第53話 人の噂も七十五日のはず


 私、水島里奈。昨日野乃花から、学校の駅からの登校を一緒にして欲しいとお願いされた。

工藤君の事で野乃花に対して発生するかも知れない嫌がらせとかを紛らわせる為だと言っていた。でもそれって私も嫌がらせの対象になるかもしれないって事でしょ。


 だけど、この状況を上手く生かせれば、工藤君は私の手に入る。協力する価値は十分にある。

今、時間は聞いているので工藤君と野乃花の乗る電車の車両違いの所に乗っている。


 車両接続部の窓からドアの側に立つ二人を見ると本当に仲がいい。ちょっと嫉妬心とか芽生えて来そうになる。



 駅に着いて二人が降りると私も少し遅れて降りた。改札を出ると優子が待っていた。

「工藤君、野乃花おはよう」

「おはよう、優子」


 私も後ろから声を掛けた。

「おはよう、工藤君、野乃花、優子」

「おはようございます、水島さん。緑川さんもすみません」

「工藤君、なに敬語使っているの?普通に喋ろうよ」

「でも、登校をお願いした手前」

「ふふっ、工藤君気にしない。さっ、学校に行こうか」


 俺達のすぐ前を緑川さんと水島さんが歩いている。二人共何ともいい匂いをしている。ちょっとドキッとする。明日から後ろを歩いて貰おう。

「祐樹、どうしたの?」

「何でもない」



 下駄箱で上履きに履き替えようと自分の靴入れを開けると

「うわっ」


 ドサドサと可愛い封筒が出て来た。

「なんだこれ?」

「どうしたの祐樹?」

 直ぐに傍に来た野乃花が一つ取ってみると


「あっ、これラブレター、こっちは呼び出し。あっ、こっちもだ」

「ありゃーっ、工藤君一気に有名人になったね」

「緑川さん、勘弁して欲しいよ」


 仕方なしにそれを拾ってから教室に入り靴入れに入っていた封筒を机の上に置いてから席に座ると小見川が

「おはよ工藤。どうしたそれ?」

「靴箱の中に入っていた」

「本当かよ。これはご愁傷さまだな。チーン」

「からかうな。俺に身にもなって見ろ」

「工藤の身にはなれないね。だって俺彼女無しだから」


 あっ、水島さんが来た。

「工藤君、お昼、私達の所で食べよ。この位置だと、廊下が直ぐ側だから君も野乃花も不味いでしょ」

「ありがとう、水島さん。小見川お前も一緒に」

「工藤、勘弁してくれ。流れ弾に当たりたくない」

 流れ弾?何の事だ?



 水島さんが、余分な事を言っている。朝だって四人で登校して来たし、この人、意図的に私から工藤君を引き離そうとしているんじゃ。だとしたら…。



 昼休みになり、野乃花が俺に声を掛けて来た。

「祐樹、水島さん達の所行こうか」

「ああ」



 私が全く無視されている。せっかく、図書委員になって貰って遠足でも大分近付く事が出来たのに。あんな事がテレビで放映されたおかげで水の泡になってしまう。


 私の努力だけじゃ足りないかな。でももう少し頑張ってみよう。容姿だけだったらあの三人には負けないと思う。後は、もう一度彼が私を向く方法を組み立てるんだ。それでも工藤君を振り向かす事が出来なければ最終手段しかない。





