第55話 私の邪魔する奴は許さない


 私、水島里奈。最近いや遠足の時からやたらと工藤君に近付いて来る新垣美優という子を彼に近づけさせない為、部活に入っていない自由を使って、彼女が彼に近付かない様にさせている。


 そしてその恩恵で私はほぼ毎日工藤君と一緒に帰宅する事が出来る。これは私にとって素晴らしい事。


 今工藤君は野乃花と深い付き合いになっているけど、彼女から聞いた限りでは、まだ彼からは正式に告白されていないらしい。勿論、私は割込むつもりはない。棚ぼたは拾うけど。



 最近、やたらとクラス委員長が私に声を掛けてくる。自分一人でやれそうな事をわざわざ、一緒にやってくれと言って来るのだ。


 じゃんけんで負けて運悪くクラス委員になった私。最初は、委員長も事務的な態度だけだったので良かったけど、最近、何か私を見る目が違ってきている。それと見る位置も。

 はっきりって気持ち悪い。でもクラス委員の仕事だと言われると断り辛い。



 来週木曜日から学期末考査なので来週一杯は図書室が閉まる。そして今日の金曜が工藤君の受付担当なんだけど、よりによって委員長から生徒会に提出しなければいけない資料の作成を手伝ってくれと言われて教室に残っている。新垣さんは図書室に行っている様だ。



「水島さん、この部分の確認をお願いします。元資料はこちらなので複眼チェックの意味も含めてお願いします」

「分かりました」

 こんなの生徒会室にあるPCか自宅のPCでベリファイチェックで打てば簡単に出来るのに、なんで手書きなのよ。



 時間はもうすぐ最終下校時間。本来はこれで終わりはずなんだけど、この残りを考えると終わりそうにない。委員長残りやってくれるのかな?


 予鈴が鳴った。


「委員長、どうしますこの残り?」

「今日中に生徒会に提出しないといけないんだ。だから最後まで頼む」

「えーっ、冗談でしょ!」

「しかし、二人しかいないんだ」

「でも、私この後用事があります」

 新垣さんと工藤君を二人だけで帰す訳には行かない。


「じゃあ、明日出て貰えるかな。生徒会の方には今日話しておく。月曜の朝までには絶対に提出するって。それに俺も来るから」

「明日出るなんて絶対に嫌です!だったら今日中に終わりにします」

 冗談じゃないわ。こんな事で大切な週末を使って堪りますか。




 ふふっ、水島さん、予鈴が鳴っても図書室に来ない。そして、今私は下駄箱で履き替えて工藤君が来るのを待っている。


 この前工藤君は、図書委員の件、話をしてくれると言っていた。だから今日はこの後ファミレスに寄って、いやちょっと洒落た喫茶店に寄って話そうかな。


 あっ、工藤君が職員室から戻って来た。

「工藤君、帰ろうか」

「ああ」


 工藤くんと一緒に歩きながら

「ねえ、この前、相談した図書委員の件だけど、出来れば喫茶店かファミレスで話す事出来ないかな?」

「そうだね。最近、話もしていないからいいよ」

 やったぁ。これで工藤君と時間が持てる。委員長上手くやってくれてるみたいね。



 私達は、図書委員の勧誘の方法を話ながら駅まで来ると

「工藤君、ねえあそこの喫茶店に入らない?」

「えっ、でもファミレスでもいいんじゃ」

「だってファミレスだとうちの高校の生徒もいる可能性あるし。私は見られても全然いいんだけどね」

 これに乗って来れば工藤君は、特定の人がいる。乗ってこなければ、まだ心に決めた人はいない。どっちかな?



