第52話 世の中は思い通りに行かない

 


 俺は、野乃花と別れた後、自分の部屋に戻った。シャワーを浴びて、夕食を摂るといつもの様にリビングでテレビを見ながらゴロゴロしていた。


 俺は見なかったけど、あんな番組なんて誰も見ないだろうと高を括っていた。そして午後十時になると寝室に行って眠りについた。



 朝の目覚めは気持ち良かった。良く寝た感じだ。朝食を食べた後、時計を見て午前七時五十分に駅のホームに着く様に考えて部屋を出た。


 ホームには野乃花がいた。いつもの笑顔に心が和らぐと

「おはよう野乃花」

「おはよう祐樹」


 直ぐに彼女が手を繋いで来た。俺もぎゅっと握ると彼女が笑顔を見せた。いつもと変わらに朝に心が和んだ。



 学校の有る駅に着いて改札を出るともう居ない筈の緑川さんが待っていた。

「おはよ、工藤君、野乃花」

「おはよう緑川さん」

「おはよう優子。どうしたの?もう来ないんじゃ」

「野乃花、見なかったの土曜日の午後六時の番組」

「えっ?!」


「工藤君、野乃花を離したら一生君を恨むから」

「あの、何を言っているのか?」

「直ぐに分かるわよ」



 学校が近くなるといつもは感じない視線を感じる。嫉妬とか恨みとかじゃなくて物珍しい物を見ているといった視線だ。


 下駄箱で上履きに履き替えて野乃花と緑川さんと一緒に廊下を歩いていても、変な視線を向けられている。


 教室に俺達が入ると一斉に皆の視線を浴びた。入り口の直ぐ側の自分の席に着くと

「工藤、おはよ。ちょっといいか」

「おはよ小見川」



 俺は小見川の誘いで廊下に出ると

「不味いぞ工藤。女子達が朝からお前の噂で持ち切りだ」

「どういう事だ?」

「お前、自分がでている番組見なかったのか?」

「ああ、あんなローカル番組見ないよ。誰だって見ないだろあんなの」


「工藤。全然知らない様だな。あの番組は、今人気のある芸能人が有名な企業の家族を紹介して見せる番組で人気番組だ。多分クラスのほとんどの人が見ている」

「えっ!それって」

「ああ、お前の想像通りだ。覚悟しておいた方が良いぞ」

「覚悟って?」

「いずれ分かる」


 予鈴が鳴って教室に入ると女子の視線が凄かった。


 担任の桜庭先生が入って来るといきなり俺の顔を睨んだ後、連絡事項を言い始めた。


 一限目の先生も入って来た後、俺を睨んでいる。どうしたんだ。



 一限目が終わった中休み、隣に座っている新垣さんが、

「工藤君、今日どうしても話したいことがあるの。図書室終わった後、一緒に帰れないかな?」

 野乃花、緑川さん、水島さんだけでなく美月、心菜も俺を見ている。他の女の子は何かひそひそ話している。どうしたんだ。


「新垣さん、俺今日は用事が有って」

「そこをなんとか」

 胸の前で手を握り、上目遣いに言って来る。そこに


「新垣さん、今日は前から工藤君と約束しているの。図書室で待っていても無駄よ」

 水島さんが、強い口調で言って来た。


「でも」

「でもも何も無いわ。諦めて。図書委員だってあなたと担当の先生がやればいいじゃない」

「そんなぁ」


「水島さん、何勝手な事言っているか分からないけど、俺は図書委員を辞める気は無い」

「工藤君」


 予鈴が鳴った。


 結構不味いかも知れない。二限目は担任の桜庭先生の英コミⅡだ。何となく嫌な予感。



 俺の予感は外れて普通に授業が終わった二限目の中休み、俺は直ぐに小見川に

「小見川、ちょっと付き合ってくれ」

「ああ、分かった」


 小見川を廊下に連れだすと


「なんか不味いな。なあ、今日は一緒に昼を食べてくれないか?」

「だって、お前門倉さんと一緒だろ」

「だからお前も一緒に居て欲しい。変な奴に絡まれたくないんだ」

「そういう事か。仕方ねえな。今度唐揚げ丼の大盛り奢れよ」

「それでいいなら」

「分かった」



 三限目の中休みは、女子からの視線だけだった。野乃花が不安そうな顔をしている。



 昼休みになり野乃花が寄って来た。

「祐樹、お弁当一緒に食べよ」

「えっ、ここ学校」

「もう、いいでしょ。祐樹」



―ねえ、門倉さん、工藤君の事、名前呼びしたわよ。

―何となくそうかなと思っていたけど

―まあ仕方ないんじゃない。カノポジ争いで主導権握る為なんだから

―今回はそうは行かないわよ。相手が門倉さんでも

―そうよね。



 不味いな。

「小見川」

「分かってる。工藤、門倉さん。お昼食べようか」

「おう。野乃花食べようか」

「うん」


―なにあれ、彼女面して

―今だけよ



