第9話 日曜日に水島さんと その二


 私は、今一番会いたくない男が傍に立っていた。


「里奈、デートか。俺程じゃないがいい男じゃないか。可愛がってもらっているのか。お兄さん、こいつ夜の方は積極的だから楽しいだろう」


「やめて!」


「おいおい、何怒ってんだ。事実言っているだけだろう」


 いきなり工藤君が立ち上がった。

「誰だか知らないが、俺と水島さんが楽しい時間を過ごしているんだ。邪魔しないでくれるかな」

「ほう、まだ新鮮な様だな。邪魔したな里奈。夜が寂しくなったらいつでも呼んでくれ。じゃあな」


 そいつは工藤君の肩をポンポンと二回たたいた後、他の男達と一緒に去って行った。

 水島さんがその男の後姿をジッと見た後、急に悲しそうな顔をして


「工藤君、ごめん。私。私…」


 水島さんが顔を両手で多い涙を溢している。場所柄声を出していないけど。急いで俺はハンカチを出すと何も言わずに受け取って目元に当てた。


 少しして泣き止んだけど目元が真っ赤になっていた。

「水島さん、出ようか?」

 何も言わずに頷くとちょっと食べかけが乗ったトレイを手に持とうとしたので


「俺が持つよ」

「ありがと」



 それから俺達はお店を出て、近くに有ったベンチに座った。彼女は何も言わずに下を向いている。俺も何も言わずに隣に座っていると頭を上げた。


「ごめんね。楽しい時間だったのに」

「誰、あいつ?」

「…中学時代付き合っていた同中の男の子。でもあいつの言っていた事は嘘だから。私、彼となんてしていないから。信じて」


 どうして俺にこんな事言うんだろう。別に水島さんが元カレとしていようがしていまいが俺には関係無いだろうに。

 でもちょっとショックだな。あんなガラの悪い男と付き合っていたなんて。俺が黙っていると


「あいつ、最初は普通の男の子だった。親が離婚してから段々おかしくなって。変な人達とも付き合う様になって、それで別れた。それで今の高校に入ったの。あいつは来れるレベルじゃないから安心していたんだけど、まさかこんな所で会うなんて」


 また下を向いてしまった。何が不都合なんだろう。付き合っていて別れただけならこんなにショック受けないだろうに。

 彼女の態度を見ていると、やっぱりあいつとは何か有ったのかな?まあそう思うのが自然だよな。


「工藤君、私、君ともう少し一緒に居たい。せっかく会えたのにこのまま別れるのは嫌だ」

「いいよ。俺もそう思っていたから」

「ほんと!」

「うん」



 それから俺達は、別のお店も見て回った後、水島さんが、あれに乗りたいと言って来た。観覧車だ。このアウトレットが元有名な遊園地の跡地に作られていた事を思い出した。


「いいよ、乗ろうか」

「うん」



 あまり待たずに乗れた。そんなに大きくないから一周は早そうだ。二人で乗ると俺と水島さんは向き合って乗った。


「ふふっ、これ乗りたかったんだ。見て、小さいけど結構高いでしょ」

 窓から見える景色に喜んでいる。良かった笑顔が戻って。


 頂点に行くと

「うわーっ、凄ーい。きれーい」

 彼女が大きく目を見開いて喜んでいる。


 私達が乗ってる箱が一番高い所まで来た。あんな事が無ければここで彼の傍に行ってもっと雰囲気作って、そして上手く行けば…出来たかもしれないのに、あいつのお陰で計画が流れてしまった。でも隣に行くくらいなら。


「ねえ、工藤君。そっちに行くね」

「えっ?」


 ふふっ、隣に座っちゃった。彼の体にちょっとだけ寄り添って

「綺麗だね、乗って良かった」

「…………」

 彼女の体が思い切り触れている。橋本さん程じゃないけど、それでも彼女の胸を感じる位置に座られた。あっ、もっと寄って来た。


「ねえ、工藤君」

「うん?」

 彼女が俺の顔をじーっと見ている。距離にして三十センチもない。これは不味い。仕方なくさっと体を引くと反対側に移った。


「片方だけに乗っていると箱のバランス悪くなっちゃうから」

「そ、そうだよね」

 やっぱり駄目だったか。



 俺達の乗った箱が出発地点に戻ると彼女を先に降ろさせてから俺が降りた。


「ふふっ、楽しかったね」

「うん、良かった」


「工藤君、もう午後三時だけど、もう少し一緒に居たい」

「でも、ここ遠いし。帰りのバスも混むだろうから」

「じゃあ、じゃあ、あと三十分だけ」

「分かった」

 俺達は近くのベンチに座ると



「工藤君、私ね。もっと君の事知りたくなった、駄目かな。図書室の勉強の後の話だけじゃ、足らないの」

 これってどうとれば良いんだ。でもまだ美月と別れて数ヶ月しか経っていないし。俺の勘違いかな?


「だからって、休みの日に君のマンションに行くのは、ちょっと駄目かなと思っている。だから夜とか連絡取れないかな」

「それってスマホの連絡先知りたいって事?」

「うん!」

 そういう事か。でもこの子なら橋本さんより気が楽かも。


「いいよ」

 俺はポケットからスマホを出すと彼女と連絡先を交換した。


「今日からでも掛けていい?」

「うん良いけど。俺結構寝るの早いから午後十時位までならいいよ」

 本当は午後十一時位まで起きているけどその時はベッド入っているからな。


「分かった。私もその位の時間までの方がいい。早寝タイプだから」

「良かった」


 それから俺達は、アウトレットから駅に行くシャトルバスに乗って駅に着くと直ぐに来た電車に乗った。



 電車の乗った後、彼女はじっと考え事をしている様だった。何を考えているか知らないけど俺から話す事も無いし、黙っていると

「来週木曜から学期末考査だね。一緒にがんばろう」

「うん」



 私の家のある駅に着いた。彼はここからまだ三駅程電車に乗る。彼には悪かったけど、とても楽しい時間を過ごせた。

 一緒に買い物して、一緒に食事して一緒に観覧車乗って、キスは出来なかったけどスマホの連絡先は教えて貰う事が出来た。嬉しい。


 でもまさかあいつと会うとは思わなかった。あいつの言っている事は半分本当の事。あいつの両親が離婚してあいつが落ち込んでいた時、雰囲気であいつに私の初めてをあげてしまった。それから何回かしたけど楽しくなかった。だからその後はしなかった。


 もし、工藤君とチャンス有ったら…。でもバレるかな。彼した事あるのかな。あるだろうなあ。あの渡辺美月と付き合っていたんだから。知らない訳ないか。まあ、いいや適当に誤魔化そう。


―――――


書き始めのエネルギーはやはり★★★さんです。ぜひ頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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