第22話 門倉野乃花さんと一緒



―――――


 今日は八月二十五日、夏休みが終わるまで後六日しかない。全然一人でゆっくりとする時間なんて無かった。今日も門倉さんと会う。午前十時に彼女の家のある駅で待ち合わせだ。その駅まで俺のマンションからでも二十分位しかかからない。


 俺は、朝食を摂った後、簡単に部屋の掃除をして部屋を出た。考えて見ると門倉さんと会って何するか聞いていない。会いたいと言われたから会いに行くだけだ。


 彼女が何か考えているなら良いけど、何も考えて無ければどうしようかな。会ってさよならなんて言えないし。まあ会ってから考えればいいか。


 駅には午前八時四十五分に着いた。この駅は俺の通う空手の道場のある駅、時間も正確に来ることが出来る。

 しかし、今日は曇っているな。何か雨降りそうな予感がするけど。その時はその時だ。


 のんびり待っていると門倉さんが歩いて来るのが見えた。白い半袖ブラウスに淡いオレンジのスカート。可愛い彼女らしくとても爽やかだ。


「工藤君、待ったぁ」

「いや、さっき来た所。ここは道場のある駅だから正確に来れる」

「そうか、そうだったよね。ところでね、今日って何をするか決めて無かったよね」

「うん」

「だから…どうしようか?」

 

 俺は一瞬滑りそうになった。何かしたいと言うのかと思った。

「私は、工藤君と一緒なら、何しても良いんだ。例えば…君のマンションに行ってお話しても良いし、私の家に来てお話しても良いし」

 なんか、意味有っての言い様なのかな?


「うーん、どうしようかな。俺のマンションに来ても何も無いしなぁ。ゲームとかしないし。映画でも見に行く?」

「そうだね。それから食事してそれからまた考えようか」

「じゃあ、行こう」



 ここの駅からだと九つ目の駅になる。ちょっと時間が掛かるけど問題ないか。夏休みも終わりに近いのか、電車が空いていた。二人で乗ると並んでシートに座った。


 電車に乗って並んで座ったのは良いけど、やはり会話がない。この子とはプールでナマお胸を見てしまって以来、変に頭の中に残ってしまっている。でも今日はそれを忘れないと、変な誤解を招いてしまう。


 俺が黙っていると

「工藤君の夏休みってさ、私や優香、それに里奈と心菜とプール行ったでしょ。どうだった。私はちょっと恥ずかしい事になっちゃったけど」

 最後の言葉言わなくて良かったのに、思い出しちゃうよ。


「うーん、皆楽しかったよ」

「それだけ?誰が一番良かったとか無いの?」

「それって、一緒に行ってくれた人に失礼だから甲乙つけないよ」


 まあ、本音言うと緑川さん、橋本さんは胸ギュウギュウ押し付けられて、水島さんはナマお胸見ちゃったし、門倉さんも胸ギュウギュウとナマお胸見ちゃったから。そういう意味では門倉さんが、一番インパクト有ったかな。でもそれって良い悪いって話じゃないし。

