第21話 橋本心菜は粘る
前話からの続きです。
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俺達は、水島さんの一件が有った後もデパートの中を見て回った。橋本さんが中々決めてくれない。俺がどれがいいなんて言える訳ないから黙って付いて行っていると
「工藤君、中々心の襞に触れてくれる物がない。また今度にしようかな」
「橋本さんがそう思うなら良いんじゃないか。急ぎで無い物を無理して買うと後で後悔するって言うのが定番だからさ」
「うん、また一緒に来てくれるかな?」
「いや、それは。俺が付いて来ても役に立たないし」
「そんな事ない。工藤君は私の洋服選びに十分に役立っているよ。だからまた一緒に来て」
「うーん、時間が合ったらね」
「うん。じゃあこの後は、公園でも行かない。少し陽が陰って来ているし」
えっ、まだ、太陽は燦々と輝いていますけど。
「ねえ、ここの近くにある公園に行こう」
なんとかするんだ。
「いいけど」
「じゃあ、決まり」
俺達は、また改札の向こう側にある公園に行く事にした。ここは川べりにも公園があるが、橋本さんは、別の方に行きたいらしい。
公園の入口に着くと俺が先に階段を降りた。ゆっくりと降りてジャリが敷いてある道まで来ると道なりに右に回った。
右手に池がある。丁度道が池の周りに沿って遊歩道の様に回っていて、家族連れや恋人同士かも知れない男女が歩いたりベンチに座ったりしていた。
俺達も池のほとりを歩きながらぼんやりと景色を見ていると
「ねえ、あそこのベンチに座らない?」
「いいよ」
池に向って置いてある木製のベンチに座った。まだ暑いけど池の傍の所為か少しだけ風が流れている。少しだけ無言の時間が流れた。
「工藤君」
「うん?」
「話聞いてくれるかな」
「いいけど」
「私中学の時、好きだった人がいるの。でも片思いで。それからその人は好きだった彼女と別れてから、友達として付き合う様になった。でも結局は上手く行かなくて。高校も別々になったの。
今の高校では、優子や里奈、野乃花達とも仲良くなれたし、いい感じなんだけど。中学の時の事を心の中で引き摺ってしまっていて。
そんな時、私の前に工藤君が現れたの。二人三脚のパートナーとして。そして二人で一生懸命練習して一位になって、皆でカラオケ行ったり、一緒に勉強したり、二人でプールに行っている間に…」
あれ、黙ってしまったよ。どうしたんだ。
「正直に言うね。私…私工藤君の事が好き。勿論異性として」
これって告白のような?
「橋本さん、それって…」
「うん、告白。私工藤君が好き。だから付き合って欲しい」
「…………」
いきなり言われても、全然頭が回らない。だって俺橋本さんをそういう目で見た事無いし。
「あの、俺のどこがいいの?」
「君の優しい所が好き、君の笑顔が好き、プールであんなに無理言ったのに私の我がまま一杯聞いてくれる君が好き。私を守ってくれた君の強い所が好き。君と一緒に居るととても心が温まる。一緒に居て嬉しくなる。だから君の事が好き。付き合って下さい。工藤君」
橋本さんは俺に抱き着いたまま言って来た。流石に目立ちすぎる。
「ちょ、ちょっと待って橋本さん、とにかく離れよう」
「あっ、ごめん」
橋本さんから告白された。女の子から告白されたのは二回目だ。一回目は美月。そして二回目は橋本さん。
俺には橋本さんへの愛情も無ければ好きという気持ちもない。あくまで仲の良いクラスメイト。
「あの、橋本さん。俺は君に対して好きという感情はないんだ。勿論仲のいい友達という気持ちはある。だからこのままでいれないかな?」
「やだ!工藤君の彼女になりたい。思い切り工藤君と触れ合いたい」
「はあ?いや俺はそういう事はまだした事ないから」
「ふふっ、じゃあお試しからでいいから。もし工藤君が、それでも私を恋人として認められないなら諦める。だからお願い。一ヶ月限定、いや二ヶ月限定でいいからお願いお試し彼女にして」
全然意味が分からない。なにお試し彼女って?
