第54話 周りは賑やかだけど


 今日は金曜日、俺は駅まで行くと野乃花がホームで待っていた。笑顔で挨拶した後、学校の有る駅まで二人で行き、改札を出ると決めた通りに俺、野乃花、緑川さん、水島さんで学校に向かう。


 お陰で誰が俺に一番親しいかなんて分からない。俺の実家の事を学校の生徒に知られてから一週間たった。

 下駄箱の中の封筒は、まだ続いているけど、月、火からすれば随分少なくなった。俺がそれに何も反応しないので、諦めてくれたのかもしれない。


 下校の時は水島さんが一緒だ。勿論野乃花は知っている。火曜日、水島さんから変な事言われたけど、あれ以降は、普通に友達としての距離感を持って接してくれている。



教室に入ると小見川と新垣さんが挨拶して来た。

「おはよ工藤」

「おはよう工藤君」

「おはよ、小見川、新垣さん」



「工藤、朝はまさにハーレムの中心にいるイケメンって感じだな」

「止めてくれ。それに俺はイケメンじゃない」

「何を今更。事実認識が甘いんじゃ無いか?」

「小見川君、工藤君はイケメンじゃないわ。でも私にとって工藤君は大切な人よ。友達としてね」

「そういう言い方もあるんだ」

 俺は小見川と新垣さんの会話を聞きながら野乃花達の方を見ると、何故か不満顔だ。何でだ?



 一限目の中休みになり、次の授業の準備をしていると、新垣さんが小声で話しかけて来た。

「ねえ、工藤君。お話出来ないかな。最近、お昼はあの人達と一緒だし、放課後理由は分からないけど水島さんに邪魔されるし。今日出来れば今日図書室終わった後、ファミレスで話せないかな。図書委員の仲間として?」

「何か話あるの?」

「例えば、どうしたら図書員を増やせるかの相談とか?」


 確かに。今のままでは、来年俺達が受験生になった時、誰もいないと困る事も事実だ。しかし、そんな事、図書委員会担当の先生が考えれば良いんじゃないか。


「お願い、一緒に考えて」

「うーん、それって、毎週ある図書委員会の時話せばいいんじゃ」

「駄目よ。担当の先生、図書運営に興味なさそうだし」

「でも、図書委員会担当の先生だから、責任あるだろう」

「でも、そんな事言っても」


 本当に困った顔をしている。新垣さん、図書室を大切にしているんだ。でもなぁ。


 予鈴が鳴った。

「工藤君、後で」



二限目が終わった中休み、また新垣さんが話しかけてこようとすると水島さんが寄って来た。

「工藤君、今日、図書室終わったら、優子や野乃花と一緒に帰らない?」

「えっ?!」

 新垣さんが反応した。俺の顔をジッと見ている。


「工藤君、もうすぐ学期末考査でしょ。だから野乃花が色々相談したいんだって」


 野乃花とは既にチャットメールで、土日は一緒に勉強する約束をしている。何でこんな事水島さん言うんだろう?


「あの水島さん、今日は工藤君と図書委員の件で相談が」

「そんな事、毎週の委員会の時話せばいいでしょ」

「でも」

「工藤君、細かい事は昼休みにね」


 予鈴が鳴ってしまった。


 私は水島さんが自分の席に戻る姿を見ながら、

 あの人は明らかに私が工藤君に近付こうとするのを邪魔している。間違いない。何とかしないと。



 俺は、昼休み、野乃花から学期末考査一週間前からは部活が休みに入るから、毎日一緒に勉強したいと言われた。


 土日も一緒だから普段は良いんじゃないかと言ったけど、聞き入れてくれなかった。彼女には俺から告白はしていないけど、この子の優しさや、気遣い、ちょっとした時の笑顔とかに惹かれている。


 それに週末は、体を合せている関係だ。だから学期末考査が終わった辺りで心を決めようと思っている。水島さんはともかく、緑川さんからも野乃花を大事にして欲しいと言われているし。


 そんな訳で、午後一番の授業の後、新垣さんに

「新垣さん、今日は、図書室の受付終わったら野乃花達と帰ります。図書委員の話はまた今度にしましょう」

「分かった」


 新垣さんが俺の方を見ている、下瞼に涙が浮かんで来た。彼女はポケットからサッとハンカチを取り出すと下を向いて目元にハンカチを当てていた。そして直ぐに教室から出て行った。