 俺は、野乃花と一緒に緑川さん、水島さんのところに行くと

「俺、購買に行って来るから、先に食べてて」

「祐樹、お弁当作って来た」

「えっ、野乃花?」

「当分、購買にも行き辛いと思ったから」

 緑川さんと水島さんはニコニコしている。大丈夫そうだな。


「ありがとう野乃花」

「さっ、食べようか」



 野乃花が作ってくれたお弁当の入れ物は二つある。片方がおかず、もう片方はご飯の上に海苔が乗っている。

 おかずは、鳥唐揚げ、焼き紅鮭、ひじき、出汁巻卵、トマトそれに下にレタスが敷いてある。

「凄い!」

「ふふ、食べて食べて」


 それを見た緑川さんが

「野乃花、気合入っているわね」

「そうよ。初お弁当だもの」


そこに水島さんが割込んで来た。

「でも野乃花、人の噂も七十五日って言うから。お弁当作れるの後二ヶ月半だよ」

「里奈、そんなことないよ。それから後も作って来る。食べてくれるよね祐樹?」

「もちろんだ。こんなに美味しいお弁当は手放せない」

「ねっ、里奈。祐樹もこう言ってくれてるよ」

「はいはい、ご馳走様」




 私、橋本心菜。祐樹という素敵な男の子が居ながら、耕三との気持ち良さに溺れてしまった自分が悲しくて仕方ない。

私もテレビは見た。まさかあの大企業の息子だなんて。もしあんな事をしていなければ、祐樹は私の傍にいた。

 自分のした事が本当に情けなくて悔しくて、また涙が出て来そうになる。せめて、せめて友達位に戻れないかな。何かいい方法が無いかな。



 私、渡辺美月。中学時代に祐樹と付き合っていた時、彼の家には一度も行った事が無かった。私の家には何度も来ていたんだけど。もし行っていればあんな馬鹿な事はしなかった。

 彼が私を自分の部屋に誘わないのは、単純に私に誤解されたくないからだと思っていた。そして私の部屋に居ても手も出そうともしない。それが長い間続いた。


 私は彼にとって魅力が無いのかなと思って高校に入ってから同じクラスで何度も私に声を掛けて来た高田賢二に始めは会話のネタとして相談している内にあいつの部屋に誘われた。


 祐樹は部屋で二人きりの時でも何もしないから同じだろう位の気楽な気持ちで行ったらあいつに体を奪われてしまった。


 そして私に手を出さない祐樹より優しくしてくれる賢二を選んだ。祐樹が高校まで我慢していたなんて知らずに。


 もし、あの時高田に体を許していなければ、今祐樹の隣にいるのは私。本当に馬鹿だな。今、私の周りには誰もいない。余程の事が無い限り誰も話しかけてこない。せめて祐樹と友達になれば、周りの私を見る目も変わるはず。その為にはどうすればいいんだろう。




 放課後になり

 今日は、図書室担当ではないが、朝の事もあり、絡まれるのが嫌なので図書室に来ている。最終下校時間になれば、流石に生徒も少ないだろう。

 三週間後は学期末考査もある。中間の結果は悪かったが、受付にも慣れた。今度は図書室担当でも影響が出る事は無いはずだ。


 そして横には水島さんがいる。彼女は、俺が心配だという事らしい。確かに一人で帰るより良いかもしれない。

 彼女の言葉では無いが人の噂も七十五日だ。来月末には夏休みに入る事を考えればそのまま噂なんて消えてなくなるはずだ。



 工藤君の傍に水島さんがいる。彼だけだったら帰り誘う事が出来た。でも今日は無理そうだ。クラス委員長をそそのかしたけど、どうなっているんだろう。明日は工藤君が受付をする。また委員長に頼んで水島さんの足止めをして貰うか。


 予鈴が鳴った。工藤君が水島さんと帰って行く。



「工藤君、今日から当分、私が一緒に下校してあげる」

「えっ、そんな悪いですよ」

「でも、登校は私と野乃花、優子。帰りは私なら野乃花が嫌がらせの対象になる可能性は低いでしょ」

「そんな事したら、水島さんが」

「いいよ。万一そうなったら工藤君が助けてくれるでしょ」

「えっ、どうやって?」

「簡単よ。私に嫌がらせをした奴らに君が、里奈を苛めたら潰すぞって言えば、もうしないわ。そして君は私の傍にずっといてくれればいい」

「それって?」


「ふふっ、野乃花としたんでしょ。でも私のが先よ。でも彼女にしてなんて言わない。少しだけ親密な関係になってくれればいいわ。君は自由でいていい。野乃花を彼女にするのも勝手よ。いい条件じゃない」

「それは、何と言うか。不味いのでは?」

「じゃあ、野乃花が嫌がらせされてもいいの?私が身代わりになってあげる。だから少しだけ親密になろう」

「…………」


 何を考えているんだ。水島さんは。でもこの考えは乗れない。これじゃあ、心菜と俺を反対にした関係になってしまう。俺はそんな事は出来ない。


「いずれにしろ。当分はこのままでいいわ。無理強いはしない。」



 工藤君が、彼の降りる駅に着いて電車を降りた。急がずに少しずつでいい。彼と親密になればいい。野乃花が失敗したら、自然と私の所に来るように準備するだけだ。


――――― 


 やっぱり、水島さん怖い。


投稿意欲につながるので少しでも面白そうだな思いましたら、★★★頂けると嬉しいです。それ無理と思いましたらせめて★か★★でも良いです。ご評価頂けると嬉しいです。感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。


 

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