「別に新垣さんと一緒に居る所見られてもいいよ。話は図書委員の話だし」

 あらっ、ファミレスになった。私としては工藤君と一緒に居る所を他の生徒に見せつけることが出来る。



 二人でファミレスに入ると直ぐに席に案内された。ちらっと中を見ると、何人かうちの高校の生徒がいた。顔は知らないけど。


 席に着くと直ぐにドリンクバーだけ頼んだ。

「新垣さん、図書委員の話だけど、やはり担当の先生に話して職員会議に掛けて貰った方が良いんじゃないかな」

「職員会議に掛けるって?」

「例えば、一年生の各クラスから一人ずつ出して貰うとか」

「うーん、そうね。そうしようか」

 こんな話早く終わらせたい。


「じゃあ、帰ろうか」

「ちょ、ちょっと待って。今入ったばかりだよ」

「でも図書委員の話は終わったし」

「工藤君、君と少し話したい。最近全然話せなくって」


 俺の目の前で新垣さんが目をウルウルさせながらテーブルに身を乗り出して言って来る。でも俺帰りたいんだけど。


 何も言わずに俺をジッと見ている。仕方ないか。


「分かった。少しだけなら」

「うん、ありがとう」


「工藤君……」

 何を言いたいんだろう?


「私、もっと君と一杯話をしたい。学校だけじゃなくてお休みの日も一杯話をしたい。ねえ、土日会ってくれないかな。偶にでもいい。お願い」

「うーん、ごめん。土日って俺結構忙しいんだ。だから悪いけど会う事は出来ないよ」

「じゃあ、夏休みは?後一ヶ月もすれば夏休みだよね。一日位なんとかなるでしょ」

 参ったなあ。何となく野乃花や緑川さん、水島さんがまた絡んできそう。それに家族の旅行や道場の夏期合宿もあるし。


「あの、まだ先だから予定が見えないんだ。今入れてもキャンセルしないと行けなくなるかも知れない。だからもっと夏休みが近くなったらでどうかな?」

「じゃ、じゃあ。日にちは未定でも会うって約束はして。それは出来るでしょ」


 はぁ、なんか嫌な予感。でも、彼女の今の言い回しじゃあ、断る事は出来なそう。実際予定見えていないし。


「分かった。会う約束はするけど、いつになるかは分からないよ」

「うん。あっ、ドリンク持って来ていない」

「そうだね。取りに行こうか」


―おい、あれって新垣さんだろう。側に居る奴誰だ。

―工藤祐樹、ほら遠足の時、新垣さんに肩を貸してやった奴。

―あーっ、あいつか。この前の運動会でも目立ってた奴だよな。

―なんか、面白くないな。

―そうだな。



 俺は結局新垣さんに引っ張られて午後七時過ぎまでファミレスにいた。


「そろそろ出ようか」

「うん」





 工藤祐樹と新垣美優がファミレスで話をしている頃、


「委員長、もうすぐ終わります」

「俺もだ。早く終わらせて帰ろう」

 何が早く終わらせて帰ろうだよ。お前が遅くまで居させたんだろう。



「委員長、終わった」

「じゃあ、こっちに持って来て。そっちの資料と俺の資料を合わせるから」

「分かりました」


 私が、資料を持って委員長の机の上に置くと委員長は自分が作成した資料と合わせてから

「これ、生徒会室に持って行って来ますからちょっと待っていて下さい」

「何か用事でも?」

「はい」

 そう言うと出来上がった資料を持って生徒会室に行ってしまった。


 なんで私が待たなければいけないのよ。全く。でもまた変な仕事押し付けられるのも嫌だからちょっと待つか。



 委員長が帰って来た。私が座っている席に来ると

「えっ?!」


 いきなり私の上腕を掴んで来た。

「あの、水島さん」

「何?手を離してよ」

 

 両方の上腕を掴まれているので動きようがない。力が全然違うし、身長もこいつのが全然高い。

「俺、水島さんが好きです。だから…」


 いきなり手を引かれて抱き着かれてしまった。

「ちょ、ちょっと」


 腕を後ろに回され腕を背中に回されると思い切り抱きしめられた。

「好きなんです。お願いします。俺と付き合って下さい」

「何言っているのよ。こんな事して好きも何も無いでしょう。とにかく離して」

「いやです」

 