 あっ、橋本さんには告白されているんだ。これは関係ないか。


「そうかぁ、夏休み工藤君争奪戦は決着つかずか」

「俺の争奪戦?何それ?」

「その通りよ。皆君と仲良くしたいと思っている。私も同じ」

「ちょっと意味分からない。皆と仲良くしているつもりだけど」

「ふふっ、工藤君ってなんかフェミだよね」

「…………」

 彼女の言っている意味が分からない。


 デパートある駅まで後三つ。また会話が続かない。小見川とだったら色々話せるけど、女の子相手だと何を話していいか分からない。


「工藤君、映画何見ようか?」

「うーん、取敢えずフロントに行ってから考えようか?」

「そうだね」


 俺達は改札を出ると直ぐ右に折れて映画館のある方へ歩いて行った。フロントに着くと二人で上映している映画の掲示を見た。

この前橋本さんと来た時は、火事の映画だったから別のが良いなと思っていると


「ねえ、工藤君、あのバスケのアニメ見ない。流行っているらしいよ」

「あっ、俺もちょっと興味あった。あれにしよう」

「うん」

 良かった、別の映画になって。


 チケット買う為にチケットの自販機に行ってフロアシートマップを見ると、直近の上映では、空いている二つ連続のシートが無かった。

「どうしようか。次見れるのって三時間後だよ。それ見終わるともう午後四時になってしまう」

「そうだね。諦めようか」


「じゃあ、せっかく来たからウィンドウショッピングでもする?」

「いいけど」

 俺、そういうの苦手。目的なしにダラダラ見るの。でも彼女がそうしようと言っているし、俺から案ないから仕方ないか。


「ふふっ、止めようか。ねえ、せっかく会ったんだし、お昼には早いから、公園でも散歩しない」

 嫌だって顔に出たかな。でも公園の散歩の方がいいや。


 俺達はそのまま、近くの公園に行く事にした。この前橋本さんと一緒に行った所だ。階段を降りて池に沿ってゆっくりと歩いていると


ポツリ、ポツリ、ポツリ、


「あっ、雨だ。門倉さん、あの東屋に行こう」

「うん」


 二人で急いで行くと他の人達も逃げ込んでいた。

「降って来ちゃったね」

「そうだね。雨やむまで待つしかないか」

「うん」


 十分待っても二十分待っても止みそうにない。諦めて走り出す人もいる。

「工藤君、待っていても止みそうに無いから、今度小降りになったら走って行こうか」

「そうしよう」


 それから五分程して雨が小降りになった時、二人で急いで走った。何とか、建物の近くまで来たけど結構濡れてしまった。


「結構濡れちゃったね」

 門倉さんの方を見るとシャツが濡れて結構下着が透き通っている。不味い、この前と同じ目に合いそうだ。直ぐにポケットからハンカチを出すと彼女の方を見ない様にして

「これで拭くと良いよ」


 シャツが濡れて薄くブラが見えてしまっている。工藤君は私の胸と縁があるのかな。ハンカチ出してくれたのも拭いて隠してって意味だろう。ほんと優しいな。


 簡単に拭いてから私のハンカチで首から胸辺りまでを隠すと


「工藤君、ハンカチありがとう。こうして居れば大丈夫だから。洗って返すね。どこかで乾かそうか」

「洗うのはいいよ。今日もまだ使うかも知れないし」

「そう、ごめんね」

「気にしないで」



 俺は、彼女の方を振り向くと刺繍の入った可愛いハンカチが首元から胸元へ掛かっていた。良かった。

「そうだね。ここからだとお店の軒をそのまま伝っていけるから駅の近くの喫茶店でも入ろうか。そこで乾かそう」

「そうしよ」


 俺達は、改札の少し手前のコーヒーショップに入った。

「ここで食事でもして渇くまで待っていようか」

「うん」


 俺達は、そこで食事をして更に三十分位待ったけど雨は一向に止みそうにない。どうしようかな。流石にこれ以上ここにいるのは悪いし。


「ねえ、工藤君、せっかく君と会えたのに映画も見れないし、散歩も出来ないけど、もし出来るなら…君のマンションに行って話ししない?私の家より近いし」


 うーん、どうしよう。あまり女の子を部屋に入れたくないんだけど。でもこのままじゃあどうしようもないか。もう帰ろうなんて失礼だし。


「いいよ、駅前のコンビニで傘買っていこうか」

「うん!」

 やったぁ、これで工藤君の部屋に行ける。もう少しだ。


 なんとか、シャツが透けない程度に渇いたので俺達はコーヒーショップを出た。まだ雨は降ってる。


 俺のマンションのある駅まで、やっぱり会話は続かなかった。俺の部屋に来ても会話できるのかな?


 途切れ途切れに会話しながら俺のマンションの有る駅まで来て一緒に降りると駅の傍のコンビニで傘を一本だけ買った。彼女曰く二本買うのは勿体ない、二人で入れば良いよという事だ。


