第67話 何かが少しずつ変わっていく


 俺は翌日も兄さんの病院にお見舞いに行った。小さい頃からいつも俺に優しく接してくれた大切な兄さんだ。


 昨日両足切断を聞いた時は頭の中が真っ白になったが、今日の朝は大分冷静になった。現代の医療技術は優秀だ。ロボット工学も進んいる。最初は車椅子を強いられるだろうが、その内両足が義足でも普通に過ごす事が出来るに違ない。そうなるはずだ。


 昨日はナースセンターの人が朝から来ても良いと言っても、朝一番は色々あるだろう。俺は午前十時頃兄さんの病室に行った。


「兄さん」

「祐樹か」


 ベッドの側に兄さんの彼女、君津川英里奈(きみつがわえりな)さんがいた。背が高く、黒髪が背中まであり、先端が軽くカールしている。細面で目の大きな美人だ。


「こんにちは祐樹君」

「こんにちは君津川さん」

 

 来るタイミング悪かったな。


「兄さん、後で来るよ」

「祐樹、気を使う事は無い。もう少し居てくれ」

「でも」

「いいわよ。もし正孝さんとお話が有るなら私が席を外すわ」

「いえ、話なんて。ただ兄さんが心配で」

「ふふっ、素敵な弟さんね」


「祐樹、学校は終わったか?」

「昨日ね」

「昨日か、彼女とのクリスマスの邪魔をしてしまったかな」

「そんなことないよ。そんな心配しないで、早く治って家に戻って来て」

「そうだな。だが少し掛かりそうだ。祐樹、父さんや母さんの傍に少しでも居てやってくれ」

「でも、俺は追い出された身だし」

「父さんの言い方が悪すぎたな。父さんがしきたりだとか言ってお前を独立させたのは、別の理由だ。決して祐樹を追い出した訳では無い」

「兄さん、それどういう事?」

「俺がこうなった以上、いずれ父さんからお前に話が有る。それまで待っていなさい。俺からは話す事が出来ない」


 兄さんが言った事が全く理解出来ない。あの時、俺は独立なんてしたくないと言ったのに、父さんはしきたりだと言って俺を厳しい言葉で追い出した。


 だから俺はもう工藤家とは縁が切れるものと思っていた。兄さんはいずれ父さんが話してくれると言ったけど。



「祐樹、難しく考えるな。いずれ分かる。それより彼女は出来たか?」

 父さんに同じ事言われた時は頭に来たけど兄さんなら何故か全く反対の印象になる。


「出来たよ。昨日母さんに紹介した」

「本当か。俺も会いたいな。今度連れて来ないか?」

「私もみたいな祐樹君の彼女」


「まあ、今度ね」


 そんな話をしてる内に母さんがやって来た。父さんは仕事なんだろう。


「祐樹、来てたの?」

「うん、もう長居したから帰る」

「祐樹、今年はいつ帰って来てくれるの?」

「そうだな。三十日かな」

「もう少し早く帰って来れない?」

「うん、冬休みの宿題や掃除とか有るから」

「そう」

 母さんが寂しそうな顔をした。仕方ない。でも


「少しでも早く終わったら帰るよ」

「そうしてね」

「じゃあ、俺帰るから。兄さん、君津川さん、また」



 俺は部屋に帰った後、午後一時に野乃花が来る事になっている。一緒に冬休みの宿題をするつもりだ。



 急いで戻って、簡単に昼食を食べた後、午後一時前に駅に迎えに行った。野乃花はもう来ていた。

「野乃花」

「祐樹」


 マンションに向かいながら

「野乃花、今日午前中、兄さんの所に行ってきた」

「お兄様の所って病院?」

「うん、その時、彼女いるかって聞かれて、居るよと答えたら会いたいって。だから時間有ったら行こうか」

「本当。嬉しいなあ」

 これで少しずつ祐樹の家族に私を認識して貰える。お母様にはもう昨日ご挨拶しているし。


 俺達は、マンションの俺の部屋に着くと直ぐに冬休みの宿題に取り掛かった。教科毎の量は多くないが全教科から出ている。


 二人で集中して午後三時休憩した時、

「祐樹、明日は朝から来て片付けようか。そうすれば、今日は二十六日だから二十八日にはめどがつきそうだよ」

「まだ、始めたばかり。根拠のない憶測は止めよ」

「全く祐樹ったら。いつもそうなんだから」

「だって、そうなって欲しい、そうなるはずだ、やっぱり出来なかったより良いともうけど」

「そうだね。祐樹とずっと一緒に居れるはずじゃなくて、一日一日の積み重ねだもんね」

「そういう所は確実だな」

「もう、祐樹のばか」

 俺何か変な事言った?



