第58話 それぞれの夏休み その一
祐樹と野乃花のちょいイチャです。
―――――
今日から夏休みだ。毎年している事だが、机の上の卓上カレンダーに夏休みの予定を記入した。スマホにカレンダー機能やアプリが有るけど、やはり直ぐに目の前に見えるものがいい。
七月二十一日 ~ 七月三十一日 夏休みの宿題
八月五日 ~ 八月十日 家族旅行 思井沢別荘
八月十六日 ~ 八月十九日 道場夏合宿
まあ、ここまでは毎年の事だ。問題はそれ以外だ。プール、遊園地、買い物と映画、緑川さん達。
日付を決めていない。七月中は、宿題で行けないのでその間に決めて八月行こうという事になっている。
実際、八月は時間が有る様でない。取り辛いと言った方がいい。天気も気になるし。
どうしようかなぁ?
あっ、もう午前九時だ。もうすぐ野乃花が駅に着く。迎えに行かないといけない。俺は、外出着に着替えると直ぐに駅に向かった。
改札で待っていると野乃花が出て来た。薄いピンク色のワンポイントTシャツとキュロットスカート、オレンジ色のかかと付サンダルを履いている。手には大きなバッグを持っている。
「おはよ、祐樹」
「おはよ、野乃花。その大きなバッグは?」
「これは、夏休みの宿題に使う教科書やノートそれにプリント。どうせ今月一杯祐樹の部屋で宿題するから、全部置いておこうと思って」
「そういう事」
「うん」
まあ、毎日持って来て持って帰っては大変だからな。
「ねえ、毎日祐樹の所でお昼食べるから、私の分はお金出すよ。そこのスーパーで買って行こう?」
「いいよ、お金は。生活費は親から一杯貰っている。それより取敢えず一週間分、お昼だけは二人分買うからスーパー入るか」
「うん」
野乃花が大きなバッグを持っている所為で、エコバッグと入りきれなかった分のビニール袋は俺が持つことになった。仕方ない。
部屋に着くと取敢えず、冷凍物と冷蔵物を冷蔵庫にしまい、野菜は野菜室に仕舞った。
「祐樹、仕舞い方上手いね。ほんと慣れている感じ」
「まあ、慣れるよ。一年以上一人暮らししていれば」
「そっかぁ、夏休みは祐樹の部屋に泊りに来ようかな」
「えっ?」
「ふふっ、冗談よ。それより宿題始めよ」
「うん」
野乃花がバッグをリビングのテーブルの横において宿題を出している間に、俺はグラスに氷を入れて冷たい炭酸のぶどうジュースを用意した。
「じゃあ、始めようか」
「うん」
宿題は全教科から出されている。教科書の問題を再度出されたり、不足分はプリントで出されたり、結構な量がある。予定の日にち分ありそうだ。
「ねえ、祐樹。ここどうするんだっけ?」
「これは、周期表からこの元素を見つけて原子量を見れば解けるよ」
「はぁ、化学嫌い」
「そんなことないよ。化学は自然の解明の元だからね」
「祐樹はなんでそんな考え方出来るの?」
「興味があるだけ」
「いいなあ、私も祐樹と同じ気持ちになりたい。祐樹の心の中に住もうかな」
あっ、なんか変な事いちゃった。
「野乃花、なんか顔赤いけど」
「べ、別に。先進もう」
あっという間に午前中が過ぎた。今日のお昼は俺が作った。いつも野乃花に作って貰っては悪いと言ったんだけど、俺が作ったお昼を食べてから言われてしまった。
「明日からやっぱり私が作る」
そうだよなぁ。冷凍チャーハンをチンして乾燥中華スープをお湯で溶いただけじゃあな。
その後も午後三時まで宿題して三十分休んだ後、午後五時半まで宿題をした。結構進んだ。
「祐樹、これなら三十一日前には終わりそうだね」
「どうかな。まだ先が見えないから分からないよ」
「祐樹は考え方が慎重だね」
「いや、根拠の無い憶測はしないだけ」
「ぶーっ、それじゃあ私がいい加減んてこと?」
「そんな事は無いけど」
「もーっ」
うわっ、野乃花が飛びついて来た。
「祐樹、あれは我慢するからここだけ」
目を閉じた。静かに唇を合すと強く吸い付いて来た。思い切り俺の背中を抱きしめている。少しして離すと
「祐樹、ムズムズする時が有る。今もそう。これってあれを体が覚えたのかな?でも我慢しないと駄目だよね。週一回って約束だから」
「俺もしたい時が有るけど約束だから」
「じゃあ、その約束変えちゃう?」
「駄目!」
「祐樹のケチ」
何でケチなんだ。
「じゃあ、今度の日曜は思い切りしよう」
「う、うん」
「何その返事?」
「べ、別に」
「ふふふっ」
何だ、この笑いは?