「そこまで言うなら考えさせて。二学期入ってからでもいい?」
「えーっ、でも途中でもまた会いたい」
結構来るな。
「夏休み中はもう会う時間が無い。二学期にならないと」
「仕方ないね。分かった」
はぁ、告白したのにこれじゃあ厳しいな。何とかもっと押さないと、こうなったらあの手しかないか。二学期に入ったら直ぐに実行しないと。
俺達は、その後、更に一時間位公園の中を散歩して改札に向かった。橋本さんは別れ際に
「工藤君、お試し期間中でもいいよ」
どういう意味だ。まさかあんな意味じゃないだろうし。
「また今度ね」
「えっ、ほんと?」
「うん」
やったぁ。工藤君に体を許せば、恋人になるのは時間の問題。
それから橋本さんは俺とは反対方向の電車に乗って行った。俺はそのままマンションのある方向の電車に乗る為、ホームに行くと水島さんが、一人で立っているのを見た。
今までどうしていたんだろう。あの時家に帰ったかと思ったのに。でも今は、彼女と会いたく無いし話したくない。だから俺は一本電車を遅らせた。
マンションに着くと直ぐに夕飯の支度…と言っても生うどんをお鍋で茹でている間に長ネギを切って、卵をといて、大目に焚いて小分けして冷凍してあったご飯を一つ電子レンジでチンするだけ。
茹で上がったら麺つゆを温めて、といた卵を混ぜてそれに茹でたうどんを付けながら食べる。まあ、手作りとしてはこれが限界かな。だから高校の学食は重要。
テレビを見ながら長ら食いをしているとスマホが鳴った。画面を見ると水島さんだ。なんだろう?取敢えず出ると
『工藤君、水島です。今話せるかな?』
『今、食事中。後で掛けるからいいかな?』
『うん、待っている』
良かった。もし出てくれなかったり、話したくない無いなんて言われたらどうしようかと思っていた。彼から折り返し来るのを待っていよう。
俺は、水島さんから連絡を受けた後、残りの料理?を急いで食べるとスマホで彼女に連絡した。
『工藤です。さっきはごめん』
『ううん、こっちこそ食事中に掛けてごめんね。あの昼間の事なんだけど』
『昼間の事?』
『うん、私が友達と歩いている時、偶然会ってしまった事』
『あれがどうかしたの?』
えっ、工藤君、気にしていないの?それとも私は眼中にないのかな?
『ううん、何でもない。ねえ、明日会えない?』
明後日門倉さんと会う予定になっている。明日は嫌だな。
『ごめん、用事があるんだ。夏休み中は、もう誰とも会わない様にしている。少し一人の時間が欲しんだ』
夏休み中に会えないなんて。不味いよ。何とかしないと。
『あの、工藤君。宇田川君は私の彼じゃない!友達なだけ』
水島さん、何いきなり?
『でもあの人が、君の事彼女だって言っていたし、付き合っているって言っていたけど』
『あの人は、私と会っている時、私の知合いの男の子と会うといつも同じ事言う癖があるの。信じないで!』
なんでそんなに大きな声で言い訳してくるんだろう。
『そうなんだ。大変だね』
『工藤君、二学期になったら会ってくれない』
『俺は構わないけど。何となく宇田川さんって人に悪いかなと思うんだけど』
『あの人は気にしないで。本当に友達なだけだから』
『分かった。じゃあ二学期明けね』
『うん、おやすみなさい』
話が切れたけど良かった。工藤君とまだ会える。次に会うまでに弘樹と別れないとまた同じ事になる。それに工藤君ともっと仲良くなれる方法考えないと。
俺は電話の後、風呂に入りながら
なんで、水島さんは、あんな事言ったのかな。あの宇田川さんって人と友達なだけだって。前にアウトレットで会った人も付き合っていたけど別れたって言っていた。
別に水島さんが、過去も今も誰と付き合っていようが関係無いんだけど。なんか橋本さんといい、水島さんといい、面倒な感じ。
明後日は門倉さんか、もう疲れた。少し一人で居たいのに。
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