めて自己紹介するわね。私の名前は桜庭清香。このクラスは文系希望者の優秀な生徒の集まりです。この一年しっかりと勉強して希望大学に合格して下さい。では、早速席替えしましょうか。廊下側一番前の人からこの箱の中の席順カードを引いて」



 あれって去年使っていた奴だよな。箱の色一緒だし、所々剥げている。出席番号順なので直ぐに俺の順番が来た。俺は前に出て教壇の机の上に置いてある箱から席順カードを引いた。

 窓際、一番後ろだ、やったぜ。俺は自席に戻ると野乃花の姿を追った。彼女も席順カードを引いている。もし近くの席になれば、まだチャンスはある。


「皆引いたわね。では移動して」



 がたがたと移動し始める。俺は窓際の一番後ろの席に行って座っていると野乃花も俺の傍にやって来ようとして…。緑川さんの所に行った。水島さんを含めて三人で何か話をしている。あれ、桜庭先生の所に三人で行ったぞ。

 

 先生が、最初怪訝なん顔をしたけど、水島さんが何か話すと笑顔になった。何しているんだ。

 あれ、今度は水島さんが俺の隣の席にやって来た。


「工藤君、私の席はここ。一年間宜しくね」

「ああ、宜しく」

「つれないなぁ。もっと嬉しそうに言ってよ」

「…………」



 最初に野乃花が引いた席順は工藤君の隣席。つまりここだった。だから野乃花は座るのを拒否して私と優子に相談をしに来た。


幸い優子の隣席が私だったので、私が工藤君の隣に来ることにした。優子も来たかったみたいだけど、私よりずっと優しい優子だと工藤君にきつく当たれない。だから私にした。桜庭先生に席交換をお願いすると何故かが喜んでいたのは理解出来ないけど。



「はい、皆移動したわね。ではクラス委員を決めて。先ずは委員長から。他薦自薦誰でも良いわ」


 シーン。


 クラス委員なんてやりたい奴なんて誰もいない。俺は図書委員だからなる事は無いと思っていると


「工藤君、クラス委員長やらない。君がやるなら私もやるわよ」

「えっ?何言っているの水島さん。俺図書委員だよ」

「去年の終りから今の二年生が図書委員になっているでしょ。君はもう良いんじゃない。先生、工藤君を推薦します」


「「おおーっ」」


「工藤君ね。私も賛成だわ」

 これで彼に近付くチャンスが思い切り増える。


「他にやりたい人とかいる。居ないわね。では工藤君、前に出て、他の委員も決めて」

「ちょっと待って下さい。俺は図書委員で…」

「それは、大丈夫よ」


 新垣さんがいないから反対者が居ない。どうなっているんだ。


「先生、クラス委員は私がやります。去年一年間やっているので工藤君の補佐が十分に出来ます」

「水島さん、それは良いわね。では二人で前に来て他の係も決めて」


「ほら、工藤君、前に行こう」

「でも、俺は…」

「男らしくないなぁ。もう決まった事なんだから」


 二年の時まで一緒だった男友達も誰もいない。前だったら小見川や一条がクレーム付けてくれただろうに。


――――― 


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