 コンビニで買った一本の傘に二人で入ると結構しっかりとくっ付かないと肩が濡れる。

「門倉さん、少し早足で歩こうか。やっぱり一本だと二人共濡れてしまうから」

「そうだね、そうしよう」


 傘から出ない様にする為か、彼女が俺の腕を手を掛けたけど仕方ない。駅から五分だから直ぐマンションに着いた。

「結構きついなあ。工藤君は大丈夫?」

「俺はこの位なら」

「そうかあ」


「あの、門倉さん、流れでこうなっちゃたけど、ほんとに良いの俺の部屋に来て?」

「良いけど、なんで?」

 たぶん、あれを気にしているんだろうな。まあ男の子だからね。でもそうなれば工藤君争奪戦は私の勝利。かえって嬉しい。


 俺は、部屋まで門倉さんを連れて行った。朝掃除しておいて良かった。部屋に上がって貰うと


「うわーっ、広―い」

「そうかな?」

「うん、充分広いよ。ここに一人で住んでいるんでしょ。大変だね」

「まあ、慣れれば問題ないよ」

「そんなものかな」


「あっ、洗面所で手を洗おうか。結構雨にも濡れたし」

「うん、そうだね」


 二人で洗面所に行って並ぶとつい、彼女の胸の所を見てしまった。大分乾いている。良かった。髪の毛は雨で濡れて半渇きになっている。


「門倉さん、タオル使う?髪の毛まだ濡れているよね」

「そうしてくれると嬉しい」

 俺は棚に置いてあった新しいタオルを彼女に渡すと


「じゃあ、俺冷たい飲み物用意しておくから」

「ありがとう」

 工藤君優しいな。やっぱり彼の彼女になれないかな。


 髪の毛をよく拭いてから、リビングに行くと工藤君がローテーブルに炭酸のグレープジュースを用意してくれていた。私は、彼の前に座ると彼をジッと見た。彼が恥ずかしそうにして目を逸らしている。ふふっ、可愛い。でもチャンス。


「ねえ、工藤君」

「はい」

「私ね、まだ男の子とお付き合いした事ないの」

「えっ、だって門倉さん、とても可愛いし、信じられないけど」


「告白してくれる人はいたけど、何か合いそうに無くて断っていた。でもね、私からお付き合いしたいと思う人が現れたの」

 門倉さん何を言いたいんだろう?


「でね、その人は、優しくて、シャイで、背が高くて、頭が良くて、空手を習っていて、強くて私を守ってくれて…」

 うん?どこかで聞いたような。


「その人は、プールで私の胸を見た人」

「えっ?!それって」

「うん、君工藤君。私じゃ駄目かな?」

「で、でも俺なんかじゃ合わないんじゃ」

「合うか合わないかは、お付き合いしてから出ないと分からないでしょ。どうかな?」

 

困ったな。橋本さんの事もあるし。あれ、門倉さん立ったよ。えっ、俺の傍に来た。


「工藤君、もう見られちゃったんだし、いいよ。好きにしても」

「い、いや。それは」

 参ったな。門倉さんかあ。確かに橋本さんよりは抵抗ないし、でも俺、橋本さんに返事しないといけないし。


 あっ、門倉さんが近付いて来た。

「工藤君、しよ」

「えっ?!」


 わっ、倒された。

「ちょ、ちょっと待って。門倉さんの気持ちはとっても嬉しい。でもまだ心の準備が」


ブチュ。


 頬にキスされた。


「ふふっ、本当は唇にしたかったけど、それは工藤君が私とお付き合いしてくれるって言ったらね」



 門倉さんの顔が俺の目の前に有って、彼女の体の温もりを思い切り感じる。頭の中で天使と悪魔が言い争いをしている。


天使-やっちゃえよ。そうすればこんな可愛い女の子が彼女になるんだ。毎日出来るぞ。

悪魔-止めとけ。橋本さんのが良いかもしれないぞ。緑川さんだっていい。早まるな。

天使-今しかないぞ。女の子の気持ちは変わるんだ。早くしろ彼女は待っている。

悪魔-橋本さんの方がいいよ。お前彼女の胸好きなんだろ。緑川さんだっているんだ。


 頭の中で言い争っている天使と悪魔を思い切って除けると


「門倉さん、少し考えさせて」

「考えても良いけど、私を選んで」

「ごめん、分からない」


 やっぱり工藤君は、優子、心菜、里奈から同じ事を言われているんだ。ここは強く出ると嫌われるかもしれない。


 私は工藤君から体を離すと

「分かった。今日は帰るね」

「駅まで送って行くよ」

「ありがとう」



 俺は、門倉さんを駅まで送って行くと改札で彼女と別れた。まだ明るいし、ここから三駅目だ。問題ないだろう。

 しかし、夏休みも後五日しかないのに。頭の中が問題だらけだ。どうしよう。



―――――


投稿意欲につながるので少しでも面白そうだな思いましたら、★★★頂けると嬉しいです。それ無理と思いましたらせめて★か★★でも良いです。ご評価頂けると嬉しいです。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。


 

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