第33話 俺は自分の目を疑いたい
昨日の日曜日、心菜には会えなかったけど、今日は月曜日。学校の有る駅の改札の傍で心菜が待っていた。付き合い始めたその日から、学校には一緒に登校する事にしている。
「おはよう祐樹」
「おはよ心菜」
彼女がすっと俺の手を握って来た。俺は彼女のバッグを俺のバッグと一緒に持って学校に行く。
「心菜、家の用事は済んだの?」
「うん、大体ね。ちょっとだけ残ってる。でも日曜日は会えるよ」
「そうか良かった」
「ねえ、今週金曜日から学期末考査でしょ。また一緒に図書室で勉強しよう」
「おう、もちろん」
それから、放課後は木曜まで二人だけで一緒に図書室で勉強した。勿論、緑川さんや門倉さん、水島さんは居ない。学期末考査は金曜日から土日を挟んで水曜日までだ。
途中の土日はいつもの様に土曜日は自分の時間で使って、日曜日は心菜と会った。流石に考査中だったので一応勉強が終わった後、一回だけした。
心菜は不満顔だったけど、明日からまだ三日もある。流石にこれで疲れる訳には行かない。
いつもの様に午後五時にマンションを出て送って行った。
そして水曜日、学期末考査が終わったので、心菜は俺の部屋に来ると思っていると
「祐樹、今日は用事があるの。だから駅までね」
「分かった」
家の事がまだ少し残っていると言っていたからそれが理由かな。残念だけど仕方ない。
その週末はいつもの様に土曜日は自分の時間に使って、日曜日は心菜といつもの様に過ごした。
そして次の週の火曜日、学期末考査の結果が掲示された。朝、心菜と一緒に見に行くと
「工藤凄いじゃないか。五位かよ。頭下がるぜ」
「小見川も一緒に勉強会するか?」
「いや俺は止めておくよ。流石にお前達の雰囲気には入れない」
「そうか」
心菜が順位表を見ている。でも彼女の名前はなかった。
「心菜、おかしいな。あれだけ頑張ったのに」
「ううん、仕方ないよ。また一緒に頑張る」
「うん」
二人で、教室に入って自分の席に行くと前田が俺の所にやって来た。
「工藤、ちょっと良いか?」
「ああ」
前田と一緒に廊下に出ると
「工藤、橋本さんとは上手く行っているのか?」
「行っているけど、なんで?」
「ここだけの話だが、俺が俺の彼女と一緒に先週の水曜日、考査が終わった日だけどデパートのある街でデートしてたら、橋本が知らない男と歩いていたんだ」
「えっ、それほんと?」
「お前に嘘ついてどうするんだよ」
「そうだよな。教えてくれてありがとう。本人に聞いてみるよ」
「そうか」
それから俺は何知らぬ顔で自分の席に戻った。俺が席に居なかった所為か、心菜は来ていない。
前田が嘘つく理由はない。本人に聞いてみるか。
お昼休み、心菜と一緒にお弁当を食べながら
「なあ、心菜。怒らないで聞いて」
「内容によっては怒るかも。うそよ、なあに?」
「先週の水曜日、考査が終わった日、心菜家の用事が有るって言って帰っただろう。でもその日、デパートのある街で知らない男と君が歩いていたって聞いたんだ」
「えっ、誰そんな事言うの?確かにあの時は親戚の人と買い物に行ったけど」
「そういう事。じゃあ、良いんだ」
「ふふっ、焼き餅焼いてくれたの。嬉しいな。それよりもうすぐクリスマスだよね。一緒に過ごそう」
「もちろんだ」
そして週末の土曜日、俺は自分の時間を過ごして、日曜日はいつもの様に心菜と過ごした。俺もあれにはだいぶ慣れて来て余裕をもって心菜と向き合う事が出来た。彼女も喜んでくれている。
再来週の月曜日は終業式、いよいよ冬休みだ。そしてその日はクリスマス。俺はこんなに嬉しく時間を過ごした事が無かった。美月の時は、こんな感じじゃなかったから。
そして翌週土曜日、今日は稽古が無い。だから午前中に洗濯掃除、それにスーパーの買い物も終わらせると、心菜のクリスマスプレゼントを買いにデパートのある街に行った。
午後過ぎたばかりだから賑わっている。俺は〇ックで簡単にお腹を満たした後、デパートに行こうとして
えっ、心菜が俺の知らない男と手を繋いで歩いている。それも恋人繋ぎ。どういう事。
あっ、行ってしまう。
俺は気になって追いかけると
嘘だろ。なんで!