「工藤」

「小見川、仕方ないよ。事実図書委員の仕事は今日でなくても話せるし」

「それはそうだが」

 工藤の判断は理屈的には正しい。でも心情的にはちょっと可哀想な気がする。前ならもう少し工藤と話す時間とか有ったけど、最近は全く無い様だし。俺が心配しても仕方ないんだけど。


 小見川が新垣さんが出て行った教室の出入り口をジッと見ているので

「小見川、新垣さんとは今度話してみるよ」

「ああ、俺もそれが良いと思う」



 予鈴が鳴ったと同時に新垣さんが帰って来た。少し目の周りが赤い。そんなに話したかったのかな?




 放課後になり、俺は急いで職員室に行って鍵を受取り、図書室に行くと常連さん以外に女子生徒が何人か待っていた。今週の月曜日から来るようになった女子達だ。



 俺が図書室のドアを開けると最初に常連さん達が入り、その後、その女子達も入った。俺が受付でPCを起動していると新垣さんがやって来た。そして直ぐに水島さんもやって来た。


 常連さん達は、自分が座る場所が決まっている。図書室の奥の方に座る人もいれば、数人で書棚の直ぐ側に座る人達、窓際で本を読みながら偶に外を見ている人もいる。


 今週から入って来た女子達は、受付の近くに座って、本を読んだり勉強をしながらチラチラと俺を見ている。

一人の子もいれば、数人のグループの子達もいるみたいだ。新垣さん、水島さんもその一人だ。この二人も本を読むか勉強している。


 この雰囲気も夏休み前までだ。休みが明ければもう俺の事も忘れてくれるだろう…と期待している。


 偶に本を借りに来たり、返しに来たする生徒もいるので、俺も勉強しつつ、応対している感じだ。


 今思えば、図書室利用者だった俺が、受付担当している。でもこの作業嫌な気分はない。落着いて出来るし、何よりもここは静かだ。案外向いているかもしれない。




 予鈴が鳴ると常連さんや女子達が、ばらばらと帰って行く。俺も返却された本を本棚へ戻し、閉室処理をしていると、まだ水島さんと新垣さんが残っていた。

「あの二人共。もう閉めますので退室して貰えますか」


 新垣さんが、読んでいたら本をバッグの中に入れて俺をジッと見ながらドアを出ようとしたので

「新垣さん、今度図書委員の事で話そう」

「うん」


 新垣さんが急に笑顔になった。

「工藤君、また来週」


 元気な声を出して出て行った。水島さんも帰り支度が終わって帰ると思ったら俺の所に来て

「工藤君って、たらしだよね。下駄箱で待っているわ」


 なんだたらしって?



 図書室の中をもう一度見て回りドアに鍵を掛けて職員室に鍵を返却してから下駄箱に行くと水島さんしかいなかった。

「あれ、野乃花と緑川さんは?」

「まだ部活よ」

「えっ、でも今日は一緒に帰るって言ってなかったっけ?」

「あれは新垣さん向けよ。あの子、工藤君を何とかしようとしているから、避けさせているの。私と優子は野乃花が大切。だから変な虫が付かない様に君を守るのよ」


 変な虫?新垣さんの事かな?でもあの子そんな風には見えないけど。




 私、新垣美優。ふふっ、今日も寂しく帰るしかないと思っていたら図書室を出る時、工藤君が声を掛けてくれた。

『新垣さん、今度図書委員の事で話そう』って。


良かった。お父さんの気持ちも分かるけど私はその前に一人の女の子として彼に気が惹かれ始めている。だから彼の傍にいる様になりたい。出来れば親密な関係になりたい。そうすれば、お父さんのお願いと私の気持ちを同時に叶えられる。

その為には、水島さんを何とかしないといけない。


――――― 


うーん?


投稿意欲につながるので少しでも面白そうだな思いましたら、★★★頂けると嬉しいです。それ無理と思いましたらせめて★か★★でも良いです。ご評価頂けると嬉しいです。感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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