 俺達が昼食を食べていると入り口が騒がしくなった。皆が見ている。

「工藤君いる?」


 えっ、あの人。生徒会長の望月奈緒(もちづきなお)さんだ。三年生の人が何の用だ。あっ、俺の所にやって来た。


「君が工藤君?」

「…………」


 俺の顔をジッと見た後、

「私、生徒会長の望月奈緒。覚えておいて。いずれ君とまた会う時が有るから。ではまた」


 腰までの艶のある黒髪を振り返しながら教室を出て行った。みんな唖然としている。

「工藤。生徒会長と知り合いか?」

「全く知らない。何なんだあれ?」

「工藤しか分からないだろう」


 思い切り野乃花が不安そうな顔をしている。

「野乃花、大丈夫だ」

「うん」



―ねえ、工藤君、門倉さんの事、名前呼びしたわよね。

―うん。

―もしかしてもう遅いって事。

―多分。そうかも。

―はぁ、遅かったかあ。


「祐樹、ご飯食べちゃお」

「そうだな」




 午後の授業の合間の中休みは、声を掛けられなかったが、中休みに他のクラスの女の子が何人か見に来ていた。



 放課後になり野乃花が

「祐樹、今日、一緒に帰りたい」

「でも部活あるだろう」

「早く終わらせる」

「分かった。下駄箱で待っている」

「うん」



 私、新垣美緒。不味いな。門倉さん、皆の前で工藤君を名前呼びして自分のポジを確定しようとしている。何とかしないと。



 俺が、図書室の鍵を職員室から借りて図書室のドアまで行くと何故か女子達が一杯いた。手に何か持っている。


 俺がドアを開けて待っていた生徒を中に入れて受付に座ると見たことも無い女子から

「工藤君、これ」


 可愛い封筒を渡された。それが何人もなんて数じゃない。十人以上の女子から手紙を渡された。

 そして俺に手紙を渡した女子達は図書室の席に座ると皆俺を見ている。参った。



 予鈴が鳴り、みんな帰ると思っていると

「工藤君、一緒に帰れない?」

「駄目よ、私と」

「何を言っているの。工藤君は私と帰るのよ」


 仕方なく

「皆さん、もう図書室を閉めます。全員退室して下さい。俺は誰とも一緒に帰りません」

「「「えーっ!」」」


 スゴスゴと女子達が図書室から出て行った。俺は閉室処理をしながら、


 だからあんな番組に出たくなかったんだ。しかし不味いぞ。明日からもこれじゃあ、どうしようもない。



 図書室を閉めて鍵を職員室に返して下駄箱に行くと、まだ何人かの女子が残っている。そしてじっと俺を見てる。これは不味いぞ。野乃花だけここに来るのは不味い。でもどうすれば。あっ、野乃花が来た。


「祐樹、待ったぁ」

「野乃花」

「どうしたの、祐樹」


 待っていた女子達が野乃花を睨んでいる。

「野乃花急いで帰ろう」

「えっ?」

「とにかく帰ろう」

「分かった」



 俺達は急いで校舎を出て校門に向いながら、

「野乃花、変な番組に出たおかげ、悪目立ちしている。明日から、緑川さんと水島さんも朝一緒に登校して貰って良いかな?」

「どういう事?」

「野乃花とだけ一緒に登校すると、後々ちょっと野乃花が不安なんだ。だからそれを誤魔化す為」

「うーん、そんなに不安?」

「何となく。見てこれ」

 俺は、図書室で貰った手紙を見せると


「うわっ、なにこれ?」

「だからそういう事」

「分かった、私から二人に相談するでいいかな?」

「むしろそっちの方がいい」


 駅まで一緒に行き、同じホームに向かった。この時ばかりは野乃花が同じ方向に帰る事に安心していた。



 私は、家に帰ると直ぐに優子と里奈に電話した。ちょっとだけ不安だったけど祐樹が提案した事を二人に話すと心良く応じてくれた。優子は大丈夫だろうけど里奈がちょっと不安。でも今は祐樹の言う通りにした方がいい。



 ふふっ、野乃花から登校を一緒にしてくれる様に言われた。勿論、友達として快く引き受けた。でもこれで下校も一緒に出来る理由が出来た。野乃花と優子は部活。帰りは私だけだ。新垣さんは蹴散らせばいい。


 工藤君と体の関係が有るのは野乃花だけじゃない。これで彼に思い切り近付く事が出来る。もう弘樹との関係は完全に切るか。遊びはおう終わりだ。


――――― 


うわっ、なんか大変そう?


投稿意欲につながるので少しでも面白そうだな思いましたら、★★★頂けると嬉しいです。それ無理と思いましたらせめて★か★★でも良いです。ご評価頂けると嬉しいです。感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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