第66話 何故こんな事に
今日も野乃花と一緒に登校している。
「祐樹、もうすぐクリスマスだね。一緒に過ごそう」
「もちろんだ」
「日曜日がクリスマスイブでぇ、月曜日が終業式でクリスマス。両方共一緒だよ。日曜日祐樹のところ泊まろうかな」
「いや、それはご両親が」
「優子の所に泊ったと言えばいいよ」
「ばれたら怒られるぞ」
「じゃあ、その時は祐樹も一緒に怒られて」
「そ、それは」
野乃花が怒られる理由と俺が怒られる理由は真っ向から違う。まだ野乃花のご両親とは会っていない。そう言えば野乃花の家に行った事無いな。
「ねえ、そう言えば、祐樹、私の家に来た事無いよね」
「今、俺もそれ考えていた」
「家に来る。両親に紹介するわ」
「それは良いけど、その後、俺の所に泊まるというのは」
「それもそうか。じゃあ。お正月にしようか」
「あっ、それ良いかも。初詣一緒に行こうか。去年同じ場所に初詣行っているからおかしくないし」
「そうだね。そうしようか」
あっというまに学校に着いた。今日も二人で入って行くと野乃花は手を離して自分の席に行った。
「おはよ工藤。朝から熱いな」
「おはよ小見川。そうか。そう言えば小見川彼女は?」
「まあ、それなりに」
「クリスマス一緒か?」
「まあ、そうだが」
「良かったな」
「工藤に言われてもなぁ」
話をしている内に予鈴が鳴り担任の桜庭先生が入って来た。朝来ると必ず俺の顔をジッと見るが、エロ先生の視線は無視するようにしている。あれ以来何も無いけど。
工藤君と門倉さんが完全に元に戻っている。まったく付け入る隙が無い。どうしよう。クリスマスはどうにかしようと思っていたんだけど。不味いな。お父さんからはせかされているし。なんとかしないと。
私、緑川優子。野乃花が工藤君と元の関係に戻った。野乃花の親友としてはとても嬉しい。
でも野乃花が工藤君と離れている間に毎週の様に工藤君と会ったけど、彼は決して私に手を出さなかった。こちらから野乃花の代りだから構わないよと誘っても断られた。
一度でもしてくれたら、そこからのチャンスも有ったかもしれないけど工藤君の野乃花に対する揺らぎがない気持ちは嬉しかったけど寂しかった。
私に魅力ないとは思っていない。私の体の魅力より工藤君の野乃花への思いの方が強かったんだ。勝負有ったかなぁ。クリスマスは里奈と一緒にするか。
そしてクリスマスイブの一日前、俺は野乃花と一緒にお互いのプレゼントをデパートに買いに行った。
勿論、その帰りは俺の部屋に寄ってした。俺から望んでしている。野乃花も喜んでいるから嬉しい。最近ちょっと内容が濃くなった気がするけど。まあいいか。
そして翌日、日曜日はクリスマスイブ。野乃花は朝から俺の所に来て、二人で料理を作っている。朝二人でスーパーで具材を買ってきた。
並んで料理をしていると言ってもほとんど俺は何もしない。ただ言われた通りに野菜を洗ったりしているだけだ。
そんな時だった。いきなりスマホが鳴った。誰だろうと思っていると父さんからだ。なんだよこんな時に。
「祐樹出ないの?」
「ごめん、父さんからだ。ちょっと出る」
「祐樹です」
「祐樹か、直ぐに東都医療センターに来い。正孝が事故に遭って運ばれた。父さんも今連絡を貰った所だ」
「何だって!分かった直ぐに行く」
「どうしたの祐樹?」
「兄さんが事故に遭って病院に運ばれた直ぐに行く。ごめん野乃花。今日は中止だ」
「えっ!」
祐樹のお兄さんが事故に遭った?!
