第72話 黙っていては何も始まらない


 工藤君とお見合いしてから既に二週間以上が過ぎた。彼からは何も話しかけて来ない。当たり前だ。そもそも彼はこの話には乗り気でなかった。


 大きな理由は門倉野乃花という女の子の存在。彼女がいる限り彼の方からは、私に話しかけてはくれない。


 だから私から彼に声を掛けるしかない。それも周りに目立つように。そうすれば彼と私の関係を上手く知らせる事が出来る。

 いや、それは不味いか。こんな方法取ったら私は彼から嫌われてしまう。でもとにかく声を掛けないと。


 周りには目立たない様にそして彼には意識される様に。だから私は、彼が登校するのを待って彼が教室に入る前に


「工藤君、おはようございます」

 私は、しっかりとした口調で言った後、ゆっくりとお辞儀をした。


「えっ、も、望月さん、おはようございます」

「生徒会長、おはようございます。祐樹、教室に入ろう」

 なんなの。いきなり祐樹に。それに祐樹も望月さんなんて言って。


「工藤君」

「何?」

「いえ…」

 顔を赤くして三階に行ってしまった。野乃花が睨む様に望月さんの後姿を見ている。



 ふうっ、何とか朝のご挨拶は出来ました。次はお昼休みですね。



 俺達は教室に入って、自分の席に着くと

「工藤、おはよう。今の何だ?」

「俺も分からん」

「でも、生徒会長が、お前に朝の挨拶なんて?それもお辞儀していたぞ」

「生徒会長も暇なんだろう。皆に挨拶しているんじゃないか?」

「そんな訳無いだろう。なんか理由あるんじゃないか?」

「そんな事言われても俺は知らないよ」

「それもそうだが」


 工藤の周りに新しいパーツが増えるのは面白いが、今までとはなんか違うな。




 お昼休みに入ると直ぐに生徒会長が来た。皆が思い切り見ている。


「工藤君、お昼を食べ終わったら生徒会室に来て頂けませんか?」

「えっ?」


 野乃花がこちらに来ようとして足を止めた。とても心配そうな顔をしている。

「生徒会長。俺に何か用事でも?」

「はい、とても大切な用事です。生徒会室の場所はお分かりですか?」


 生徒会室なんて縁がないけど場所は知っている。

「ご飯食べ終わった後なので、あまり時間無いかも知れませんよ」

「それでもお願いします」

「分かりました」


 生徒会長が教室から出て行くと野乃花がお弁当を持ってやって来た。

「祐樹」

「心配しなくていい」

「でも」

「野乃花、ご飯食べよう。お腹空いた」

「うん」


 野乃花の作ってくれたお弁当を食べている時でも彼女は静かだった。

「野乃花?」

「ごめんなさい。どうしても気になって」

「大丈夫だ。俺を信じろ」

「分かっているけど…」



―ねえ、聞いた。工藤君、俺を信じろだって。

―いいなあ、私も一度で良いから彼から言われてみたい。

―あなた彼氏いた?

―居ないわよ。せっかく人がロマンチックにしていたのに。

―あはは、ごめん、ごめん。


 女子達。いい加減に俺達を会話のネタにするのは止めてくれ。


 俺は食べ終わると

「野乃花ちょっと行って来る」

「うん」

 野乃花が心配そうな顔をしている。何の話が有るのか知らないがとにかく行って見るか。


 確か生徒会室は一階の職員室の並びの一番奥の所に有った筈だ。少し早足で行くと


コンコン。


 ドアをノックしてから開けると何故か生徒会長しかいなかった。今は元か。

「工藤君、良く来てくれたわ。そっちのソファに座って」

「はい」


 彼女は、俺の前に座った。足を斜めにしている。


 何故か、俺の顔を見ては下を向き、また見ては下を向いている。なんか顔が赤い気がするけど熱でもあるのかな。でもこのままじゃ。

「生徒会長」

「ひっ!」


 驚いて両腕で自分の胸の部分を覆って顔を赤くしている。こっちは見ているけど。

「生徒会長?大丈夫ですか?」

「あ、あの、あの」

 駄目だ、二人で正面に向き合うと全く言葉が出ない。どうすればいいの。男の人と二人きりなんてなった事無いし。


 生徒会長どうしたんだ。みんなの前にいる時と同じ人とは思えない。

「何も話が無いなら俺教室に戻りますよ」

「え、え、え。ちょ、ちょっと」


 この人完全に言語障害になっている。どうすればいいんだ。また下を向きながら


「あ、あの。わ、私。こういう風に男の人と二人きりになった事無いんです」

「はぁ?」


 何言っているんだ。実家に来た時、少しは話しをしているじゃないか。あっ、でもあの時は彼女の両親、俺の両親もいた。

 えーっ。じゃあ、これはどうすればいいんだ。


「じゃあ、誰か呼べばいいんじゃないですか?」

「だ、駄目です。まだ私達の関係は誰も知りません」


 私達の関係って言われてもな。何も無いぞ。


「でも、これじゃあ、話も出来ないでしょう」

「あ、あの。毎日、お昼休み来て頂けませんか。そうすれば、少しは話せる様になるかも」

「無理です。来れません」

 こんなのに付き合わされてたまるか。


「じゃ、じゃあ、私の家に毎週来て頂くというのは。慣れたいんです。工藤君に」

 はぁ、確かにこの人の父親から至らぬ所は治させると言っていたけど、それ以前じゃないか。どうしたものか。


「それも困り…」


 思い切りテーブルに着く位頭を下げて

「お、お願いします」


 仕方ないか。一応、両方の両親の前でお付き合いすると言ってしまったものな。

「分かりました。細かい事はいずれ」

「ま、待って下さい。れ、連絡先を」


 仕方なく、ポケットから出したスマホで生徒会長と連絡先を交換した。望月奈緒と表示されている。


 この後、教室に戻ったところで予鈴が鳴ってしまった。野乃花が俺の顔を見て心配そうな顔をしている。



 祐樹が帰って来た。彼を見ると何も無かったような顔をしている。でも心配。相手はあの生徒会長。生徒の前に立った時のあの凛とした雰囲気で話しかけられたら祐樹だって。とにかく放課後聞いてみよう。


――――― 

 

投稿意欲につながるので少しでも面白そうだな思いましたら、★★★頂けると嬉しいです。それ無理と思いましたらせめて★か★★でも良いです。ご評価頂けると嬉しいです。感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る