第51話 知られたくなかった事
週末になった。土曜日午前中はいつもの様に洗濯、掃除の後、スーパーに買物に行った。そして午後一時に野乃花がやって来た。
薄いピンク色のシャツに彼女にしては珍しい膝上のスカート。可愛い黒の靴を履いている。肩には薄緑色のバッグだ。
ドアを開けて玄関に入って来るといきなり抱き着いて来た。
「ちょ、ちょっと」
「祐樹会いたかった」
「昨日の帰り会ったけど」
「それはそれ。休日は別だもの」
彼女の柔らかい肌とお胸が俺の鳩尾辺りに思い切り押し付けられている。彼女はそのまま唇を出して目を閉じた。これって。
「祐樹」
一度目を開けると俺の名前を呼んだ。多分そうなんだろうな。
ゆっくりと口付けをすると思い切り吸い付いて来た。えっ、舌が口の中に。
あーっ、駄目これ。頭がおかしくなる。俺も彼女を思い切り抱きしめると彼女の口の中に舌を入れた。
苦しくなって一度離すと
「どうしたの野乃花」
「ごめんなさい。本当は祐樹が求めて来るまでは我慢しようと思っていたんだけど、ちょっと昨日お風呂に入っている時、あの時を思い出してしまって。だから」
俺も今の事で元気になっていた。
「いいよ。しようか」
「うん」
………………。
嬉しい。初めての時と全然違う。あっ。
凄い、なにこれ。頭の先からつま先まで貫くような感覚。駄目ー!
凄い、今日の野乃花の反応が初めての時と全然違う。どうしたんだろう。あっ、またいった。
連続三回もしてくれた。堪らない、体の中に突き抜ける様なこの感覚。一瞬気を失いそうになる。これがしているって事なんだ。
ふふっ、可愛い寝顔。嬉しいな。でもまさか私がこういう事したいと思う様になるなんて思ってもみなかった。でも祐樹だから嬉しい。あっ、目が覚めた。
「ごめん、寝てしまった」
「ふふっ、いいの。でもこれって怖い。何か溺れて行きそう」
「うん、俺もそう思う。だからいつでもするんじゃなくて、例えば二週間に一回にするとか…」
「やだ。出来れば毎週したい」
「良いけど」
やっぱり女の子ってこういう事好きなのか。野乃花は違うと思ったんだけど。
結局。その後もしてしまった。いつの間にか午後六時になっている。
「祐樹、明日も会いたい。勿論しなくて良い。君の傍にいたい」
「午前中は稽古に行きたいから午後からならいいよ」
「うん」
私は、午後七時半頃、祐樹に家まで送って貰った。
「ねえ、祐樹、明日午前中道場に来るんでしょ。だったらその後、そのまま会わない?」
「でも」
「汗の事は気にしないで。私は祐樹の匂いが好きだから」
「それなら良いけど」
「じゃあ、祐樹、明日ね」
「うん」
祐樹が駅の方に歩いて行くのを見てから家に中に入った。洗面所で手を洗ってダイニングに行くとお姉さんが
「ねえ、野乃花と付き合っている工藤君って子、テレビに出ていたわよ。録画しているから見てみる」
どういう事。工藤君芸能人だったの?