「いいわ、じゃあ時間だから送って」
今日は金曜日。明後日は日曜日。その時に…。それでいい。
「うん」
野乃花とは午前九時から午後六時までにしている。彼女の家は行った事無いから分からないけど、一応午後六時半位には帰るのが常識だと考えていた。
次の土曜日も一日中宿題をした。確かに予定していた量より早く進んでいる。
そして日曜日は、野乃花が部屋に入って来た時から抱き着いて来た。そして何故か朝からしてしまっている。
今も二人でベッドの上にいる。もう午後一時だ。
「祐樹、八月はどうしようか。私最初はプール行きたい。暑いんだもの」
「そうだな。そうするか」
「それでね。プール終わったら、祐樹の部屋でもう一度シャワー浴びたい。それと遊園地に行った後も買い物して映画見終わった後も同じにしたい」
そういう事?
「まあ、いいけど」
そんなものなのかなあ。俺も嬉しいけど。やっぱりこれって習慣性ってあるのかな?
「行く日は、祐樹が決めて。忙しい人だから」
「分かった」
「祐樹と朝からこうしているなんて想像出来なかったけど、やっぱり夏休みは解放的になるのかな?もう一回しようか?」
「あのお昼は?」
「後で良い」
これってこんなに真面目な子もこういう風になるんだ。最近している時の野乃花は、普段の彼女からは想像もつかない位反応が凄い。今言っていた夏休みは開放的になるからなのか。でも慣れてくるとそんなものなのかも知れない。
夏休みは始まったばかりだ。最初から全開だと、夏が終わる頃には俺はどうなっているんだ。
そしてもう一週間同じように宿題を野乃花と二人で集中的にやったおかげで三十日には、終わらせる事が出来た。野乃花が思い切り腕を伸ばして喜んでいる。
「終わったぁ。祐樹終わったね。これで、後は全部遊べるよ」
「自由研究終わっていない」
「祐樹って意地悪な所あるよね」
「でも、やらないと」
「何にする?」
「俺は読書感想文。簡単でいいから」
「そんなんで良いんだっけ?」
「去年は大丈夫だったよ」
「そうかあ、じゃあ私もそうしよ。何読むの?」
「まあ、普段から読んでいる本で良いんじゃないか?」
「だから何読むの?」
「うーん。今の所、夏休みは長いし、家族旅行に行った時、いっぱい読めるから、少し厚いけど、自然界における左と右って本。ハードカバーでちょっと厚い」
「あの、祐樹。もっと簡単なもの読まない。私ついて行けそうに無いんだけど」
「うーん、じゃあ、暗号解読」
「あの、益々分からなくなったんだけど」
「じゃあ、二人で考えようか」
「うん」
思い切り可愛い笑顔になった。
今日は少し早いけど野乃花を送って行く事にした。
「野乃花、宿題を入れたバッグ俺が持つよ」
「ありがとう。ねえ、明日何しようか?」
「うーん、掃除したいし、洗濯もの溜まっているから」
「じゃあ、私が一緒にしてあげる」
「いやそれは流石に」
「いいの」
結局、翌日野乃花は午前九時には駅に来て、一緒に部屋の掃除をした。流石に洗濯物は恥ずかしくて彼女にやってもらう訳には行かなかったけど。
「野乃花、午後から道場に行きたいんだけど」
最近宿題が優先だったので全然行っていない。
「えーっ、そんなぁ。…でもいいわ。その後、家に来る?」
「いや、流石に汗が」
「じゃあ、一緒にここに帰って来る」
「でも、午後一時半から午後三時半までだから、会っても二時間位だよ」
「それでもいい」
結局、道場の後は、近くの公園で八月の予定を話した後、別れた。本当はもっと一緒に居たかったけど、自分の汗が嫌なんじゃないかと思ってマンションに帰る事にした。しかし、まだ彼女の家に入るにはハードルが高いな。
―――――
文中に出て来る作品の著者は下記の通りです。
自然界における左と右は、マーティン・ガードナー氏の著書です。
暗号解読は、サイモン・シン氏による著書です。
投稿意欲につながるので少しでも面白そうだな思いましたら、★★★頂けると嬉しいです。それ無理と思いましたらせめて★か★★でも良いです。ご評価頂けると嬉しいです。感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます