第77話 元生徒会長からの言葉
もう三月、祐樹は望月さんと会った時の事を詳しく話してくれた。それを聞いた私は、ちょっとだけ焼餅を焼いたけど、でもそれ以来会ってないという。
実際、土曜日と日曜日は私と一日中いた。もう学年末考査に入っているので二人で、考査が終わった後、図書館で一緒に勉強して、送って貰った。
祐樹が望月さんと会う時間など全くない。そして明後日金曜日は卒業式。だから祐樹が言っていたように、彼女と祐樹の間の事はもう終わりかと思っていた。
そして学年末考査も終り、迎えた卒業式。在校生である私達は、卒業生を送る為、パイプ椅子に座って卒業式に参加している。
卒業生代表は当然望月奈緒さん。しっかりとした言葉で答辞を述べていた。この人とももう関わり合う事も無いと思って聞いていた。
俺は、昨日の夜、奈緒さんから、今日はやはり会えないからと言われていた。彼女は残念そうに言っていたけど、まあそうだよな。
いつもの様に野乃花と一緒に帰った。
「祐樹は、今日はどうしようか。私の部屋に来る。お姉さんは仕事だし、お母さんは用事が有るから午後六時まで帰ってこないよ」
「でも」
「祐樹、ここの所勉強ばかりだったよ。もう二週間も」
「分かった」
野乃花にそう言われると俺もそう思ってしまう。
学年末考査の結果は、俺が学年三位、野乃花が二十位。緑川さんが二十五位。水島さんが三十位だ。俺達は一緒の様だ。
小見川と一条は理系にすると聞いているから、三年では一緒になれない。残念だけど仕方ない。
ちなみに新垣さんも理系の様だけど。そう言えば新垣さん、俺が文系に変えたの教えて無いな。まあいいか。
そして、迎えた修了式。担任の桜庭エロ先生からはあれ以来何も言われていない。来年はもう関係無いだろうから良かった。
その担任から通知表を貰った時、何故かニコッとされたのは、気の所為かな。
先生の話が終わると全員で担任の桜庭先生に挨拶して解散となった。
「工藤、この後行くだろう」
俺は野乃花の方を見ると頷いたので、
「ああ、行くよ」
「そうか。良かった。来年は一緒のクラスじゃないからな」
「ああ、そうだな」
駅の近くのカラオケ店を予約したらしい。部屋が三つに分かれてしまったが、仕方ない。俺は、当然野乃花と一緒の部屋に入ると、同じように緑川さん、水島さん、新垣さんが入って来た。それを見た一条が
「ちょ、ちょっと、工藤ハーレム部屋じゃないんだから、分散しようよ」
「そうよ、そうよ」
なぜか、普段俺達をネタに話をしている女子達が、クレームを入れて来た。
「門倉さん、緑川さん、水島さん、新垣さん、今日くらい、工藤と離れても大丈夫だろう。それに後でシャッフルもあるし」
「「「「やだ!」」」」
「おい、工藤何とか言ってくれ」
「俺が言うのか?」
「「お前しかいない」」
何故か、他の男子達も言って来る。仕方なしに
「野乃花、緑川さん、水島さん、新垣さん、また後で」
「「「「えーっ!」」」」
「祐樹、私だけでも傍にいたい」
「こら、野乃花。駄目。一緒に行くのよ」
「優子、痛い、痛い。そんなに引っ張たら腕が抜ける」
俺は笑いながら
「野乃花、後で」
「もう」
私は祐樹に未練たらしく言うと優子達と別の部屋に行った。
「うふふっ、工藤君。この時を待っていたわ」
「そうよ」
「今日はゆっくりと私達と楽しみましょうね」
一条と小見川が腹を抱えて笑っている。
始まって三十分位経った所で、
「みんな部屋移動して良いぞ。他の部屋からもこっちに来るはずだ」
俺は野乃花が直ぐに来ると思って待っていると緑川さん、水島さんそれに新垣さんがやって来た。
「野乃花は?」
「あれ、もう先に来ているはずだけど。さっき一番で出て行ったわよ」
「えっ?」
「少し待っていれば来るんじゃない」
俺は一抹の不安を抱えながら待っていると十分経っても帰ってこない。
「俺ちょっと別の部屋見て来る」
「えっ?!野乃花が他の部屋に行くなんて考えられない」
「おトイレかな。私見て来るね」
緑川さん、トイレに探しに行ってくれた。俺も他の部屋に行って見たが来ていない。緑川さんも戻って来たけど居なかったようだ。
俺は部屋の外に出て、直ぐにスマホで野乃花に連絡したけど出ない。三回掛けたけど出なかった。心配になり、
「ごめん、俺先に帰る」
「「私も」」
緑川さんと水島さんも一緒にカラオケを出た。
「どこ行ったんだろう。それに連絡も来ない」
「工藤君、野乃花の行きそうなところ分かる?」
「そう言われてもな。この辺で寄る事は無いし。とにかく野乃花の家に行って見る」
「分かった。私達は一応、学校にも行って見るわ。もしかしたらという事もあるし」
「ごめん、お願いする」
