第71話 望月奈緒という女の子


 私は、物心がつく前から母方筋から厳しくしつけられ、お花、踊り、お茶、所作全てを教え込まれた。父方筋からは勉強も常に上位、いや常に一位を維持するようにそして人に頼られる人間になりなさいと言われ続けて来た。


 小学校一年生の時から供の者に連れられ登下校。そんな私の周りにいる友達?はいつも私を勝手に上に見て勝手について来るいわゆる学友。だから私もそれが当然という態度を取った。


 中学校も同じだった。だから生徒会長になるのが当たり前の様に周りからお膳立てされた。そして私の言葉は絶対的なものとして男女関係無く逆らうものは居なかった。


 高校に入って供の者はついてこなくなったが、私を取り巻く環境は高校に入っても同じだった。だって、小学校、中学校と同じ人たちが私の周りにいるから。


 家の外ではそんな態度ばかり取る私は学校から家に戻ればただの女の子。


 対等に話せる友達が居ないので、やがて本当に好きな人が私の目の前に現れた時、普通に話す事が出来るのか心配だった。本当に友達と言える人なんていない。



 高校二年も終わり、後一年で高校生も終われば、大学に行ってこんな呪縛から解き放されるだろうと思っていた。

 だけど、高校三年の夏に入る前、お父様から信じられない事を聞いた。


『奈緒、お前の嫁ぎ先が決まった。お見合いからだがな』

 何を言っているのか分からなかった。なに私の嫁ぎ先って?


『相手は工藤ホールディングス会長の息子工藤祐樹だ。夫にして不足無い』

『ですが』

『もう決まった事だ』


 いったい誰、工藤祐樹って。一つだけ教えて貰った。同じ高校の一つ下の学年にいる。それだけだった。


 そして、変なニュースが流れた。私はそれを見ていなかったが母から教えられた。仕方なく次の登校日、学校の顔をしてその子に会いに行った。でも初めてだったので一応本人確認してから言った。

『私、生徒会長の望月奈緒。覚えておいて。いずれ君とまた会う時が有るから。ではまた』


 私にとってはそれが私自身が出来る最大のアピールだった。でも心の中は、全くそんな事に興味無かった。


 だって男子生徒なんて話をした事もほとんどない。生徒会にいる男子は私に気を使って、最低限の言葉しか掛けてこない。



 夏に家族で出かけた思井沢で散歩していた時、偶然会ったけど、とても夫にするなんて心の片隅にも無かった。


 でも全く情報がない事には断る材料もない。本当に良い所を見る事も出来ない。だから二学期に入ってからは、二年生で生徒会に入っている女の子に工藤祐樹の情報を持って来るようにさせた。そして私自身も彼を観察するようにした。


 イケメンでも無ければブ男でもない。勉強は出来るみたいだ。運動神経も良さそう。精神は軟弱で人の言葉に流されやすい。はっきり言って相手したくなかった。


 だけど文化祭二日目に起こった事件の詳細を先生から聞いた時、私の心が少しだけ動いた。

 それは強い男。私の周りは、私が一言言えば簡単に飛んで行きそうな男ばかり。でも工藤祐樹は、暴漢に襲われている彼女を助けに単身で道具倉庫に入り、一瞬で暴漢二人を倒し彼女を助けたという。だけどそれをきっかけに二人は別れたと聞いた。


 そして二ヶ月の時間は掛かったものの暴漢に襲われた門倉野乃花の閉じた心を開かせ、また恋人同士に戻ったという。


 始めて見た時の軟弱男というイメージが消えた。それから私は彼の姿を見る度に何かドキッとする物を心に感じる様になった。そして門倉野乃花と一緒に居る時を見た時は、胸が苦しくなった。



 だから、正月四日のお見合いの時、学校の姿ではない私の本性を晒して、素直にお付き合いをして頂けないかお願いした。

幸い、事は上手く進み、私達はお付き合いする事になった。但し門倉野乃花と工藤祐樹の間は恋人同士という宙ぶらりんな形で。



 私は色恋の駆け引きなんて知らない。だから素の私を出して彼に接していく。お父様が工藤祐樹から私の気に入らない所は直すとまで言っている。だから私の素の姿で彼に向き合おうと思う。無理しても直ぐにバレるから。


 門倉野乃花さんは綺麗な人。彼を一途に思っている。私もそうしないと彼女に勝てない。



 三学期が始まった最初の一週間は、正月の恥ずかしさも有って、会いに行けなかった。彼は門倉さんと仲睦まじく毎日一緒に登校し、お昼を食べ、一緒に下校している。そしてあっという間に一週間が経った。


このままではせっかくお父様と彼のお父様が用意してくれたお付き合いの場を自分で潰す事になる。だから私は翌月曜日から動く事にした。あくまで学校の時は学校の時の顔で。




「祐樹おはよう」

「おはよう野乃花」

「こうしてここのホームで待合せるのも今週一杯だね。来週からはどうする?」

「どうするって、野乃花の家のある駅のホームで俺が待つよ。隣駅だし、時間もほとんど変わらないだろう」

「そうだね。じゃあ、この電車として駅には午前七時三十五分かな?」

「細かいから午前七時半でいいよ」

「うん、そうしよう」


 望月奈緒さんは先週何も声を掛けてこなかった。このまま過ぎてくれればいいんだけど。



 学校のある駅を降りると

「祐樹進路は理系だよね」

「うん、それ変わりそうだ。文系になると思う」

「えっ、でも」

「野乃花、仕方ない。俺が継ぐにも兄さんのサポートになるにも経営学を学び、語学に堪能にならないといけない」

「そうかあ、じゃあ私も文系にしないとね」

「ああ、先生に言ってコースの変更を届けないといけない。進路面談も終わってもうすぐ三年だけど、まだ間に合うだろう」

「じゃあ、一緒にしよう」

「ああ」



 私、望月奈緒。窓からグランドを見ている。祐樹さんが門倉野乃花と手を繋いで校門から入って来る。恋愛経験無し、家族を除けば男性との会話経験ゼロに等しい私は、彼に近付く方法を全く見いだせないでいた。どうすればいいの。


――――― 

 

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