第65話 思い続ける心


 緑川さんと会った日の翌日。俺は午前中、道場に行った。そして稽古が終わる午前十一時半。道場から出ると野乃花の家の前に行った。


 やはり会いたい。野乃花は体が汚れたと言っていたけど、心の繋がりが大切だと付き合い始める時言っていた。それなら会って話せばと思ったからだ。

 二十分程待った時、お姉さんが出て来た。


「工藤君。妹は君に会いたくないと言っているわ。君がここにいると野乃花が外に出れないの」

「そうですか。済みませんでした」



 祐樹。窓から彼が帰って行く姿が見える。本当は会いたい。そして思い切り抱きしめて欲しい。でも私にはそんな権利は無くなってしまった。自然と涙が溢れ出て来た。




 それからというもの、土曜日は緑川さんと会った。何故か彼女が都合が悪いと水島さんが会うと言って来た。

 流石に危険な匂いが一杯な彼女と会うのは止めたいので断ると耳元で


「大丈夫よ。襲わないから。君から私が欲しいと言わない限りね」


 本当かなと思っていると緑川さんも大丈夫よと言っている。何だこの二人は?



 そんな事が二か月間続いた。その間新垣さんからも休日に会いたいとか一緒に帰りたいと言っていたけど、彼女とは図書委員の繋がり以外何も無い。


 だから彼女からのお願いは可哀想だけど全部断った。悲しそうな顔をしている時も有るけど仕方ない。



 緑川さんや水島さんとはそれなりに繋がりが有るし、会う時は野乃花にも伝えていると聞いている。

 でも新垣さんとは何もない。彼女と二人で会うという事は野乃花を裏切る事になる。もし、野乃花との仲が戻った時、それを知ったら彼女が悲しむだけだ。



 道場に行った帰りは必ず野乃花の家に行った。迷惑にならない様に少し離れて見ている。二十分位して出てこないと帰る事にしている。ストーカーとは言われたって構わない。




 今日も稽古が終わった午前十一時半から立っている。もう帰るかと思った時だった。


 野乃花が玄関から出て来た。直ぐに駆け寄った。彼女は逃げない。俺の顔をジッと見ている。

「野乃花」

「祐樹、歩こうか」

「ああ」



 近くの公園に行った。ベンチに座ると

「祐樹、毎週来てくれていたのね。君が来てくれているのは知っていた。嬉しかった。でももう祐樹の隣には居れないよ。君が毎週来ると心が苦しくなる。もうこれ以上私を苦しめないで。…祐樹別れて」


「何を言っているんだ。別れる訳無いだろう。別れる理由なんて一つもない」

「でも、私あんな事されて汚い体になってしまったのよ。私はずっと君しか知らない体で君とずっと一緒に居たかった。

 今は良いかもしれないけど、必ず後になってあの事が思い出される度に二人で苦しむ事になる。だから…」


 いきなり祐樹に抱き疲れた。とても強い力で。


「ゆ、祐樹!」

「野乃花は言ったじゃないか。心の繋がりが大切だって。体が汚れたって言うなら、俺が全部上書きする。今から俺の部屋に来てくれ」


「で、でも。私はあの男達に」

「そんな事良いんだ。野乃花の体からあいつらの記憶を追い出してやる」



 俺は強引にでも連れて行こうとしたけど、流石に手ぶらではいけないと言って一度家に帰ると言った。でも戻って来るか心配で


「いい、そのままでいい。来てくれ」

「でも手ぶらだし。本当に行くから、ちょっとだけ家に寄らせて」



 家に入った野乃花が心配だったけど、五分も経たない内に出て来た。いつの間にかワンピースに着替えて可愛いバッグを持っている。

「いこか」

「うん」




 野乃花を部屋に居れると直ぐに寝室に行った。

「ちょっと待って。祐樹」


 彼女は後ろを向くと

「ジッパーを下げて」


 言われた通りにすると彼女はワンピースを綺麗にたたんだ。

「後はお願い」




 お昼も食べずにずっとした。途中された事を言って貰った。嫌なそして恥ずかしい顔をしたけど、全部同じ事をして俺が全て上書きしてやった。あそこも口で綺麗にしてあげた。彼女も口でしてくれた。


 後ろからもした。全て上書きするように彼女の記憶から追い出す様に何度も同じ事をした。彼女が何度も意識が遠のく様だけど、構わずにした。



 もう陽は落ちている。ベッドで眠っている彼女の体の稜線を指でなぞる様にしていくと

「祐樹くすぐったい」

「気が付いた」

「さっきから」

「お腹空かない?」

「そんな事よりもう一度」

「分かった」



 午後八時になってしまった。

「シャワー浴びようか」

「うん」


 一時間位、浴室に居てしまった。


「祐樹、もう大丈夫だよ。これ以上したら、壊れちゃいそう」

「そうか」



 二人で、お腹空いていたので駅前の中華屋で食べた。彼女の家まで送って行く間に

「祐樹、学校に行く時間変わっていない?」

「うん」

「じゃあ、明日から一緒に登校して良い?」

「えっ、いいの?」

「うん」



 野乃花を家まで送って行った時、お姉さんが出て来た。

「野乃花、戻ったの?」

「うん」

「工藤君、妹を二度と手放さないでね。もし同じ事になったら、私あなたを生かしておかない」

「…………」


「お姉さん」

「野乃花、本当の事よ。分かったわね工藤君」

「はい、もう野乃花とは絶対離れません」

「ふふっ、ありがとう祐樹」


「あと、いくら何でも午後十時半は遅すぎるわ。高校生としての時間を守ってね。前位の時間よ」

「はい」

「じゃあ、祐樹明日ね」

「うん」




 翌日、駅のホームに行くと野乃花が待っていた。

「祐樹」

「野乃花」


 直ぐに手を繋いだ。学校の有る駅に着いてから学校に行き教室に入るまでずっと手を繋いでいた。彼女の存在感を思い切り感じる。


 教室に入ると皆が一斉に俺達の事を見た。野乃花が手を解いて自分の席に行く。直ぐに緑川さんと水島さんが野乃花に近寄って何か話しているけど野乃花は笑顔だ。ちょっと恥ずかしそうな顔をしているけど。


「工藤。戻ったのか」

「ああ、戻ったよ」

「そうか、そうか」

 珍しく小見川が満面の笑みで俺の肩を叩いている。


 門倉さんと工藤君が寄りを戻してしまった。まさかたった二ヶ月で戻るなんて。もっと長いと思っていたのに。作戦の立て直しだわ。卒業までには何とかしないと。



 お昼は、当然野乃花と一緒に食べた。小見川も彼女と別のテーブルで食べている。

「祐樹、明日からお弁当持って来るね」

「助かる」

「私、演劇部止めようと思っている」

「なんで?」

「皆があの事を知ったみたいで、変な目で見る子もいるの。男子なんか変な事言って来るし」

「野乃花がそう思うなら、そうすればいい。毎日一緒に帰れる」

「そうだね」



 野乃花が演劇部を止めたのは翌日の事だった。先輩からは引き留めが有ったらしいが、固辞したらしい。

 休みになると俺の方から野乃花としたいと言ってした。思い切りした。彼女の体の記憶が俺でしかなくなるまでずっとするつもりだ。



 近くになった学期末考査も二人で勉強した。そのおかげか結果も良くて三位に返り咲いた。野乃花は十五位。一緒にやったおかげだ。小見川も二十位だ。頑張ったな。


 俺は、このまま何も変わらず、ずっと野乃花と過ごして行けると思っていた。


――――― 


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