「何か有ったら、直ぐに連絡ね」
「うん」
俺は、野乃花の家に行って見たけど、逆に何故一緒じゃないのか聞かれてしまった。
私、門倉野乃花。部屋替えが始まったらすぐに部屋を出た。直ぐに祐樹の所に行こうと思ったけど、ちょっとトイレに寄ってから行く事にした。行って直ぐに席を立つのは嫌だったから。
トイレから戻って祐樹の居る部屋に行こうと思った所で声を掛けられた。元生徒会長の望月奈緒さんだ。何でここにいるんだろう。
「門倉さん、少しお話があるの。重要なお話よ。但し、祐樹さんには言わないでね」
「えっ?何を言っているか分かりません。失礼します」
「そう、でもこれを断れば、あなたは学校に来ることが出来なくなるかも知れないわ。これを見なさい」
「えっ?!」
スマホに映し出された動画には、間違いなく祐樹と一緒にホテルに入って行く姿が有った。
「分かったら、一緒に行きましょう」
私は、学校にでも行くのかと思ったら、大きな車の中に入れられた。私の後ろにサングラスを掛けた怖そうな男の人が立っていて、仕方無かった、とても怖い思いだったけど。
「ここなら誰もこの話は聞かれないわ。話が終わったら、家まで送って行ってあげる」
「結構です」
「そうかしら。話が終われば気が変わるわ」
「えっ?」
私は何を言われるのか不安が頭一杯に広がった。
望月さんはゆっくりと話し始めた。
「門倉さん、あなたはもう知っていると思うけど、私と祐樹さんは、正月にお見合いをしました。それはあくまでも工藤家と望月家の形式的な儀式です。その時点で、私と祐樹さんの結婚は決まりました」
「えっ?!」
「驚かれるのも仕方ありませんが、これは由緒ある我が望月家と実業家工藤家が日本の為に行う結婚です。あなたの様は一般の人達の恋愛では無いのです。祐樹さんの事は諦めて下さい」
「…でも祐樹はその事を知っているのですか?」
「知っているも何も彼も私との結婚には同意しています。あなたとはいずれ時が来れば別れると」
「そんなぁ!」
嘘よ嘘に決まっている。この人が私と祐樹との間を切り離そうとしている嘘よ。
「祐樹は、私に望月さんの事は興味ない。俺は私を選ぶとはっきりと私に言ってくれました。あなたの言った事は出鱈目ですよね」
「そんな事無いわ。それこそあなたと上手く別れる為に油断させているのよ。それに…。
私のスマホの中に入っているあなたと祐樹さんの動画、教育委員会に送ったらどうなると思います。想像位つきますよね。
教育委員会は当然学校に処分を要求する。校長たちは教育委員会に口立て出来ない。不純異性行為としてあなた達を退学にさせるわ。他の生徒の見せしめとしてもね。
そんな事になって良いの。あなたはどこかの学校に転校すればいいけど、祐樹さんはそうはいかないわ。
もしあなたが祐樹さんの事を思うなら、あなたから別れを切り出すべきよ。もちろん私とあなたがここで話した事は祐樹さんも含めて誰にも言わないでね。口外した時点でこの録画は教育委員会に行くわ」
「そんな事言われても…」
それから更に望月さんから言われた事は、祐樹とは二度と会うな。学校でも無視しろという事だった。勿論私の行動は、毎日把握できるとも。
そしてその場で私のスマホの祐樹のアドレスをブロックさせられた。それをしなければ車から降ろさせないと。
私はショックでなにも考える事が出来なかった。そのまま車で家まで送られた。家に入るとお姉さんが
「工藤君、来たわよ。えっ、どうしたの野乃花?!」
私は、姉の体に顔を付けて思い切り泣いた。ただひたすら泣いた。そして春休みは祐樹と会う事は無かった。彼が何回も家に来るが、全てお姉さんに言って帰って貰った。
おかしい。野乃花といっさい連絡が取れない。スマホはブロックされているし、何回家に行ってもお姉さんから帰るように言われている。
今までこんな事無かった。そもそもカラオケに行くまではこんな事になるとは思っていなかった。
緑川さんに聞いても水島さんに聞いても理由は分からないという。彼女達は野乃花と連絡が取れるようだが、一切理由は分からないまま、俺とはもう会えないと言っているだけと聞いている。
結局春休みの間、野乃花とは一度も会えなかった。
『優子、どういう事?』
『全く分からない。野乃花が理由も無しに工藤君を拒絶する事なんてありえない。それに話をしていてもとっても辛そう』
『あのカラオケで何が有ったんだろう』
『当日のテレビカメラ見せて貰えないかな』
『私達だけじゃね』
『とにかく三年になればまた皆会えるわ、その時にだね』
―――――
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