第70話 束の間の日々
俺はマンションに戻った後、バッグをリビングにおいてソファに横になった。
どうしたものか。俺は奈緒さんいや生徒会長となんて付き合う気はない。しかし、学校ではあれほどはっきりした物言いと生徒の前での発言とか考えるとどちらが本当なのか分からない。まあ、どっちでも良いけど。
明日月曜日は成人の日で休みだ。野乃花と会うか。道場も明後日からだし。俺は直ぐにスマホを手に取って野乃花に連絡した。
スマホが震えている。あっ祐樹だ。
『祐樹、野乃花』
『野乃花か、明日会えないか』
『もちろん良いよ。何時に行ける?』
『明日は、掃除とスーパーの買い物が有るからその後かな』
『朝から行っていい。買い物も掃除も一緒にする』
『いやそれは悪いよ』
『ううん、そうさせて』
『じゃあ、駅に午前九時で良いかな?』
『分かった』
祐樹が今日実家に戻らなければいけないと言われた時、一瞬だけ嫌な予感が走ったけど、気の所為かな、明日朝から会えるし。
次の日、野乃花は俺より早く駅に来ていた。まだ午前九時前だ。
「野乃花早いね」
「うん。スーパーで買い物しよう」
「おう」
何故か俺が買い物籠を持って野乃花が野菜やお肉を選んでいる。なんか夫婦みたいだな。野菜はともかくお肉も大体俺が買っているものと同じだ。
買いが終わるとそれをエコバックに入れて手に持つと反対の手で野乃花の手を掴んだ。彼女もぎゅっと握って来る。
マンションに着いて部屋に入るとエコバックを置いて、野乃花をこっちに向かせていきなりキスをした。
彼女は決して拒否しない。最近ちょっと舌を絡ませる時がある。あれは少しきついので唇だけにした。少しの間そうした後、唇を離した。
「どうしたの祐樹。してくれるのは嬉しいけど。何となくらしくない」
「ごめん、野乃花の姿見たら、我慢出来なくなって」
「じゃあ、早くお掃除しようか」
「おう」
エコバックに入れてあったお肉と野菜、それに総菜を冷凍室と冷蔵室に仕舞い、野菜を野菜室に仕舞うと
「ほんと、祐樹手慣れているね。私なんかより上手」
「まあ、二年近くしていればね」
「じゃあ、早く掃除しちゃおう」
「おう」
掃除も終わり、今二人で彼のベッドの上にいる。祐樹は最初から激しかった。私の洋服を強引に脱がせると下着も取らない内に私に激しくキスをして来た。そして下着を取られた後も更に激しくしてきた。どうしたのって思うほどに。勿論私も一杯してあげた。
そして今、二人で横になっている。
「どうしたの祐樹。何かいつもより激しかった感じ」
「ごめん。昨日から野乃花が恋しくて仕方なかった。掃除を終わるまでが我慢の限界だった」
「ううん、私を求めてくれるのは嬉しいけど、何か理由がありそうで」
祐樹が天井をジッと見ている。そして
「野乃花、俺実家に戻る事になった」
「えっ?!どういう事なの?」
「昨日実家に帰った時、言われた」
生徒会長の事はまだ言えない。でも時間が無い。
「いつ、実家に戻るの?」
「二週間後の日曜日二十一日だ。でも皆業者の人がやってくれるから、俺は何もしないけど」
来た時だってそうだ。業者の人が来て全部必要な物を配置までしてくれた。必要な食器も全部食器棚に入れてくれた。
でも父さんはおろか、母さんも兄さんも来てくれなかった。あの時の寂しさは言い表せない。捨てられたと思った位だ。
「じゃあ、こうしてここでもう会う事は出来ないの?」
「動くのは、俺の洋服や学用品だけ。それ以外は全部このまま。でもその後、俺がここを使えるかは分からない」
「そう」
祐樹が実家に戻ったらこうして抱いて貰う事は出来なくなるのか。それはそれで寂しいな。私の部屋は駄目だしな。
「祐樹、とても大切な事だけど。…こういう事って出来なくなるの?」
「うーん、それは嫌だな。二人で考えようか」
「うん」
何となく見つめている内に彼の体に乗った。初めてだけど思い切り感じた。
今、彼の体に乗ったまま胸に顔を付けている。
「祐樹、何かもう一つあるんじゃない?」
「うん?」
「なんか、祐樹の心の中にしこりみたいなものを感じる」
「…参ったな。そこまで分かるのか」
俺は野乃花を体の上から横に静かにずらすと彼女を抱きかかえながら
「何も言わず最後まで聞いてくれる?」
「うん」
俺は、昨日工藤家と望月家の間で決まった事を話した。その上で
「俺は絶対に野乃花と離れない。工藤家より野乃花を選ぶ」
「祐樹」
せっかく、祐樹と恋人同士になって、あんな事が有った後でも祐樹と元に戻れた。でも今回の事は次元が違う。
望月奈緒、政財界の大物の娘。母親は一条家の直系。そしてその人は私達の高校の元生徒会長。今はもう二年に代わっているけど。相手が悪すぎる。
いくら祐樹が私を選ぶと言っても本当にそんな事出来るんだろうか。祐樹の言葉を聞いて私の胸は不安という言葉しかなかった。
一度起きてシャワーを浴びた後、簡単に昼食を摂った。そしてまたベッドの上にいる。
「祐樹、私どうすればいいの?」
「野乃花は俺の傍にいればいい。でも離れるな」
「うん、登校の時も祐樹が図書受付している時も下校の時も一緒にいる」
「そうしてくれ」
そうすればあの人は俺に近寄れない。
翌火曜日は三学期の始業式。二人で登校した。教室に入ると小見川が声を掛けて来た。
「あけおめ工藤」
「ああ、あけおめ小見川」
「工藤君、あけましておめでとう」
「新垣さん、おめでとう」
野乃花は緑川さんや水島さんと楽しそうに話をしている。俺も小見川と喋っていると担任の桜庭先生が入って来た。俺をちらりと見た後、皆に向って
「体育館で始業式をします。廊下で出て」
がたがたと皆が廊下に出ようとしている時、小見川が
「なあ、二学期から感じたんだけど、桜庭先生、毎日お前見ていないか?」
「いや、俺は全然気が付かないけど」
「そうかなあ?」
この日は何も無かった。野乃花と一緒に帰って、俺の所に少し寄って、家まで送って行った。
いつ、望月さんが来襲するかと思っていたけど、結局この週は来なかった。
―――――
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