 休憩のおしゃべりも終わり、今度は午後五時半まで集中してやった。でも半分以上残っている。

「野乃花、もうすぐ午後六時になる。送って行くよ」

「大丈夫、宿題やるから少し遅くなるって言っておいた。だからぁ」


 俺に抱き着いて来た。

「ねっ、ちょっとでいいから」


 午後七時になってしまった。

「野乃花、帰るぞ」

「泊っていきたい」

「そんな事したら、君のお姉さんに何言われるか」

「ふふっ、大丈夫よ姉は。君を信じ切っているから」

「なんで?」

「まあ、色々とね」

 良く分からない。あの恐いお姉さんが俺を信じ切っているってどういう事だ。


「とにかく、今日は帰ろう。早く洋服着て」


 野乃花の体は本当に綺麗だ。立っているともう一度抱きたくなる。


「祐樹、そんなに未練あるならもう一度いいよ」

「い、いや。また明日」

 あっ、失敗した。


「えっ、明日も出来るの。やったあ。じゃあ、明日早く来て宿題片付けよう」



 次の日は、野乃花の家と近い事もあり、午前八時に俺の所の駅で待ち合わせした後、部屋で簡単に食事をして午前九時前には宿題を始めた。


 お昼休みを一時間取った後、午後一時から午後三時まで、一度休憩して更に午後五時まで集中的に宿題をこなしたら、明日の午前中には終わりそうなめどがついた。


「じゃあ、祐樹、今五時だからぁ」

「はいはい」

 俺もしたかった。



 次の日も午前八時には駅に迎えに行き、午前九時からお昼過ぎまで宿題をした。少しだけ残ったが、午後には終わるだろう。


「祐樹、もう少しだね。ほらやっぱり今日二十八日で終わるじゃない」

「今だから言えるの」

「でも今回は私の勝ちよ」

 何を勝ったんだ?


 昼食を摂った後、二時間程で全ての宿題を終わらせた。

「終わったーぁ。祐樹この後は?」

 何故かニコニコしている。


「野乃花、期待しているようだけど、兄さんの所にお見舞いに行っていない。二十六日以来なんだ」

「うん、分かった。私も良いよね」

「もちろん、このまえ言った野乃花を兄さんに紹介しようと思って」

「ふふっ、ありがとう」



 俺達は、宿題を片付けた後、電車とバスを乗り継いで、病院に向かった。


 ナースセンターに声を掛けた後、兄さんの病室に行くと母さんと君津川さんが居た。兄さんも起きている。

「兄さん、来たよ」

「祐樹か。その子は?」

「うん、この前言っていた、今俺がお付き合いしている人。門倉野乃花さん」

「初めまして、祐樹のお兄様、お付き合いさせて頂いています門倉野乃花と言います」

「可愛い子じゃないか」

「ほんと、流石祐樹君ね。私は正隆さんとお付き合いしています君津川英里奈といいます。宜しくね」

「こちらこそ宜しくお願いします」

「礼儀正しいし、いい子だな」

「うん」


「祐樹、どういつ帰って来れそう?」

「母さん、三十日の朝には帰れるよ」

「そう、待ってるわね」

「うん」



 病院からの帰り道

「野乃花、今から俺の部屋に来る?」

「もちろん。まだ午後五時だよ。ねえ明日は?」

「明日は午前中掃除して溜まった洗濯もの片付けて、午後から道場に行く」

「じゃあ、道場終わるの午後三時半でしょ。その後は?」

「…………」

 そういう事?


「分かった。じゃあ、午後三時半に道場の外で待っていて。その後俺の部屋に来ればいいよ」

「うん」

 思い切り笑顔になった。


――――― 

 

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