「野乃花、この番組」
番組の名前は華麗なる家族という題名だった。そこに映っていたのは、祐樹にそっくりな父親と兄。色々話をしている。
会社の名前…えっ、工藤ホールディングス。それって工藤グループの持ち株会社。日本だけでなく、海外にもグループ会社を持つ大企業。この会社のコマーシャルはいつも見ている。
あっ、カメラが二階に上がった。子供部屋。ドアに祐樹と書いて有る。部屋の中に後姿だけど見間違いのない祐樹の背中だ。
「お姉さん、これって」
「そうよ、初詣の時から気にはなっていたんだけど。私の就職先でもあるわ」
「えーっ!」
「野乃花。絶対に彼を逃しちゃ駄目よ」
「そんな事言っても」
この番組を見ているのは野乃花だけでは無かった。
「里奈、お前の所に工藤って子がいるって言っていただろう」
「うん、それがどうしたの」
「その子、祐樹って名前か?」
「何で知っているの」
「これ見て見ろ。今出ている」
「えっ?!」
確かに工藤君だ。
「里奈、この子と何とか仲良くできないか。この工藤グループをお客様に持とうとしたんだが、中々門前払いでな」
工藤君が工藤ホールディングスの会長の息子だなんて。野乃花に渡すんじゃなかった。もう弘樹と遊んでいる場合じゃない。あいつとは別れてもう一度工藤君にアタックしないと。
「優子、お前の友達がテレビに出ているぞ」
「えっ、私の友達に芸能人なんていないわよ」
「違うよ。これだ」
工藤ホールディングス会長。何。えっ。祐樹って。それに工藤君じゃない。後姿だけど簡単に分かる。
あーぁ。工藤君の事がバレちゃった。
「美優、早くしろと言っていただろう」
「ごめんなさいお父さん。まさかこんな事が起こるなんて」
「とにかく、早くこの子と付き合いなさい」
「分かった。何とかする」
て言ってもなあ。
工藤君のお父さんの会社は、私のお父さんの大事な取引先。お父さんは私と工藤君をくっ付けて、仕事を上手く持って行こうと考えている。
まあ私は、あの子の妻になれば一生楽できるからいい位に思っていたんだけど。とにかく、門倉さんが邪魔ね。あんまりしたくないけど。仕方ないか。
俺は、次の朝、道場に行った帰り、野乃花と会った。丁度午前十一時半に終わって、汗を拭いて着替えてから道場を出て来たところだった。
「祐樹」
なんかいつもと違う。声が上ずっている感じだ。
「野乃花、どうしたの?俺これから行こうと思っていたんだけど?」
「ありがとう。ちょっと話さない。少し歩くと公園が有るんだ」
「良いけど」
何か違う。どうしたんだ。
少しあるいて行くと、有名な○○ロとかいうアニメに出て来そうな木が生えてる公園が有った。
日差しが掛からないベンチに二人で座ると
「祐樹、私嫌だ」
「えっ?」
野乃花が言っている意味が分からない。
「昨日、君がテレビに出ている番組を見た」
「えっ?!」
「絶対に嫌だ。祐樹は、今のままの祐樹がいい。だからずっとこのままでいて欲しい」
「あの、どうしたの野乃花?」
「見た、見たの。華麗なる家族」
「えっ?!」
あんなローカル番組誰も見ないと思っていたのに。
「でも、あれって小さなローカル番組じゃないの?」
「そういう場面もあるけど、今は有名なタレントも出る人気番組だよ。
私怖い。皆があの番組を見ていたら、祐樹を狙って来る。私と祐樹を強引に引き離そうとしてくる。でも私は祐樹と別れたくない」
「えっ、そういう事。それなら大丈夫だよ。俺は追い出された人間だから」
「祐樹。どういう事?」
「俺の家ではしきたりが有って、次男は十六になったら家を出ないといけない事になっている。
あれは、父さんに言われて無理矢理出ただけさ。勿論、家族の仲はとてもいいから、あのマンションも含め、生活費は全て実家が出しているし、小遣いも使い切れない位貰っている。
でもいくら俺が工藤の家の人間だからって、家や会社を継ぐのは兄さんだ。俺には関係ないさ」
「そうなの。でも心配だよ」
「みんな直ぐに気が付くよ。皆が一時夢を見るだけの話だ。それに俺はずっと野乃花と一緒に居たいんだ」
野乃花が俺に抱きついて来た。
「祐樹、祐樹。今の言葉信じていいよね」
「もちろんだ」
俺達はその後、野乃花の部屋には行かず散歩して別れた。
―――――
ふむーっ。
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