 全く体が動かせない。あっ、こいつお尻に手を回して来た。

「止めて。大きな声出すわよ」

「出してもいいです。もう誰も居ません」


 うわっ、机に体を押さえつけられてしまった。あっ、スカートが。

「お願い、止めて」

「いやです。大人しくして下さい」

 不味い。大事な所に手を持って行かれている。


「お願い止めて」

「だって、水島さん俺の事が好きなんでしょ。こんな事して欲しかったんでしょ」

 あそこ擦るな馬鹿。


「何、馬鹿な事言っているの。あんたなんか大嫌いよ。もしこれ以上したら明日先生に言うわよ」

「えっ?!」

 何だこいつ。こんな事で止めんのか。


 机から体を起こそうとしたところで

「いいです。何でも言って下さい。俺水島さんとしたい」


 不味いな。こんな奴にやられる訳にはいかない。

「わ、分かった。するんならちゃんとした所にしよう」

「ほんとですか!」

「ええ、こんな所じゃいやよ」


 抑えられていた腕が緩んだ。直ぐに体を起こすと委員長の顔をジッと見ながら制服を整えて

「じゃあ、行こうか」

「は、はい」

 もしかして、俺今日卒業できるのかな?



 馬鹿か、こいつ。とにかく校舎を出てしまえばこっちのものだ。


 下駄箱で履き替えると委員長が私の所にやって来た。一緒に校舎を出て校門を抜けた所で彼の正面に立って

「委員長、私ね」


 バシッ!バシッ!


「痛い!」


「ふざけるんじゃないわよ。誰に言われたか知らないけど、あんたなんか大嫌いよ。この事は黙っていてあげるから、二度とこんな事するな。いいな!」


 私は委員長の両頬を平手打ちすると、相手の反応も見ないまま駅の方へ駆け出した。後ろから追いかけてくる様子が無い。


 水島さん行っちゃった。新垣さんが水島さんは俺が好きで俺にされるの待って居るって言ったから。でも全然嘘じゃないか。明日からどうすればいいんだ。





 俺達が会計してファミレスの外に出ると

「「「あっ?!」」」


 なんと、水島さんが学校の方から走って来た。


「ちょ、ちょうど良かった。工藤君、一緒に帰ろう」

「えっ、あ、うん」

「何その返事?」


 なんて酷いタイミングなの。水島さんが現れなければ、もう少し工藤君との関係を詰めようと思ったのに。


「じゃあ、新垣さん今日はこれで」

「あっ、うん。また来週」


 工藤君と水島さんが駅に向かって行ってしまった。委員長の奴どうしたの。上手く行ったんじゃないの?


 あっ、委員長がとぼとぼやって来た。

「委員長、何とかしたんじゃないの?この後、どこかに連れて行くとか?水島さんは君の強い思いを待っているんだよ」

「新垣さん、水島さん。俺の事大嫌いだって」

「それは、水島さんが恥ずかしいからだよ」

「だって、思い切り両方の頬を平手打ちされた」

「えっ、じゃあ、それを理由に強引にすれば良かったじゃない」

「強引にしたんだけど。避けられた」

「強引ってどこまで」

「それは…」

 彼女のパンツに手を掛けてあそこ触ったなんて言えないよ。


「とにかく頑張って。水島さんは君の強引さを待っているんだから。今日なんか作業終わったらキスする位の強気で行っても良かったんじゃない」

「キ、キス!と、とんでもない。そんな事出来ないよ」

「駄目、男は強気よ」

「わ、分かった。また頑張ってみる」

「その気持ちが大切よ。じゃあねえ」


 思ったより、委員長駄目だな。こいつはこのまま動かして、こちらでも手を打たないと。とにかく工藤君にもっと近づきたい。



「工藤君、助かったわ。委員長に無理矢理仕事押し付けられて、今日中に出来なければ明日も出て来いなんて言うのよ。仕方なしやったらこんな時間になっちゃった。ねえ、もう薄暗いから家まで送って」

 本当は気持ち悪くてしょうがない。あいつに私のパンツの上からとは言え、大事な所を触られたし。本当はこのまま工藤君の部屋に行きたいよ。


「まだ、暗くないよ。それにこの季節一番陽が長いし」

「私には暗いの。もし私が帰り道、何か有ったら工藤君の所為よ」

「えっ、そんな無茶な」

「駄目、工藤君の所為。だから送って」

「…はい」


 どう見ても明るいんだけど。


――――― 


投稿意欲につながるので少しでも面白そうだな思いましたら、★★★頂けると嬉しいです。それ無理と思いましたらせめて★か★★でも良いです。ご評価頂けると嬉しいです。感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。


 

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