第13話 夏休みになりました工藤祐樹視点


 今日は七月二十一日。今日から夏休み。本当なら好き勝手して楽しむ季節。

 …なのに。俺は机の上に置いてある卓上カレンダーに書かれたスケジュールを見て、もう夏休みは終わった感があった。


-七月二十一日(今日)-七月三十一日 夏休みの宿題

-八月一日 橋本心菜 プール

-八月三日 緑川優子 プール

-八月五日-八月十日 実家(思井沢別荘へ家族で避暑)

-八月十二日 門倉野乃花 プール

-八月十六日-八月十九日 空手道場夏合宿(海)

-八月二十一日 水島里奈 プール


 俺の夏休みはどこに行った!大体何で女子達はプールなんだ?他に行く所いくらでもあるだろうに。

 でもこんなこと考えていても仕方ない。取敢えず宿題始めるか。





 真面目に毎日夏休みの宿題と真正面から向き合ったら、何とか七月三十日には終わった。明後日は橋本さんとプールだ。


 そう言えば、去年まで履いていた海水パンツって合うのかな。洋服ダンスの夏用レジャー用品の入っているボックスを引っ張り出して履いてみると。


 駄目だ、入らない。去年の夏より体が一回り大きくなった見たいだ。仕方ないスポーツショップに買いに行くか。確か学校の近くに有ったな。


 俺は、外出着に着替えると電車に乗った。細かい話だが、休みでも通学定期が有るから助かる。ついでに昼も食べてこよう。



 一人で学校の有る駅に降りて改札から出るとスポーツショップの入っているビルに入った。

 まあ、高校三年間履ければ良いかな程度に考えて店員と相談しながら適当に選んでキャップと一緒に購入した。キャップは念の為だ。場所によっては必須になっている。競泳をする訳では無いからこれも適当なものを選んだ。


 時計を見るとまだ午前十一時。昼には早いと思って同じビルに入っている本屋で時間を潰していると、あれっ水島さんがいる。男の人と一緒だ。

 この前アウトレットで会った男とは違う。とても楽しそうにしている。まあ、俺には関係無いし、邪魔しては悪いと思い、二人に分からない様に本屋を出た。

 

 

 予定外の事が起きて思ったより早く本屋を出てしまった。時計を見ると三十分も経っていない。このままマンションに帰ると中途半端に時間を持て余してしまう。本当は稽古でも有れば良いんだが、今日は休みの日だ。


 さてどうしたものかと思っていると本屋の入っているビルから水島さんと男の人が出て来た。どう見ても俺達より年上だ。


 聞こえないけど楽しそうに話をしている。そう言えば、この前稽古が終わってマンションに帰ろうと思って電車に乗った時、午後四時前に彼女、電車に乗っていたな。俺とは関係けどさ。



 しかし時間がある。どうせ暇だし…。俺の中にいたずら心が芽生えた。良くないと思うのだが、そっと二人を付けてみる事にした。俺相当に悪趣味だ。


 二人は、そのまま電車に乗ると俺のマンションとは反対方向に乗った。俺も一両ずらして乗ると二人は学校のある駅から四つ目のデパートの有る駅で降りた。


 なんだ、買い物でもするのか。一緒にホームに降りたものの、これ以上付けても仕方ないと思った俺はそのまま同じホームの反対側で帰りの電車を待った。


 高架型ホームなので下の通りが良く見える。あれっ、あの二人デパートとは反対方向に行く。何が有るんだ。あっちに公園とかは無い筈なんだけど。


 帰ろうと思いホームで電車を待っていた所でお腹が鳴った。デパートがあるなら、レストラン街もあるだろう。

お昼食べてから帰るか。そのまま俺は改札のあるエスカレータ方向に歩くとそのまま乗って改札を出た。


 デパートに行こうと思ったら結構駅周りのビルの中にレストランが一杯在って、改札の反対側に掲示されている。


 これはラッキーと思い、最近食べて無かったスンズゥブの海鮮を食べる事にした。レストランに入って注文した後、俺の暇な頭の中は水島さんの事になった。


 彼女はアウトレットに行った時、中学校で知り合った彼氏が居たらしい。その彼とはそれなりの所まで行ったというのはあの二人の会話で分かる。

 そしてこの前夕方から出て行く所を電車で見た。そして今日、明らかに年上の人と分かる男と一緒に、この街のどこかに行った。


 彼女の事を考えている内に注文の品が来た。久々のスンズゥブの海鮮だ。真っ赤でグツグツと音をしているスープと海鮮の具をあっちっちしながら食べ終わると、午後二時になっていた。結構探偵ごっことお昼で丁度良い時間を潰せたようだ。


 俺は会計をして店の外に出るとエレベータが混んでいたのでエスカレータに乗ってそのまま降りた。



 一階に降りて出口を出た所で

「「あっ!」」


 思い切り水島さんが手を繋ぎ、それも恋人繋ぎしながら男の人とこちらに入る所だった。俺は邪魔してはいけないと思い、声を出してしまったけどそのまま無視して歩いて行こうとしたところで

「工藤君」

 声を掛けられた。振り向くと


「あの、こんにちわ」

「こんにちわ」

「里奈、誰この子?」

「同じ学校の同じクラスの子」

「ふーん、そう。お腹空いたろう。早くレストランに行こう。予約して有るからさ」


 俺はじっと彼女を見て、繋いでいる手を見るとどうも簡単な関係ではなさそうだと思うと早く二人と別れようと思い

「水島さん、じゃあさよなら」

 こう言ってさっさと改札に向かった。



 私、水島里奈。なんでここに工藤君がいるの。まさか彼とあれした後に会うなんて。どうしよう。この人とは遊び。中学時代に付き合っていた男と別れた後に、習い事の関係がきっかけで付き合う様になった。体は許したけどあくまで遊び。相手もそう思っている。

 工藤君ときちんと付き合えたら別れるつもりだった。だからそれまで分からないでいようと思ったのに。今度会うまでに上手い説明考えておかないと。


「里奈、行くよ」

「うん」

 楽しかった時間が心の中から消えて行った。


―――――


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