第34話 寂しい日々の始まり
今日は終業式。
ベッドの上で起きる気もない位、気持ちが落ち込んでいたけど、今日行かない訳にはいかない。仕方なくベッドから起き上がると朝食も食べずにマンションを出た。
俺は自分でも分かる位、肩を落として俯きながら学校に行った。駅に着くと心菜が待っていた。
「祐樹、勘違いしないで。私の彼は祐樹だけ。あの人は関係ないの」
「ふざけるな!彼氏が居ながら他の男とラブホに行くような女は近づくな!」
「えっ?!」
俺は、大声を出して居たたまれなくなると駆け足で学校に向かった。下駄箱で上履きに履き替えると教室に入って自分の席に座った。
「工藤おは…どうしたんだ?」
「浮気された」
「えっ!まさか橋本さん?」
「うん」
俺はその場で昨日スマホで撮った写真を見せた。
「うわっ、ほんとだ。何という事を」
周りの皆がざわつき始めた。
私、門倉野乃花。思ったより早かったわね。優子の方を見ると彼女も同じ思いの様だ。里奈も同様。これで邪魔者はいなくなった。でも今はそっとしておいてあげよう。
あっ、心菜が入って来た。皆が一斉に彼女を見る。
「平気な顔して入って来たよ」
「流石、工藤君が居ながら他の男とラブホに行ける女」
「いやね。見るのも汚らわしいわ」
「工藤可愛そう」
「いくら何でも早すぎないか。まだ三ヶ月も経っていないんじゃ」
「そうだよなぁ」
心菜がその声を聞いて教室を出てどこかに行ってしまった。優子と里奈に声を掛けると
「多分、保健室でしょ」
「今日は終業式だけだから良いんじゃない」
「でも、様子見に行った方が」
「野乃花は優しいね。でも今はよした方が良いと思うよ。終業式終わってからでも良いんじゃない」
「そうか、そうしようか」
工藤君を裏切ったのは許せないけど、心菜は友達。理由だってほとんど分かっているからあまり怒る気にもならなかった。ただちょっと早いなと思ったくらい。
私は、教室に入ろうとした時、クラスメイトからの異様な視線を感じた。教室に入れずに留まっていると、私への非難の声が聞こえて来た。
『流石、工藤君が居ながら他の男とラブホに行ける女』
『いやね。見るのも汚らわしいわ』
その声に教室に入る事を留まった私に向けられた祐樹からの視線。それが限界だった。私は教室に入らずにそのまま保健室の駆け込んだ。ドアを開けると
「どうしたの?そんなに息を切らせて」
「わ、私、私…」
「落ち着いて。とにかく椅子に座りなさい」
何も言えずに保健の先生に言われた椅子に座ろうとして躓いてしまった。
「あら、あら。分かったわ。少しベッドに横になっていなさい」
涙目になりながら目の前に有るベッドにうずくまる様に横になると思い切り泣いた。カーテンが閉められて
「先生、少し出て来るから」
そう言うと私だけになった。
なんで、なんで。私は祐樹が好き。大好き。耕三は、久しぶりに会いたいって電話を掛けて来た。本当はいけないんだろうけど、私の心の中の何かがあいつに会いたいと言っていた。
だから、その日の夜に祐樹に家の用事が有ると言って日曜日会うのを断った。そして耕三と会った。自然とラブホに行ってしまった。
その後も耕三と会った。考査の終わった日だ。考査が終わるまで祐樹としていなかったからあいつの誘いに乗ってしまった。
でもその週の日曜日、祐樹と会ってした。やっぱり何かが物足りない。でも祐樹といるのが良いと思った。
そしたら、また耕三から連絡が有った。土曜日なら祐樹は部屋の掃除や稽古だからこっちに来ることはないと思い、耕三と会った。
祐樹は素敵、でも耕三は私を夢の中に連れて行ってくれる。明日はクリスマス。だから、これが最後と思って会った。
そうしたら耕三とラブホから出て来た所で祐樹と会ってしまった。あり得ない。なんで。
私は祐樹が好きなのに。
涙が止まらなかった。廊下でガヤガヤ賑やかな声が聞こえる。今日は終業式、多分、体育館から皆戻って来たのかも知れない。
でも教室には戻れない。とにかく担任の所に行って通知表貰わないと家に帰れない。急いで職員室に行ったけど担任は居なかった。
仕方なく教室に近付いてドアを開けようとしたところで後ろから声を掛けられた。
「どうしたの橋本さん。教室に入りなさい」
「はい」
まさか、先生がまだ教室に入っていなかったなんて。仕方なくゆっくりとドアを開けて中に入るとクラスメイト全員が私の方を見た気がした。
でも良く見ると、一瞬だけこちらを見た後、皆隣の席の子と話を始めた。最初から見ていない子もいるっていうか、相手にされていなかった。
直ぐに自分の席に着くと、周りの子は誰も私の方を見ない。下を向いてぼーっとしていると先生が
「橋本さん、通知表を取りに来なさい」
「えっ?!」
皆が笑っていた。
全員が教室を出て行ったけど、私は立てずにいた。もう誰も居ない。仕方なく一人で帰ろうとすると
「心菜、帰るよ」
野乃花と優子、それに里奈が居た。私は机に顔を付けて思い切り泣いた。
「はぁ、そんなに泣くんだったら、何で工藤君を裏切ったの?」
「我慢出来なかったの?」
「心菜、とにかくもう教室出ないと」
「うん」
駅まで四人で帰った。
「心菜大丈夫?来年登校する時は、もう泣き顔で来ちゃ駄目よ」
「ありがとう野乃花」
「じゃあね」
私達は、肩が地面に着くのではないかと思う位落ち込んだ心菜の後ろ姿を見ながら
「なんでだろうね?」
「でも予定通りでしょ」
「いやあ、流石に三ヶ月は。せめて半年は持つと思ったんだけど」
「ふふっ、最初から分かっていた事よ」
「里奈、何か知っているの?」
「優子も野乃花も知らぬが仏よ。そういう事」
優子も野乃花も経験がない。でも私と心菜は知っている。それが心菜の今回の敗因。私は、優子と野乃花が失敗した時に彼を救い上げればいい。既に彼とはしている。それだけの事。
さて、工藤君、どう出るのかな?
私、渡辺美月。高田賢二とは二学期に入ってから一緒に帰ったり休日に会ったりしていない。向こうから声を掛けられなくなった。そしてあいつは、他の女の子と毎日一緒に帰るようになった。
そんな状況になってもクラスメイトからは前の様に声を掛けられることはなかった。だから今日も一人で帰っている。
あいつは最初から私の体だけが目的で近付いて来た。途中で薄々気付いたけど、もう切り離す事が出来なかった。そして今の状況。
自分が如何に愚かだったか、嫌という程思い知らされた。周りから見れば私は賢二の性のはけ口でしかなかったんだ。
そんな事を周りは知っているから、あいつと同類と見なされ離れて行った。少しだけ、本当にほんの少しだけ冷静に考えれば分かったのに。
一人で駅に向かっていると目の前を、忘れる事の出来ない後姿が有った。それも一人。今日はクリスマス。一人で居るはずが無いのに。
私は急いで近寄って声を掛けようとしたけど…出来なかった。彼の肩が震えていたからだ。
祐樹どうしたの?
―――――
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