心菜がその男とラブホに入って行った。その状況に頭が真っ白になり、膝が崩れて涙が出て来た。
やっと出来た彼女なのに……。
どの位経ったのか分からないけど、周りの人が俺を避ける様に歩いて行く。コソコソ何か話している。
もしかして俺の見間違いかも知れない。俺はスマホを出して直ぐに心菜に電話した。
出ない。もう一度電話した。ずっと呼び出し音が鳴っている。出ない。仕方なくそこから帰ろうとすると、折り返しの電話が有った。心菜からだ。
「もしもし、祐樹どうしたの。あっ」
「心菜、今何処にいるの?」
「家だよ」
「今心菜の家に行っていい?」
「ちょっと立て込んでいて。あっ」
「心菜、何かしているの?」
「うん、ちょっと。あっ、ちょっと待って」
心菜は家には居ない。俺はそう思って、心菜の発信先をスマホで確認した。
ここだ。
「あっ、ごめん。今来られても困るから、夜電話するね」
切られた。
心菜が浮気していたとしても証拠がない。今の電話でもそうだけど、誤魔化されても仕方ない。だから俺は近くの喫茶店で待つことにした。
紅茶を飲んで
もう一杯紅茶を飲んで
コーヒーを飲んで…美味しくない。
今度は炭酸ジュースを飲んで
もう三時間半も待っている。お店の中は混んでいる訳では無いので俺が注文している限り問題ないんだろう。
そして五杯目を注文しようとした時、心菜と男が出て来た。俺は直ぐに会計して表に出た。
直ぐにスマホでラブホバックに心菜達の姿を撮ると近寄って
「心菜、どういう事だ?」
「あっ、祐樹。これは…」
「心菜、こいつ誰だ?」
「耕三喋らないで。
祐樹これは誤解なの。私が好きなのはあなただけ。信じて。この人とはちょっと間違って」
「心菜、何言ってんだ。もう中学からの付き合いだろう。もしかして、こいつがお前の彼氏か。お笑いだな。祐樹とやら、お前じゃ心菜は満足出来ないんだとよ。おっと、巻き添え食いたくないから俺は一人で帰るわ」
「えっ、待って耕三」
俺は、耕三という男の言葉に更にショックを受けた。中学からの付き合いって。じゃあ、あいつと付き合っていながら、俺に告白して付き合ったのかよ。ふざけんな!
「心菜、別れよう。さよなら」
「えっ、祐樹待って」
耕三も祐樹も帰っていちゃった。でもなんで祐樹がここにいたんだろう?言い訳考えないと。
俺は、マンションに帰ると何故か無性に風呂に入りたくなった。風呂を洗ってお湯を溜めると、体を何回も洗ってそれから湯船に入った。湯船に浸かっていると、心菜と過ごした思い出が頭に浮かんでくる。涙が一杯出て来た。だから頭まで潜った。
長風呂のお陰で少しくらくらしたが、冷たい水を冷蔵庫から出して飲んでいるとスマホが鳴った。心菜からだ。俺はスマホの電源を切って、そのまま寝室に行った。頭の中が空っぽになっていた。
翌日、心菜が部屋を訪ねて来たけど、マンションの入口で断って入らせなかった。
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