「後で連絡するから、今は家に帰ってくれ」
「分かった。直ぐに片付ける」
「ごめん」
俺は野乃花を駅まで送ると近くのタクシーに乗って東都医療センターに急いだ。救急受付で名前を言うと今、手術中だという。場所を教えて貰ってそこに急いだ。
急いで行くと手術室前の待合で父さんと母さんが待っている。
「父さん」
「祐樹か」
「兄さんどうしたの?」
「正孝が交差点で待っている時、反対車線を走っていたトラックがいきなり正孝の車に正面からぶつかって。
相手が大きかったので、正孝の車のボンネットと運転席を下に飲み込む様になってしまったと聞いている。
正孝が乗っていた車はボディがアルミでエンジンが後ろにある。フロントのトランクが空だったのが良くなかったようだ」
「命は。死んじゃうなんて言わないよね」
「まだ手術中だ。これが終わらないと俺も分からん」
長い手術だった。三時間近く兄さんは手術室の中にいた。ランプが消えて兄さんがストレッチャーに乗せられて出て来た。マスクを付けて眠っている。父さんが
「先生!」
「一命は取留めました。しかし両足が車に挟まれて。両足を切断しました」
「何だって!息子はもう歩く事は出来ないのか」
「全力を尽くしたのですが。
膝から下が形が無い位潰れていて手の打ちようが有りませんでした」
母さんがストレッチャーにしがみついて泣き崩れてしまった。
「母さん、正孝が休めない。とにかく病室に。先生お願いします」
「はい」
兄が入ったのはこの病院でいくつかある特別室の一つだ。兄がベッドで寝ている。
「今、麻酔で寝ています。明日の朝までは目が覚めません」
「そうですか。どの位で退院出来ます」
「短くても一ヶ月。我々も全力でサポートします」
「そんなに!」
父さんが苦味虫でも潰したような顔で先生の話を聞いている。
「母さん。今日は一度戻ろう。手続きもしなくてはいけない。正孝の着替えも必要だ」
母さんがベッドの横で泣いている。でも父さんの言葉にゆっくりと腰を上げると何も言わずに病室を出て行った。
俺も病室を出ると
「祐樹、お前は一度マンションに戻れ。学校はいつまでだ」
「明日まで」
「そうか。年末は少し早めに帰って来てくれないか」
こんな寂しそうな顔をした父さんを始めて見た。
「うん、分かった」
子供として当然の義務だろう。
俺は父さんの車でマンションまで送って貰うと父さんは
「年末待っている。早く帰って来てくれ」
「分かった」
父さんも母さんも兄さんの事故で相当にショックを受けている。追い出した俺でも傍にいれば嬉しいんだろう。仕方ない事だ。
俺は部屋に戻ると直ぐに野乃花に連絡した。
「野乃花、今帰った所だ」
「大変だったね」
「うん、兄さんは両足切断で一生車椅子らしい」
「えーっ!そんなぁ」
「野乃花、明日学校が終わったら、俺と一緒に病院に行ってくれるか。兄さんの見舞いに行きたいんだ」
「私なんかが行ってもいいの?」
「野乃花だから一緒に行って欲しい」
「分かった」
俺は野乃花との話を終わらせると冷蔵庫の中を見た。調理途中の具が一杯だ。仕方ないか。もう一度野乃花に連絡して
「なあ、野乃花。明日お見舞い終わったら、俺の部屋に来てくれないか。今日調理中だった具材。俺にはどうにも出来ない」
「そういう事なら喜んで行く」
翌日、俺達は登校した。兄の事は一切言わない。皆からクリスマスイブの事を聞かれたが適当に誤魔化しておいた。
終業式が終わった後、俺達は直ぐに学校を出た。一応電車とバスを乗り継げば行ける。俺の住んでいる駅から二つ実家の方に行ってその駅からバスで十五分位だ。
この辺では一番大きな病院。近くに大きな競技場と公園が一体化した所がある。側には大学が有る所だ。
俺は、今日は正門から行くと野乃花と一緒に真直ぐに廊下を歩き左に曲がってエレベータに乗った。五階のボタンを押して右に曲がりナースセンターを横目で見ながら左に回ると兄さんの病室が直ぐにある。
ドアは当然開いているのでそのまま入ると母さんが居た。
「母さん」
「祐樹!」
野乃花をジッと見ている。
「母さん紹介するよ。今お付き合いしている門倉野乃花さん」
「初めまして門倉野乃花です。祐樹さんとお付き合いさせて頂いています」
急に母さんが笑顔に戻って
「そうなの。可愛いお嬢さんね。祐樹の事宜しくね」
「はい」
横目で見ると兄さんは目を閉じていた。
「母さん、兄さんは?」
「さっき治療が終わって今眠っているわ」
「そうなの」
兄さんは昨日とは違って落ちついた顔をしている。良かった。
「母さん。また来るよ。兄さん寝ているから話できないし」
「そうね。お願いするわ」
帰り際にナースセンターで明日は何時から見舞いに来れるかと聞いた所、肉親だし特別室なので朝から大丈夫という事だった。
俺達は病院を出ると俺の住んでいるマンションに向かった。
「野乃花。昨日の続きやろうか」
「うん」
俺は所詮あの家を出された人間。兄さんの事故で落ち込んでいても仕方ない。それより野乃花と昨日できなかったクリスマスをした方がいい。
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